2023/02/06
【実銃】高いポテンシャルを持つカーボンシャーシシステム+レミントン700の魅力!【前編】
XLR Rifle Chassis System
Remington 700 .308 Win
ごくありきたりのレミントン700のバレルドアクションを、XLRインダストリー製カーボンシャーシシステムに載せたお手軽な軽量ボルトアクションライフルをテストした。
少しだけガンスミスが手を加えているとはいえそれだけでサブMOAのスナイパーライフルに仕上がっていた。これには驚いた。とても安価なシャーシシステムが、かなり高いポテンシャルを持っている。そんなカーボシャーシシステムライフルをヴィクター・ロペスの射撃テクニックとともにご覧いただこう。
XLR Carbon Chassis System+Remington 700 Tactical AAC-SD
このモデルにはオプションのフォールディングストックシステムが追加されている。堅牢なロックアップブロックのせいで少々重くはなるが、魅力的な装備ではある。
XLR Industries
「ヘイ、ヒロ!ご機嫌なライフルが仕上がってきた。サイトインをするから見に来い」と、Victor Lopez(ヴィクター・ロペス)から、嬉しい連絡があったのはつい先日のことだ。彼はかつて海兵隊のスカウトスナイパーリーダーとして3回もの海外派遣を経験している。現在はLAPD(ロサンゼルス ポリスデパートメント)のウェポンインストラクターを勤めており、興味深い話を私に提供してくれる奇特な友人なのだ。
何はともあれ、LA郊外にあるLAPDのシューティングレンジに行くと、テーブルの上には1挺のブラックライフルが鎮座していた。肉抜きが施されたChassis(シャーシ)とカーボンファイバー製と思われるハンドガードが目に付く.308Win口径のボルトアクションライフル、XLR Carbon Chassis Systemだ。
Chassisはアメリカ英語では“チャーシー”と発音する。日本では、シャシー、シャーシといくつかの表現があるようだが、それはフランス語のchassisから来ているのだろう。自分的には“チャーシー”と書きたいところだが、ここは日本の流儀に合わせてシャーシで行く。意味としては骨組みだ。
ライフルのアクション部分を支えるフレームがシャーシでありハンドガードやバットストック部分は別パーツという考え方もあるが、ライフルシャーシシステムというと、それらも含める場合が多い。すなわちライフルシャーシシステムとは、目的に合わせてパーツを交換できるボルトアクションライフル用ストックなのだ。
「こいつは先週ガンスミスから上がってきた“XLRインダストリーズ社”のライフルチャーシーに、レミントン700 Tactical AAC-SDのアクションを載せたものだ。アクションを載せるだけなら自分でもできるが、今回はガンスミスにボルト周りのチューンナップとトリガーシステムの交換、オーバーサイズボルトノブ、マズルブレイクの装着までをお願いした。シャーシシステムは、トルクレンチが必要だが、オーナーが自分でアクションを乗せ換えることができるという点でアプローチがしやすいといえるね」
そうなのだ。私自身はマクミラン(McMillan)社やマナーズ(Manners)社が作るシンセティック(合成素材)素材のカスタムストックが好みだが、これらのストックでは“べディング”(bedding:グラスファイバー素材を使うのでグラスべディングということもある)と呼ばれる、アクションをストックに正確に固定し、さらに精度を出すためにバレルをフリーフロート化する工程をガンスミスにお願いする必要がある。それに比べると、こういったシャーシシステムでは、基本的に2本のボルトを既定のトルクで締め付けるだけという簡便さと、アクションや口径の変更が可能という自由度にも恵まれているといえる。
XLRインダストリーズ社は、このスナイパーシステムの他にも、コンペティション(ロングレンジ ライフル競技)やハンティング用のシステムも数多くリリースしており、急速にポピュラーになってきた会社だ。
今回のカーボンシャーシシステムは、15.5インチのカーボンファイバー製オクタゴンハンドガードを採用し、M-LOKによって8面にウェポンライトやナイトビジョンなどのアクセサリーを装着できるというタクティカル軽量モデルだ。シャーシ部分は6061T-6アルミニウムからの削り出しで、バットストックとグリップを除いた重量は27オンス(約765g)でしかない。同社からはカーボンファイバー製のバットストック(11オンス:約312g !)やチタン製グリップなどもリリースされており、軽量化を追求するならば、それなりのセットアップも簡単にできてしまう
但し、酷使されるスナイパーライフルでは、連続発射の耐久性や、精度を追求するためにある程度の重量やバレルとのバランスも必須なので、軽ければ良いという訳ではない。これがハンティング用となるとまた話は別で、精度が犠牲にならなければ、軽量に越したことはない。事実、同社にはAZ61Aマグネシウム素材を使った“エレメント3.0”というモデルがあり、これだとシャーシ重量は16オンス(約454g)でしかない。これにカーボンファイバー製ストックとグリップを組み合わせると、総重量は28オンス(約794g)となり、金属シャーシシステムは重いという一般の先入観は払拭されてしまう。
