実銃

2022/11/24

【実銃】海外警察で注目される「レスリーサル」ウェポンとは?

 

非致死性から弱致死性へ

 

 近年、米国で大きな変化が起きている。以前までは凶悪な犯罪者を法規執行官が射殺するのは当然の対応だった。だがそれが難しくなってきており、銃器の使用を躊躇わざるを得ない状況にある。しかしテクノロジーの発達により、レスリーサルウェポンの台頭が著しい。今回はレスリーサルウェポンのひとつであるBYRNA HDランチャーを紹介する。

 

 

NON-LETHALからLESS-LETHALの時代へ

 

 言うまでもなく、凶悪犯罪者は民間人を殺傷する目的で銃器(多くの場合は盗難銃)で武装しているか、警察官の銃器を奪おうとするような最低最悪の人種だ。しかし、これが当然でなくなってきている。リベラルが幅を利かし、正当な職務を執行した警察官の多くが、過剰執行等によって免職になる事態が米国で多発している。免職だけならまだマシだ。警察官本人が逮捕・起訴される事件が多々あり(多くの場合が白人警察官と黒人容疑者)、恐れをなした警察官の多くが辞職しているのだ。こういった事情から、ますます非致死性武器(NON-LETHALノンリーサル WEAPON)の必要性が高まっている。

 ペッパースプレーや警棒などがその代表例だが、近年まではどれも効率性が悪いものばかりだった。犯罪者が違法薬物によって痛覚がほとんどない場合、役に立たないことさえある。そんな中、ここ数年、LESS-LETHAL WEAPONという言葉が聞かれるようになった。はたしてLESS-LETHALレスリーサル WEAPONとは一体何なのか。NON-LETHAL WEAPONとの違いはといった疑問が湧いてくるが、まずはそれから説明してみたい。

 

LESS-LETHAL WEAPONの定義

 

 軍隊でも、おそらく民間でもそうだが、話はまず定義から入る。そうでないと話がブレるからだ。NON-LEATHAL WEAPONは「非致死性武器」と訳せるが、LESS-LETHAL WEAPONは「弱致死性武器」と直訳できるかもしれない。つまり「普通に使えば致死する可能性は少ないが、場合によっては死に至ることもある」と説明できる。もっと簡単にいうとNON-LETHAL WEAPONよりはるかに強力であるということだ。

 ただしNON-LETHAL WEAPONも使い方によってはLESS-LETHAL WEAPONにもLETHAL WEAPONにもなり得る。例えば警棒だが、一般的なDepartment Policy(警察署の職務執行規則・軍隊でいうROE=Rules of Engagement=交戦規定)が大きく影響する通常の使い方(防御目的の受け行為、受けの流れを用いた関節技。打撃はベルト以下の下半身のみ、上半身は肘から下への打撃のみ)をすれば、確かに99% NON-LETHAL WEAPONでありえるだろう。だがインストラクターは私にこう言った。

 

「もし容疑者(犯罪者)がナイフを持って切り裂きにきて、自分が流血しているような状況だったら、Department Policyなんか忘れて、相手が動かなくなるまで頭部・顔面を思い切りぶっ叩け」

 

 鉄製の警棒で頭部に打撃を加えれば、当然相手は死亡する。このように、非致死性の武器であろうと、使い方によっては致死性になるし、その逆もまたありえるということだ。なのでここでいう定義とは「通常の使い方をした場合」に限って話を進めていく。

 ではここまで説明したところで、早速LESS-LETHAL WEAPONの1つであるBYRNA HDランチャーをご覧いただこう。

 

 

BYRNA HDランチャー

 

 BYRNA HD ランチャーは、直径が0.68インチ(約17.3mm)の球形(もしくはスラッグ弾)の弾薬を発射する装置だ。直径が0.68インチ弾薬といっても聞いたことがないかもしれないが、警察関係者の間では.68(ポイント・シックス・エイト=米国では小数点以下の場合、日本のように零点…と言わない)として歴史が長い弾薬だ。FNH製303 NON-LETHALランチャーの口径と言えばわかりやすいかもしれない。とは言っても、民間人はFNH 303ランチャーと聞いてもピンと来ないだろう。

