実銃

2023/05/02

【実銃】米海軍特殊部隊も認めたHK45CT、その設計から細部に迫る

 

Heckler & Koch

HK45

Compact Tactical

 

 

ネイビーシールズも採用したHK45のコンパクトタクティカルモデル

 

 ヨーロピアンガンメーカーは.45ACP対応ハンドガンの開発にあまり積極的でない場合が多い。しかし、ヘッケラー&コッホはP9Sの時代から.45のバリエーションを加え、米国市場へのアプローチを続けてきた。現行のHK45は同社の.45オートの完成形であり、そのコンパクトモデルはNAVY SEALsも採用するなど、高い評価を獲得している。

 

前回はこちら

 

HK45

 

 

HK45 Compact Tactical

 

  • 口径:.45ACP
  • 全長:201mm
  • 全高:140mm
  • 全幅:39mm
  • 銃身長:116mm
  • 照準線長:152.5mm
  • マガジン装弾数:8/10発
  • 重量:826g
  • メーカー希望小売価格: $1,029

 

HK45

 

  • 口径:.45ACP
  • 全長:204mm
  • 全高:150mm
  • 全幅:39mm
  • 銃身長:113.5mm
  • 照準線長:168.5mm
  • マガジン装弾数:10発
  • 重量:885g
  • メーカー希望小売価格: $849


 P30の開発が進む一方で、新型.45ACPモデルの開発も進められ、それが最終的にはHK45となった。しかしこれは当初、全く別の企画として始まったものだ。

 

 2001年11月、H&Kは元デルタフォースのラリー・ビッカーズ(Larry Vickers)と米陸軍特殊部隊出身のケン・ハッカーソン(Ken Hackathorn)の両人を招き、技術者との意見交流を行なった。そこで両人はH&K版1911の製品化の提案をする。H&Kの技術力と設備を持ってすれば、ある程度価格を抑えつつカスタム1911を量産ラインにのせる事ができるのではないかと考えたからだ。

 

 しかしH&Kがこの案に興味を示さぬうちにS&Wなど競合他社が次々と1911の製品化を行ない、完全にタイミングを失ってしまった。そこで今度は評価の高かったUSP45を改良する形で、.45モデルの新型を打ち出していこうということになった。

 

HK45CTのマズル部のネジ(スレッド)を保護するスレッドプロテクター。またMIL-STD-1913ピカティニーレイル中央にはシリアル番号を打った金属プレートがモールドされている。H&Kパーツの専門会社HKParts.netからHK45C専用アクセサリーとしてレイルに装着するアルミ製コンプウェイト(重量94g)が売られている。かなり手軽な後付けコンプだが、本格的に跳ね上がりを抑制するなら同社が出しているマイクロコンプがより効果的だ

 

HK45はUPS45よりもややトリガーガードが小型化されてトリガー先端が接触しないように内側に溝を付けている。ただトリガー先端に指の皮が挟まってしまうのではないか心配もあるし毎回トリガーガード内側に指先が触れるので若干の違和感はある。しかし、HK45Cではトリガーガード内側の形状を変更すると同時にUSPコンパクトやP2000よりわずかに短いトリガーを採用してその溝はなく、違和感もない

 

スレッド分バレルが長いため、HK45の全長をむしろ3mm上回っているHK45CTだが、スライド自体はやはり短いので照準線長が168mmから152mmまで短くなっている

 

 内部構造的には信頼性の高さが充分に証明されていたUSP45だが、最大の弱点は大きすぎる事にあり、ラリー・ビッカーズとケン・ハッカーソンはH&Kにスリム化と操作性の改善を要求した。具体的にはP2000の側面を傾斜させて先細りにしたスライドに注目、高く評価する一方で、P2000で省略されたUSPのコントロールレバーは継続すべきだと主張した。またマガジン装弾数をUSP45の12発から、必要じゅうぶんな10発まで減らす事でグリップのスリム化も提案した。

 

 両人は思い描いたモデルを技術者に理解してもらうようにデジタル画像でグラフィックを作り、プレゼンテーションを重ねて開発を進行させた。同時にP3000(P30)の開発も進んでいたため、両者は兄弟のような関係で全体的に改良点を分かち合っている。

 

 

 

今回登場のHK45は全て基本となるバリアント1(V1)仕様だ。コントロールレバーは水平位置がOFFでファイアポジションとなる。ハンマーの位置に関係なく上に持ち上げるとONとなり、1911系のようにコック&ロックも可能だ。そして水平より下げるとハンマーをデコック機能が作動し、ハンマーを安全に戻すことができる。USPで指摘された問題点として、セイフティを解除する勢いでそのままレバーを押し下げてデコックする恐れがある事だ。それが心配な人にはデコック機能を省いてコック&ロックのみとしたV9/10がお勧め(デコックするときは指でハンマーを押さえながらトリガーを引くマニュアルデコッキングを行なう)。逆にV3仕様のMk 24 Mod 0では左側のレバーにデコック機能のみを残し、コック&ロックはできない。アメリカ市場に売り込むためにH&KはUSPで1911系の操作性を手本とした。その結果、設けられたフレーム側のコントロールレバーは、その位置と操作性が良好だ。それがこのHK45にも受け継がれている

 

