実銃

2023/04/02

【実銃】M9の進化系「M9A3」の特徴とその魅力【M9A3】【中編】

 

Beretta M9A3

 

 

 米軍兵士からのフィードバックを元にM9の問題点を払拭すべく、ベレッタが出した回答がM9A3だ。ストライカーファイアのポリマーフレームを欲していた米軍は、これを検討することなく突き返したが、M9A3は高いポテンシャルを持つ92の究極進化形というべき戦闘用拳銃になっている。

 

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SPEC

 

 

M9A3

  • 口径:9mm×19
  • 全長:220mm
  • 銃身長:127mm
  • 全高:137mm
  • 全幅:38mm
  • マガジン装弾数:17発
  • 重量:944g
  • メーカー希望小売価格:$1,100


 2014年に米陸軍は、採用から30年近くの時間が経過したM9を新たな銃に更新するため、MHSコンペティションの実施を公式発表した。それ以前にもM9更新計画は何度となく浮上しては消え去り、延々と結論が出ないままでいたが、この時はオバマ政権が終了するまでに結論を出したかったと見られる。ベレッタは先ず、このMHSの発表に対して異議を唱えるように先手を打った。

 

ダストカバーはかなり重厚なものになっている。M9A1では1つだったロッキングスロットの数を3つに増やしデバイス装着位置や種類に柔軟性を増した

 

アクセサリーを装着するダストカバーのピカティニーレイル。M17では標準仕様だがM9採用の頃にはそのようなものは存在せず、海兵隊の要望によりM9A1で追加された。最新型がA3と呼ばれるのは、構想のみで製品化されなかったM9A2があったからだ


 同年12月10日にベレッタはこれまで蓄積された軍隊やユーザーからのフィードバックをもとに問題点を改善したM9A3を発表した。現在のM9に不満があればそれを改善したものを提供できる事をベレッタは米国防総省に証明したかったのだ。


 M9A3の主だった改良点と特徴を述べると、先ずヴァーテックフレームを基にロッキングスロットを3つに増やした1913ピカティニーレイルを加工、手の大きなユーザーにはホーグのラップアラウンドタイプのラバーグリップを用意し切り替える事で適切なグリップサイズが選べるようにした事だ。

 

M9A3ではグリップパネルのデザインと共に、評判の良かったヴァーテックのストレートなバックストラップを持つグリップが引き継がれた。手の小さな人にも握りやすく、1911に近いフィーリングとポインタビリティで評価が高い。従来型グリップはバックストラップにカーブがあり、後方に突き出ている

 

バックストラップと同様にフロントストラップはセレーションから上部がクロスチェッカリングになり滑り止め効果を増している

 

マガジン挿入口は両側面が広げられてリロードがしやすくなった

 

 

ヴァーテックのグリップでは手が大きな人には細すぎるという意見もある。そこでM9A3ではHogueのラップアラウンドタイプのラバーグリップを付属させた

 

ラップアラウンドタイプのラバーグリップは、グリップ後部に覆いかぶせるもので従来型グリップに近いサイズになる

 

グリップスクリューには引き続きワッシャーを導入しているが後期の市販M9では六角レンチを使用する

 

 ダブテイル固定式フロントサイトとリアサイトはトリチウム入りで暗闇でも狙え、スライド操作時に誤作動が報告されたセイフティレバーを斜め上に向ける事で改良、サプレッサーがねじ込めるスレデッドバレル、砂塵に強いサンドレジスタントマガジンは装弾数を17発に容量アップ、その他にも素材の見直し等の細かな改良を施し信頼性を向上させ、全体をアーストーンで仕上げた。M9の契約内容に従い、こうしてM9A3の情報はECP(エンジニアリングチェンジプロポーサル/技術変更提案)として提出された。

 

 既存のM9の改良型を採用すればトライアルの時間や費用、そして新規購入費、訓練時間、アクセサリーやパーツなど新規調達に伴う経費と時間を大幅に節約できるというのは確かに一理ある提案ではあった。ところが米国防総省は全く興味を示さなかった。それもそのはずだ。米軍が欲していたのでは軽量で拡張性の高いストライカー方式のサービスピストルであり、いかに改良しようともM9の設計そのものが時代遅れと判断されてしまったからだ。

 

大型アクセサリーの装着がしやすいようにトリガーガード前面もフラットになっている。M9のトリガーも樹脂製に置き換えられたが、M9A3ではスチール製に戻った

 

トリガープルは大きく改善されているという声も聞くが、今回のM9A3はDAが約6.5kg、SAが約1.5kg、リセット距離も6.5mmで従来と大きな変化はない。最新の92Xパフォーマンスのリセットは格段に短縮化され、測ってはいないが2mmくらいではないかと思う。ベレッタのトリガーがそこまで良くなるとはかなり意外で驚かされた

 

M9A3のマガジンキャッチボタンは延長され操作性が向上している

 

基本的なパーツの互換性は維持されているので入れ替えが可能だ


 米軍はM9A3を殆ど考慮する様子も見せずに突き返した。数年前にM9の大型追加発注まで受けていたベレッタはこの国防総省の冷遇に大きな不満を感じた。過去に取材協力をして頂いたベレッタUSAのGabri-ele de Plano氏の当時のコメントを要約すると

