2023/11/12
【実銃】実射でわかるワルサー PPK/Sの魅力 【後編】
中型DAオートのマスターピース
WALTHER PPK/S
モーゼルHSc、HK4、ベレッタ84、SIG P230….380ACPを撃つ往年の中型ダブルアクションオートはどれも過去の銃になってしまった。唯一、PPKとPPK/Sだけが生き残っている。ストライカーファイアとショートリコイルを組み込んだ現代のコンパクトオートは、軽くて撃ちやすい。うっかりするとPPKサイズでありながら9mmパラ仕様だったりするのだ。
時代は変わった…それでもやっぱり往年のPPKとPPK/Sには魅力がある。
PPK/S実射編
先月号(2019年7月号)のSIG P238の記事で、「ショートリコイルしない380オートはもう撃てない」と書いたばかりでPPK/Sである。この際、ストレートブローバックの痛みをじっくり味わい直してみるか。
PP系の銃は、古い設計のためにフィーディングランプのアングルが少々きつく、JHP弾ではジャムる場合がある。S&Wの製品では改良されていたようだが、インターアームズではどうだったのか。
弾はAguilaのFMJ(95グレイン)をメインに、先月も撃ったフェデラルのJHP(90グレイン)とウインチェスターのシルバーチップ(85グレイン)、そしてアルミケースのCCIブレーザーFMJ(95グレイン)も加えて行く。
ストレートブローバックのおかげでバネ圧が強く、スライドを引くのも一苦労だ。あらかじめハンマーをコックしないとやってられない。SIGのP238はスコスコ楽に引けたんだけど…といった愚痴はいったん置き、勢いよくスライドを離して準備完了。
先ずはSAで撃つ。トリガーを絞れば、ビシッと手首に響く鋭いリコイル。やはり堪える。しばらく撃てば慣れそうなものだが、コレがずっと不快でどんどん嫌になる。それと、スライドカットが早々に来た。親指の付け根、肉が盛り上がった部分に血がにじむ。右手でも左手でも切れた。注意していても切るんだから、知らずに撃ったら血だらけかも。トリガープルのほうは遊びも頃合いで素直に落ちてくれる。
サム・セイフティで恐る恐るデコッキングして、今度はDAだ。プルはこれでもかってくらいに硬くて粘る。引き始めがガチガチで、その後、唐突にトリガーが動き始める感じ。正確な射撃にはかなりの修練が必要そうだ。
計100発ほどを撃って、ジャムは一切なし。JHPもアルミのカートも綺麗に平らげた。フィーディングに関してはとりあえずは一安心か。それにしても、スライドカットは、以前、手元のPPK(ドイツ製の380口径)を撃った時には発生しなかったのである。PPK/SのほうがPPKよりもテイル部が僅かに長いのにである。もしや、手が太ったのだろうか。
年々、自分の深握りのクセが顕著になっているせいかもしれない。ガンプロの松尾副編の話では、昔のPPKでは切ったが、テイルが伸びた新型では大丈夫だったとのこと。
自分も機会があれば、新型を撃ってみるべきか。無論、たとえ手を切らなくても、絶対に買いはしませんけどね。
2019年のSHOT SHOWでは、ワルサーのブースにちょっとした人だかりが出来たそうだ。同社がS&Wとの提携解消以来、生産を止めていたPPKおよびPPK/Sを見事に復活させたからである。ワルサーによれば、再生産を望む声はずっと途切れなかったらしい。
復活したPPK/Sは、もしかしてテイルの長さが戻ってたりしてと期待したが、さすがにそれは無い模様だ。トリガーにはグルーブも見えず(コレはS&W時代に消滅)、トリガーガードがもっさりと分厚い。さらに残念なのは、リアサイトがスライドと一体式のフィックスドになったのと、マガジンのフィンガーレスト側面の窪みが消えてツルンとしたデザインに変わっていること(ココはS&W時代の後半から変化)。
コレじゃあ全く締まりがない。困ったもんだね。
ポリマー+ショートリコイルの高性能な.380オートが巷に溢れる昨今では、PPK/Sのようなストレートブローバックの.380および.32のDA/SA中型ハンドガンは居場所が完全になくなりつつある。
ベレッタの84シリーズは2013年辺り、SIG SauerのP232も2015年頃にひっそりと消えた。84系もP232も、もしかすると本国では生産販売されている可能性はあるが、少なくとも米国市場には入っていない。もちろんH&KのHK4やMauserのHScはとっくの昔に過去の製品だ。
PPシリーズの大ファンである自分ですら、実際のCCWに選ぶかと言えば、価格面も含めてポリマー銃やらP238やらに気持ちがどうしても傾く。そんな中、PPKとPPK/Sが辛うじて復活を果たしたのは、ワルサーのブランドイメージを背負ったアイコンモデルであり、ボンド映画という最後の砦があるからだろう。それはひとえにノスタルジー、扱いにくいが満足度は高い手巻きのスイス製高級腕時計を愛でる感覚に近い。
意外なのは、復活のPPKやPPK/SはワルサーUSAだけの製品であり、ドイツ本国では扱ってないらしいという点だ。本国のカタログには載っていないのである。推測するに、アメリカはコンシィールド銃への意識が近年非常に高く、この先も需要が見込まれると踏んだのだろう。いずれにしても、民間人がこれほど自由に銃を買える大市場はアメリカ以外にはない。
ちなみに床井さんからの情報では、「ワルサーはずっと以前からもうドイツでは作らず、アメリカからPPKを入れて売っていたんだよね」とのことだ。コレが紛れもない現実なのである。
編集部の松尾副編は、「PPKはもう古過ぎで、実用性能はポリマーのストライカーピストルに敵わないでしょ。でもね、クラシックなPPKは実用とは別の魅力があるので、できるなら2031年まで生産を続けてもらって、100周年を祝いたいと思うわけですよ。1911に続いて100周年になる可能性のある銃は現状ではPPKぐらいですしね」とおっしゃる。
100周年まであと12年…果たしてどうなるか。音を上げるのはボンドが先かワルサーが先かって問題もある。どちらが欠けても存続は難しいだろう。
『僕らが愛したPPK(とPPK/S)』は、できることなら、『ワルサーより愛をこめて』、『PPK(PPK/S)は永遠に』となって欲しいものである。
Photo&Text:Gun Professionals サウスカロライナ支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2019年8月号に掲載されたものです。
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