実銃

2022/12/18

【実銃】H&Kの隠れた名作ピストル「H&K P7M13」

 

ガスオペレーションピストルの魅力を追う!

 

 発射ガスをシリンダーに導いてスライドの後退を遅延させるガスオペレーション式ピストル。利点の多いシステムだがその数は少ない。今回はそのうちの1挺であるH&K P7M13の実銃レポートを公開しよう。

 


 

 

ピストル動作方式の追求史

 

 黎明期のセミオートマチックピストルの歴史というのは、いかに正確にスライドを作動させるかの歴史と言ってよい。ご存知の通りセミオートマチックピストルというのはスライドを動作させることによって排莢と装填を行なっている。このスライドの動きは薬室で火薬が爆発することで発生するのだが、この際何も対策が施されていないと、弾頭の発射と同時にスライドが動き出してしまう。こうなると弾頭を押し出す発射ガスの力が弱まり威力が低下するうえ、エジェクションポートから高温のガスが噴き出し射手を直撃してしまう。こうならないために、セミオートピストルでは弾頭が銃口から飛び出すまでスライドを固定する機構の搭載が必須となっている。

 ライフルなどで多く見られるのは、発射ガスの一部をシリンダーに導いてボルトを後退させるガスオペレーション式と呼ばれる方式だ。これは発射ガスで機構を動作させるため、威力の違う弾を使用しても安定した動作を可能にするというメリットがあるうえ、バレルを固定できるためアキュラシー(精度)にも影響を及ぼさない。他方で欠点もあり、発射ガスが本体に吹き戻されるので、連射し続けると銃が熱くなって保持できなくなる。また各部にガスのカーボンが付着するため定期的なクリーニングが欠かせないということもある。しかしどんな銃にもメンテナンスは必要不可欠なものなので、これは欠点とは言えないかもしれない。

 ガスオペレーション式の銃はライフルなどいわゆる長物に多いのだが、数こそ少ないもののガスオペレーション式ピストルというのも存在する。今回はその中でも世界的に著名なH&K P7M13を紹介する。

 

 

H&K P7M13

 

  • 使用弾:9mm×19
  • 全長:175mm
  • バレル長:105mm
  • 重量:850g
  • 装弾数:13発

 

 H&K P7は凝ったメカニズムを得意とするH&Kらしく、グリップにコッキングデバイスを搭載したピストルだ。先進的なイメージを与える銃だが、設計からすでに50年近くが経過しているオールドな銃だ。このP7のガスオペレーションは発射ガスをバレルのチャンバー近く、下方に設けられたポートからバレルの下のシリンダーへと導く。このシリンダーを通り、弾頭がバレルを離れるまで発射ガスがフレームに取り付けられたピストンを押し続け、スライドをロックした状態にする。弾頭がバレルを離れるとマズルからも発射ガスが放出されるためピストンを押す力が弱まり、スライドがフリーとなり後退し始めるという仕組みになっている。このガスシリンダーはトリガー上部からグリップ上部あたりまであり、連続して射撃すると熱を持ちトリガーが高温となる。そのため、P7M8以降からはトリガー周辺部に熱伝導の少ない樹脂のプレートを付けている。

 

バレルの下にはガスシリンダーが隠れている。バレルのチャンバー付近に開けられた穴からガスがこのシリンダーに導かれてピストンを押し続け、弾頭が飛び出すと同時にガスはそちらに逃げてピストンを押さえる力がなくなり、スライドが後退を始めるというメカニズムだ

 

ホールドオープンした状態。バレルはフレームに固定されているのでまっすぐに保たれている

 

 もうひとつ、P7最大の特徴ともいえるのがスクイズコッカーだ。これはグリップを握る際、グリップ前部に付けられたレバーも同時に握り込むことでストライカーピンをコッキング位置まで後退させる装置で、いわばグリップセーフティの役割を持っている。完全に握って初めて発射可能位置までピンが後退するので、握りが甘いといくらトリガーを引いても発射できない。銃撃戦などの強いストレス環境下に置かれた人間、特に射撃経験の少ない一般警官などは変に力んでしまい、予期せぬタイミングでトリガーを引いてしまうことがよくある。なので、スクイズコッカーを握り、トリガーを引くという2つの工程を踏ませることで本当に必要な時だけ射撃できるよう意識付ける目的があった。このあたりには神経質なドイツ警察の要望が色濃く反映されているようだ。確かに、ただ単にトリガープルを重くしただけの銃よりも暴発防止には有効だと言える。ただし、射撃に長じているものからすると煩わしいし、何より結構な力で握らないといけないので射撃精度的にはまったくありがたくない。

 とはいえ、ガスオペレーション式でバレルが固定されているうえ、バレル位置が低くマズルジャンプが少ないため単純な射撃精度自体は高い。そのうえ銃自体の美しさやメカニカルなシステムも人気が高いため、愛好者が絶えない銃でもある。

 

トリガー下のスクイズコッカー。この角度で見ると張り出し具合が分かる。その上にはアンビでマグリリースレバーがある。

 

シンプルなスタイルのグリップを外すと、複雑に組み合わさったメカニズムが現れる

 

スクイズコッカーはコッキングだけでなくトリガーやシアへも繋がっており、とにかく握らなければ射撃できないシステムとなっている

 

 ここではH&K P7M13についてのレポートを公開したが、月刊アームズマガジン2022年12月号ではガスオペレーションピストルの魅力をさらに追っている。併せてご覧いただければ幸いだ。

 

Special Thanks to Le cercle de tir de Wissous :
https://www.youtube.com/c/LecercledetirdeWissous/featured
Photo&Text:櫻井朋成(Tomonari Sakurai)

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年12月号 P.226~233をもとに再編集したものです。

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