 

「陸軍は明らかに検討すらしないで聞き流した。質問もサンプルの依頼もなく鼻っから興味を示していなかった。12月10日にM9A3を発表したが、クリスマス前には答えが返ってきた。M9A3は完璧なモデルとまで言わないが、せめて実際のサンプルを手に取り検討して欲しかった」と述べている。


 対する米陸軍の武器管理担当官はM9A3がHMSの要求スペックを満たしていない事を挙げ、これまでM9の信頼性の問題で多くの兵士が不満を漏らしてきたとコメント。またコストベネフィットの徹底した計算も行ない、老朽化したM9をM9A3等に交換、維持する費用は実際に新モデルに更新するよりむしろコスト高になるという結論を導き出した、と回答した。

 

中東の砂漠地帯で砂によるマガジンの誤作動が多数報告され、M9A1では特殊PVD処理され摩擦を軽減させたサンドレジスタントマガジンが採用された。M9A3ではさらに改良され、15発から17発に装弾数がアップ(規制対策で10連もある)。従来モデルにも使用可能だが、92初期モデルである92/92S用のマガジンキャッチカットは省略された

 

通常分解はそのままテイクダウンレバーを回転させる事でスライドアッセンブリーが外せる。マガジンを挿入した状態でも可能だ。映画では度々この部分が誇張され、瞬時に分解して使用不能にされてしまう描写がある

 

リコイルスプリングとガイドを外し、ロッキングブロックプランジャーを押し込んでロックを解除させてスライドからバレルを取り除く

 

通常分解した状態


 その時点でまだ2012年9月の契約分である約10万挺の追加購入分の納入が2万挺までしか完了しておらず、残り8万挺を現在のM9以下のコストでM9A3に差し替えて納品できる事ともベレッタは主張した。「なぜ米軍は他のケースに見られるようにデュアルパス(二重経路)でこの提案を聞き入れてくれなかったのか理解に苦しむ」とベレッタは不満げにコメントを残した。


 30年以上前の設計モデルより最新のサービスピストルを欲していた米軍にとって、たとえ不満点を解消したとしてもM9は過去のものであったわけだ。


 ベレッタはM9A3を翌年のSHOT SHOWで公開、法執行機関やタクティカルユーザーの要望を満たせる最新モデルとして市販を開始した。

 

昔は金属製だったリコイルスプリングガイドは現在は樹脂製でM9A3でもこれを継続した。ベレッタ純正オプションには重いタングステン製もある。92系はリコイルスプリングが長く余裕があるので、スライド操作は柔らかくて引きやすいのが特徴だ

 

92系で最もよく聞くトラブルがロッキングブロックが割れる事で、シューティングレンジのレンタル銃などでは珍しくない。亀裂の入りやすいコーナー部分にレディアスカットを加え、ストレスが集中しづらくした第3世代型まで改良を進めており、同じく改良したプランジャーとピンのキットを35ドルで販売している。92系の脆弱な部分であるが、以前よりも耐久性は上がっている

 

セイフティレバーを押し下げると、ハンマーリリースレバーが押し下げられてハンマーをドロップすると同時に、デコックされる際に直接ファイアリングピンを叩かないようにピンの尻を真上に回転させる。ハンマーは勢いよくドロップするが、安全性がかなり高い構造だ

 

ベレッタは初めて9mm×19口径化したモデル951からワルサーP38と同様のプロップアップ方式のショートリコイルを採用してきた。発射して弾頭が飛び出すまでスライドとバレルは一体となって数mm後退、ロッキングブロックプランジャーがフレームに接触し、そのまま押し込まれるとロッキングブロック内側の傾斜に従って後方が回転して下がり、スライドのロッキングリセスから抜けてロックが解除される。ラングドン氏は常にバレルが水平に保たれ後部が上下運動しない同方式を高く評価する

 

1,000発以上撃った後のフレームにはロッキングブロックプランジャーの接触痕が確認できる

 

1911ではブラウニングタイプのショートリコイルを採用、M9ではプロップアップ、そしてM17/M18ではエジェクションポートがリセスとして機能するブラウニングタイプ改良型となった

 

フレームの比較。表面処理以外の違いは確認できない

 

M17のポリマーフレームと比較すると時代の移り変わりを強く感じる。944gと833gの重量差は大きい

 

M9A3のフレーム。デザインと仕上げ以外、構造は92FS系と基本同一だ

 

ハンマーをコックしたSA状態のトリガー

 

セイフティレバーを下げた状態。ハンマードロップレバーによってシアが作動してハンマーが落ちる

 

トリガーを引くと、シアを作動させると同時にファイアリングピンブロックレバーを回転させて、スライドに内蔵されたファイアリングピンブロックを押し上げてセイフティを解除し(スライドの頭からせり出す)発射可能にする

 

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Photo&Text:Gun Professionals  LA支局/アームズマガジンウェブ編集部

 

この記事はガンプロフェッショナルズ2021年2月号 P.8~27をもとに再編集したものです。

 

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