2023/05/01
【実銃】H&Kの傑作ハンドガン「HK45」誕生までの歴史
Heckler & Koch
HK45
Compact Tactical
ネイビーシールズも採用したHK45のコンパクトタクティカルモデル
ヨーロピアンガンメーカーは.45ACP対応ハンドガンの開発にあまり積極的でない場合が多い。しかし、ヘッケラー&コッホはP9Sの時代から.45 のバリエーションを加え、米国市場へのアプローチを続けてきた。現行のHK45は同社の.45 オートの完成形であり、そのコンパクトモデルはNAVY SEALsも採用するなど、高い評価を獲得している。
H&Kの人気
先月に続いて今回もラスベガスに遠征して取材を行なった。サプレッサーレディのハンドガンは筆者の住むカリフォルニアで撮影することは難しい。しかし、ネバダ州に行けば、特別な制約なしに、そういったハンドガンを撃つことができる。
新型コロナウィルス感染拡大による混乱により、今年3月頃から銃器と弾薬の売り上げが急速に伸びた結果、市場では完全な品薄状態になり、現在もそれが続いている状態だ。
テストに用いる弾も9mmは手元にじゅうぶんな余裕があったが、前回のワルサーPPQ 45 SDと今回のHK45Cタクティカルの撮影のために.45ACPを買い足しする必要があった。ベガスで現地調達しようと地元ショップを数店舗周ってみた。しかし、どこも在庫はあっても価格の高騰が激しく、新型コロナウィルス感染拡大以前とは状況が全く変わってしまっていた。
ベガスにはガンショップが多い。さんざん探し回り、室内レンジ併設の店舗で、やっと無難な価格の.45ACPが購入できた。ショーケースには主要ブランドの銃が思っていた以上に並んでいたので話を聞いてみたところ、実は少し前までは完売に近かったが、ようやくまとまった数が入荷したのだという。
カリフォルニア州では販売許可が下りていない最新モデルも多く、その評判などをリサーチする良い機会でもあるので店員さんとしばし話し込んだ。そしてVP9に目が留まる。自衛隊がSFP9 M(VP9のヨーロッパ市場での製品名)を採用したニュースは今月号で語られている通りだが、興味があったので現在の評価を聞いてみた。
その店員によると「VP9は好きな人はかなり評価しているけど、H&Kファン歴が長い人達の一部からはハンマー方式の方がやはり良いなと距離を置かれる事もあるよ。平均的な評価としては…、うーん両極端じゃないかな。H&Kハンドガンにおいてはストライカー方式のトリガーに近い感覚で撃てるLEM仕様もあるし、ハンマー方式も決して人気が薄れている訳ではないって話だね」という回答だった。
発売から4半世紀以上も経過したUSPはデザインに古さが目立つのは仕方がないが、P2000やP30はエルゴノミクス(人間工学)が優れているので安定した人気があるとの話だった。
VP9には9mmの他に.40S&WのVP40もあるが、現時点で.45ACPモデルは未発売だ。数年以内に全体を大型化しHK45のマガジンを使用するVP45が登場しても驚きはしないが、現在のH&Kの主力.45オートは、いうまでもなくHK45シリーズだ。大きすぎる印象の強かったUSP45の弱点を改良した発展型で、装弾数を減らしてまで握りやすくしたグリップには得意の人間工学が活かされている。特にそのコンパクトであるHK45C(Compact)、及びHK45CT(Compact Tactical)は、NAVY SEALSでも使用されているモデルであり、安定した人気を誇っている。
今月は先月に引続き、ラスベガスのE. Morohoshiさんが所有するスレデッドバレルを持つHK45CT(コンパクトタクティカル)を、筆者のHK45と共に比較テストしてみた。
H&Kハンドガンの系譜
戦後生まれのガンメーカーであるHeckler & Koch(ヘッケラーウントコッホ:H&K)のハンドガンは、その時代における最新技術や、他のメーカーでは見られないような斬新なアイデアに満ちた製品が多かった。それらの多くは製造中止になった後も、個性的なデザインにより強い印象を残している。
同社最初のハンドガンは、1968年にマウザーHScを土台としたHK4で、バレルとマガジンを交換するだけで.380/.32/.25ACPそして.22LRの4種類へ、口径変換が可能なブローバック方式のポケットモデルだった。
それに続いて、西ドイツ軍をはじめ多くの国が選定したアサルトライフルG3や、それをSMG(サブマシンガン)化して高い評価を得たMP5で採用したローラーディレイドブローバック方式をハンドガンに組み込んだP9を設計。さらにDA(ダブルアクション)を追加したP9Sへと発展させ、これのサプレッサー付きモデルがNAVY SEALsにも採用された。