 民間ではペイントボールゲームで使用されている球形のボールのことだ。ペイントボールゲームでは、その名のとおりボールの中に液体の着色料が入っており、被弾した箇所が着色されるものである。日本の法律ではペイントボールガンは空気銃扱いとなるた
め一般的認知度は低い。日本はご存じのとおり6mmBBガンが主流である。だが海外でペイントボールゲームはポピュラーであり、世界大会までもが開催されるほどだ。

 このペイントボールガンだが、初速が速く被弾するとかなりの痛みをともなう。経験者なら皆が知っているが、青あざができるほどである。よって1990年代は警察機関の多くがペイントボールガンを購入し、フォース・オン・フォース訓練用に使用していたほどだ。「6mmBBを使用するエアガンのほうがいいじゃないか」という声が聞こえてきそうだが、6mmBB弾だと分厚い装備越しに被弾したら被弾したのがわからない、もしくはわかってもさほど痛くないので、オペレーターの技術が向上しないのだ。ペイントボール弾は痛いので、むやみに身体を露出することはなくなる。やはりNoPain, No Gainなのだ。

 

BYRNA HD PEPPER KIT。BYRNAランチャー本体、マガジン2本、CO2カートリッジ2本、ペッパー弾(5発)、キネティック弾(5発)、イナート弾(5発)がキットの内容。だがこれではシステムとして当然不足だ

 

追加で購入した付属品。練習用のイナート弾 、CO2カートリッジ2箱(合計20本)、クリーニングキット、スペアマガジン(4本)、ペッパー弾(5発)、MAX弾(5発)、ホルスターとマグポーチ、シュアファイア製ライト、SDエクステンション。システムとして使用するには最低これだけが必要となる。気になる出費としては約1,200ドル程度だ

 

BYRNA MAX弾

 

 BYRNAが開発したMAX弾だが、BYRNAは自社製のみの使用を推奨している。というのも他社製の製品には表面仕上げが雑なものがあり、銃身内部に引っ掛かって作動不良を起こす可能性があるのだ。いうまでもなくセルフディフェンスのシチュエーションに待ったはない。よって純正品のMAX弾を使用したい。

 このMAX弾だが、催涙ガス弾に使われるCS(クロロベンジリデンマロノニトリル)と、唐辛子のOC(主成分はカプサイシン)をミックスした非常に強力なものだ。その効果はBYRNAのウェブサイトに掲載されている動画を見ていただければ理解できる。胸に被弾し破裂した弾からCSとOCが飛散し口・鼻・目に容赦なく侵入し、被弾者は目を開けていられなくなり嘔吐する。デモなので傍に水があってホースで洗い流しているが、それでもかなり効いている。水がなければかなりの時間、抵抗不能となるのは間違いない。デモでは胸に被弾しているが、実際には顔面を狙って撃つ。つまり顔面への打撃とのダブルパンチの効果がある。ちなみにCSは薬物常用者には効かない場合があるが、OCは成分が唐辛子なので薬物常用者であっても効果がある。

 

スライド上部。装弾数が5発しかないため、サイトはもうちょっとしっかりしたのが欲しいところだ。だがこの点は新型のSDモデルで改良されている。スライド中央部の突起はファーストラウンド・インジケーター。チャンバーに弾が装填されていればインジケーターが突き出て、確認が容易となっている

 

BYRNA HDランチャーのスライド下部。実銃のハンドガンと同じようにピカティニーレールが設けられている。ここにフラッシュライトやレーザーサイトなど射手の好みでアクセサリーが装着可能

 

セーフティレバーはアンビ。1911オートとほぼ同じ位置にある。テンションは六角レンチで簡単に調整可能。レバーのサイズは大き過ぎず、小さ過ぎず、ちょうどよいサイズと形状である

 

ランチャー本体はプラスチック製だが、グリップのバックストラップとフロントストラップ部分はゴム製であり、これが適度に滑り止めとなっていて心地よいグリップが約束されている。もっとも発射時の反動はないのでグリップが発射するたびに滑る心配はない

 

 すでに述べたように、各銃器メーカーはLESS LETHAL WEAPONの研究開発に本腰を入れ始めており、今後目が離せないカテゴリーの1つとなるだろう。より詳しいレポートは月刊アームズマガジン2022年11月号に掲載されているので、併せてご覧いただければ幸いだ。

 

TEXT:飯柴智亮

PHOTO:飯柴智亮、BYRNA LLC
撮影協力:BYRNA Technologies 、Long’s Shadow Holster, INC

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年11月号 P.214~221をもとに再編集したものです。

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