逆にコンペティションモデルでは、ハンドガードやバッファーチューブ内部にウェイトを装着できるなど、重量と精度、そしてリコイルとのバランスなどトップランクのアジャストが可能になっている。
ヴィクターいわく、
「ボルトアクションライフルをスナイピング用途として特化させ、さらにミリタリー用として考えると、こういったシャーシシステムは光彩を放ってくるといえる。
実際に、昨年USSOCOM(USスペシャルオペレーションズコマンド)がリリースしたドキュメントによると、Barrett Firearms(バレットファイアアームズ)が開発た“MRAD(Multi-Role Adaptive Design:マルチロールアダプティヴデザイン)という、7.62×51mmNATO,.300Norma Magnum, .338Norma Magnumの3つの口径がスイッチできるシャーシシステムが陸軍と海兵隊によって正式に採用され、2021年の予算に計上されている。
これによって海兵隊のM40は勿論のこと、1990年から制式採用されてきたM107(.50BMG口径)や2018年に制式化されたばかりのMk13mod7(.300Winchster口径)をも廃して、MRADをMk22ASRとして制式採用することが決まっている。
名称にあるAdaptive(アダプティヴ:“適用性がある”を意味する)は、口径のスイッチやシューターに合わせてのアジャストメントが簡単にできる、ということを意味しており、シャーシシステムならではの方向性が制式採用された大きな理由だろう。
さらにMRADをよく見てもらえばわかるが、2013年に一旦採用されたレミントンMSR(モジュラースナイパーライフル)と比べるといくつもの改良点や機能の熟成が見られるね。一般にシャーシシステムの弱点というのは、
- 総重量が重くなる。
- バットストックやハンドガード周りに突起物や先端が多く、衣服や装備に邪魔されてポジションが取りにくい。
- アジャスト機能を持たされたバットストック下部(左手で上下の微妙なアジャストに使う部分)のデザインが適切でないものが多く、細かいアジャストをする際に使いにくい。
- アルミ製のハンドガードは、硬いところに擦れると甲高く大きな音が出てしまうので、隠密行動が多いスナイパーにとってはマイナスとなる。
- 過酷な状況で使った場合、バットストックのアジャスト部分やハンドガードのアクセサリーホールなどから砂やごみといった異物が入り込みやすく、支障になったりメインテナンスに手間がかかる。
といったところだろう。
バレットのMRADはこれらの弱点をカバーしつつ、確かな精度とアジャスタビリティー、そして口径のスイッチ可能機能など、魅力的な存在になっているね。ただし価格は最低でも4千ドルからとなってしまう。
そこでスポットを浴びるのが、今回のXLRインダストリーズやMDT(Modular Driven Technologies:モジュラードリブンテクノロジーズ)社といった一般向けのシャーシシステムだ。これらの製品にMRADのような堅牢さや精度は望むべくもないが、ファクトリー製ボルトアクションライフルを所有していれば、500ドルから1,000ドルほどの出費で、最新のアジャスタビリティや多くのケースで精度向上を見ることができる。それもすべてオーナーが自分でできてしまうというのも大きな魅力だね」
確かに、今回のテストでもチャンバーとボルト周りのチューンナップはガンスミスにしてもらったとはいえ、ストックのレミントン700アクション/バレルで100ヤード5/8インチ(約16mm)の集弾性能を叩き出してしまったというのは、これ信じられない事実なのだ。
ヴィクターによると、このレミントンはストックの状態でもだいたいのアモでほぼ1MOA(100ヤードで1インチ(約25mm)のアキュラシーは持っていたので、これは当たりの個体だと思っていたという。それがアクションのチューンとシャーシを変えただけでサブMOAを軽く達成してしまうカスタムライフル並みのアキュラシーを持ってしまったのだ。
ヴィクターもこのテストの後、くだんのガンスミスに連絡してどんなチューンナップをしてくれたのか確認したが、単にレシーバーのねじ山修正、ボルトラグ、ボルトフェイスの修正とポリッシュ、チャンバーの計測とポリッシュを行ない、マニュアル通りにシャーシにレシーバーを装着(65インチ/ポンドのトルクで、2本のボルトを締め付けた)しただけだったという。俄然興味が出てきてしまった。
ウチにも古いレミントン700がある。もはやガンセイフからもはみ出してしまっている存在で、ほとんど撃っていないが、精度テストをした際、どんなアモやスコープで試しても100ヤードで1.75インチ以下には集弾してくれないのでそのままになっているハンティングライフルがある。こいつをMDT社のTAC21あたり(689.95ドル)のシャーシに組み込んでテストしてみたい。ウッドストックのオリジナルと、シャーシシステムの“装着しただけプアマンズカスタム”との比較テスト。面白そうじゃないですか。興味のある方、一報ください。
後編はこちら
Photo&Text:Hiro Soga
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年1月号 P.62-75をもとに再編集したものです。
※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。