凝りまくったメカニズムで複雑化したP9Sであったが、プレス加工を多用して全体的な生産効率を引き上げ、さらにはトリガーガード周辺を樹脂化するなど、新しい製造法を取り入れた野心作だった。9mm×19の他に.45ACPモデルも製品化され、1911系とはかなりかけ離れてはいたが固定式バレルにより命中精度の高さとその作動方式による撃ちやすさから、アメリカ市場でも根強い愛好家達も生み出した。
この新しい製造法への飽くなき挑戦はさらに加速し、1970年に世界初のポリマーフレームハンドガンであるVP70を誕生させる。まさしく“樹脂製フレーム時代の幕開け”であったはずなのだが、そのコンセプトである“廉価版の軍/警察用拳銃”という位置付けが災いし、VP70はさほど成功しなかった。低価格化を目指すゆえ、パーツ点数を減らし加工を容易にする目的で口径9mm×19でもストレートブローバックを採用した結果、スライドが大型化して重量が増し、樹脂製フレーム採用の意味を薄めてしまった。当時としては圧倒的ともいえる18連マガジンを装備していたが、ストライカー方式のDAオンリーの重いトリガープルが、ハンドガンとして魅力をかなり引き下げた。
VP70が真価を発揮するのは、ホルスター兼用ショルダーストック装着で3点バーストが可能な事ぐらいだ。現実問題、ハンドガンの3点バーストやフルオート機能は、ほとんど需要がない。その一方でショルダーストック装着機能を除いた市販版VP70Zが全然売れなかったのも当然だった。
約10年後に登場したグロックが成功した結果、ポリマーフレームの時代が始まり、その結果、ポリマーフレームを最初に手掛けたのはH&KだということでVP70の存在が思い出され、技術のパイオニアを自負するH&Kの面子だけはかろうじて守られたが、VP70はH&Kにおける失敗作の代表だった。
VP70に続くH&Kのハンドガンは、テロ事件に揺れる西ドイツ警察の装備強化のために開発されたPSP(のちのP7)だ。今度はガスディレードブローバック方式を採用、速射性と携帯時の安全性を追求し、スクイズコッカーによるストライカー発射方式を組み合わせ、またもや市場を驚かせた。しかし、ガスディレードブローバック方式は、連射を続けると触れないくらいトリガー上部のフレームが加熱するという弱点が見つかり、その部分を改良、マガジンキャッチをレバー方式にしたP7M8、そして13連マガジンにしたP7M13が開発される。その凝りまくったメカニズムはH&Kらしさに満ちていた。
しかし、9mmを超える大口径化への対応が困難で、人気が出てきた.40S&W弾を使うP7M10はスライドがアンバランスなほど大型化してしまい、.45ACPモデルのP7M7は試作段階で断念。それでも9mmのP7M8は2007年まで製造された同社のロングランモデルで、最後まで根強いファンがいた事を証明した。
USP
H&Kがより汎用的な軍・警察用ハンドガンを開発するきっかけとなったのが、1989年にSOCOM(Special Operations Command)がよりCQB戦闘に特化したOHWS(オフェンシブハンドガンウェポンシステム)プログラムを開始した事であった。
この時、H&Kとコルトがそれぞれ新開発の.45ACPの試作モデルで競い合った。コルトはダブルイーグルを土台にロテイティングバレルを組み込んだ改良型を提出したのに対し、H&Kは完全新規のポリマーフレームを開発。これにハンマー方式のDA/SAトリガー、12連マガジン、ブラウニングタイプ改良型のショートリコイルを採用した。この時初めてH&Kはこれまでの製品のような驚きの新機軸を打ち出さず、実に堅実なデザインでまとめ上げている。結果H&Kが勝利を収めMk 23 Mod 0として採用された。
この銃はレーザーエイミングモジュールとサプレッサーの装着を前提としており、一般的な軍用サイドアームの域を超えたプライマリーウェポンだった。そのため本来のサイドアームの枠を超えるかなり大型な特殊ハンドガンとなっている。軍に納入された一方、MARK 23として市販もされたが、$2,379の高価格と使いにくさにより、現在ではコレクション向け商品でしかない。
H&Kはその後Mk 23 Mod 0の設計を基に全体を小型軽量化してより汎用的なポリマーフレームの開発に着手する。90年代に入り法執行機関では9mmと.45口径の中間の性能を持つ.40S&Wの人気が急上昇し、この新型も開発段階から.40S&Wをスタンダード口径として設計が進められた。