トリガープルはこのクラスでは平均的でDAが約4.2kg、SAが約2.1kgだ

 

トリガーリセット距離は8mmで平均的といったところ。GRAYGUNS(グレイガンズ)がカスタムコントロールラッチ、シアロールピン、ファイアリングピンブロックセイフティからなるUSP/HK45用ショートリセットシステムを$85で販売している。リセットとトリガー移動距離を30%短縮しトリガープルを軽量化するというものでLEMにも対応する

 

 2005年の末に米軍がM9を置き換えるJoint Combat Pistol(JCP)プログラムを発表。しかし実はこの1年前にはUSP45の発展型のデザイン案はかなり絞り込まれ開発は進んでおり、JCPのために開発が始まった訳ではなかった。しかし、結果的にはJCPで開示されたトライアルの要求スペックを参考にしてHK45は完成している。

 

 翌年にはJCPはキャンセルされてしまったが、HK45は市販が開始された。そしてこのモデルは2008年に稼働が開始したニューハンプシャー州ニューイントンの新工場で最初に製造されたアメリカ製H&K製品となった。

 

 フルサイズと共にバレル長を4.46インチから3.9インチへと短縮し、グリップも小型化し8連マガジンを備えたコンパクト版のHK45Cも登場、USP45CTと同様にスレデッドバレルとサプレッサーサイトを組み合わせたHK45CTも加わった。

 

 

HK45C/CTではHK45のグリップを短くすると同時にスリム化して表面テクスチャも変更。HK45CTにはフルサイズと同じ10連マガジンに大型エクステンデッドフロアプレートを装着したものが付属する。短いグリップだが手袋をしていても指の置き場が充分あるのでHK45と遜色なく安定して握れる。グリップの寸法に合わせて短くした小型フロアプレートを持つ8連マガジンもある(それにHKPartsの+4エクステンションで12連にもできる)

 

HK45C用マガジンをHK45に挿入してもフロアプレートがつっかえてロックされないが、逆にHK45用マガジンはコンパクトにも使用できる

 

M、Sの2種類のバックストラップ(モジュラーグリップパネル)を交換する事でグリップ後部のサイズを変更できる

 

ロックアウトセイフティデバイスが内蔵され付属のキーを差し込み回転させることでハンマーストラットの動作を直接ブロックできる

 

 2011年、米海軍Naval Special Warfare Commandは大型で旧式化したMk 23 Mod 0の後継として、HK45CとHK45CTをMk 24 Mod 0として正式に採用し、NAVY SEALs チーム6などの特殊部隊によって運用されている。

 

 DA/SAトリガーに左側のコントロールレバーはデコック機能のみのV3仕様が選ばれた。これはNAVY SEALsで長年運用されていたP226と同様の操作性を継承するためと伝えられている。クリムソントレースも契約を結びウオータープルーフIRレーザーシステムを納入し、AACサプレッサーと組み合わせて運用されているという。

 

通常分解の手順はマガジンを抜きスライドを少し下げた状態でスライドキャッチを押し出す。するとスライドアッセンブリーが外せてリコイルスプリングガイドとバレルが抜き取れる

 

スライドの比較。短い以外に大きな変化はなくファイアリングピンブロックセイフティも当然備わっている

 

バレルの比較。スライドの短縮化に合わせてガイドロッドと一体化したリコイルスプリングも短い。後退するスライドの衝撃を緩和するポリマーアブソーバーブッシングも同様に短縮型に変更。スライドはコンパクトだがHK45CTのバレルはスレッド分の延長によってフルサイズのHK45よりも3mm長い。HK45タクティカルでは132mmのスレデッドバレルが備わる


 

H&KはMARK 23やUSPフルサイズでは特許を取得した独自のリコイルリダクションシステムを採用した。これは+P+ロードの射撃にも耐え、充分な効果があると大々的に謳っていたのだが、USPコンパクトで採用した樹脂製チューブ型のバッファーの方が単純で効果が高いという事から、それ以降のモデルではこのタイプになった。H&Kは最大で30%のリコイルリダクション効果があると解説している

 

H&Kが独自のこだわりを見せるポリゴナルライフリング(右回転)。初速の増加、バレル命数の延長、掃除が容易であるなどの長所を挙げているが、一般的ではない。バレル内の摩擦が強く、キャスト弾ではレッドファウリング(鉛がバレル内にこびりつく現象)が生じるので相性は良くない。これが気に入らないユーザーは、コンベンションライフリングを持つRCM社などの社外製バレルが勧められる

 

フレームの比較。ポリマーフレームだが、その前後に金属レイルをモールドしてスライドを固定するデザインを採用している

 

トリガーメカはUSPシリーズから基本構造に大きな変化はない。HK45シリーズにはUSPほどの多種多様なトリガーメカ/コントロールレバーの機能のバリアントが存在しないがV1からV10まで用意されている(V8は欠番)。今回のモデルはDA/SAトリガーと左側にセイフティとデコック機能を持つコントロールレバーを備えるV1だ。V7はLEM(Law Enforcement Modification)が内蔵される

 

バリアント変換時にはフレームのディテントプレートを交換する。V1とV2は共用で番号が刻印されている

 

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Photo&Text:Gun Professionals  LA支局

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2020年8月号に掲載されたものです。

 

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