Mk 23 Mod 0では、コック&ロックが可能なコントロールレバーとデコッキングレバーが分割されてフレームに備わっていたが、この機能を統合し、レバーを上げてハンマーをロック、水平位置でロック解除、下げることでハンマーをデコックする方式に変更。さらにパーツ交換によってレバーの機能やトリガー方式を1から10までのバリアント(Variant)間で自在に変更できるようにした。1つの形式に縛られず、様々なバリエーションへと拡張が可能という先進性は現在主流のモジュラーデザインに通じるところがあり、H&Kらしい時代の先を見通したものだったといえる。
これが1993年、USP(ユニバーサルセルフローディングピストル)として発売された。.40S&WのUSP40が先行販売され、9mm版のUSP9が少し遅れて登場した。95年には.45ACP版のUSP45が加わったが、Mk23 Mod 0よりも大幅に小型軽量化された事は言うまでもない。翌年にはさらに小型化したUSPコンパクトが発売され、口径に.357SIGも追加される。
ドイツ軍はこのUSPのセイフティレバーを下げてONにする特別仕様をP8として採用。ドイツ警察もUSPコンパクトにP10の名を与えて採用した。その後はUSPエリートやUSP マッチといった競技やタクティカルユーザー向けのバリエーションも順調に拡大していった。
スレデッドバレルを持つUSP45タクティカル、そして米特殊部隊用に開発されたUSP45CTも開発。CTはコンパクトタクティカルの略だが社内関係者の間では対テロ戦を意味するカウンターテロリズム(Counter Terrorism)という意味合いで呼ばれていた。
2001年にはUSPコンパクトに米国法執行機関からの要望で開発したLEM(Law Enforcement Modification)トリガーを追加、以降は各モデルにも導入される。基本的にはDAオンリーと同様のトリガーの作動だが、ハンマースプリングは初弾装填時のスライド操作で圧縮されるため、SA並の軽さで引ける上にトリガーリセットもSAのそれと同様で短く、安全で軽く、均等なトリガープルは現在主流なストライカー方式のトリガーに近いフィーリングを持ち、競技にも向いている。
全体的に大型なUSPは、フルサイズモデルよりコンパクトの方が人気が出た。H&Kは2001年にコンパクトの基礎設計そのままに様々な角度から改修を行ったP2000を発表。全体的にUSPよりかなりスリム化され、サイズもUSPコンパクトより僅かに小型化された。
テクスチャも一新したグリップにはバックストラップ交換機能を新設、スライドキャッチのアンビ化、アクセサリーレイルも汎用規格に改修した。バリアントはV0からV6に集約されデコッキングレバー装備モデルではフレーム後部にレバーを配置するなどUSPとの大きな違いもある。サブコンパクトのP2000SKも好評で、法執行機関での採用が順調に進んだ。2004年8月20日にアメリカ合衆国国土安全保障省(United States Department of Homeland Security:DHS)がSIGと共にP2000シリーズ、LEMトリガー内蔵のUSPコンパクトを大量に購入し、H&Kにとっても歴史に残る法執行機関との大型契約であった。
H&Kはこれに留まらず、評判の良かったP2000をさらに発展させ、大型化したP3000の開発に着手した。製品版は名称を短縮してP30に変更、これが2006年に登場する。P2000よりも直接的なUSPの発展型となり、フレーム側面にセイフティレバー付きのモデルも用意されているが、デコッキングレバーはP2000と同様のフレーム後面に配置し、良いとこ取りの中間的なデザインになっている。
特に進化を感じさせたのがエルゴノミクスで、グリップの形状は人間工学を重視した握りやすさに加えて、グリップ側面のパネルまで交換可能となり、使用者の好みをより反映させる事ができる徹底したものとなった。バレル長は3.85インチだが、その後に3.27インチバレルのサブコンパクト版P30SK、そして4.45インチバレルに延長したP30Lも発売された。
Photo&Text:Gun Professionals LA支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2020年8月号に掲載されたものです。
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