ミリタリー

2023/04/24

【陸上自衛隊】島嶼防衛の最前線に立つ「奄美警備隊」密着取材レポート

 

 南西諸島地域の緊迫化に伴い、陸上自衛隊は主要な島嶼のひとつである奄美大島に、奄美警備隊を新編した。近年、我が国の防衛における重点となった「島嶼防衛」において、最前線に立つ部隊の1つである奄美警備隊を、フォトジャーナリスト・笹川英夫が密着取材したので、ご紹介する。

 

 

高まる島嶼防衛の必要性

 

 九州の南端から台湾北東にかけておよそ1,200kmにわたって連なる南西諸島は、東シナ海を挟んで西側の対岸は中国大陸という位置関係にある。南西諸島の主要な島である沖縄本島や奄美大島も、地図を見れば対岸までの距離は1,000kmもなく、まさに横腹をさらしていると言っていい位置にあることがわかるだろう。
 戦後、日本の防衛は長らく北方重視であり、同盟関係にある米軍を除き南西諸島の陸上戦力といえば、沖縄に第1混成団が配備されたほかはほぼ空白状態だったと言えた。しかし近年、中国による海洋進出の急速な拡大に伴い、台湾および尖閣諸島をめぐり緊張感が高まっており、有事となれば南西諸島は最前線となることから「島嶼防衛」に重点が置かれるようになったのは周知のとおりだ。

 

奄美駐屯地にて行なわれた沿岸監視訓練。写真の地上レーダ装置1号(改)は高機動車に搭載され、電波を利用して地上の移動目標を監視できる装備だ。海岸線一帯を監視する同装置の周囲を、小銃を構えた隊員が警戒する

 

加速する南西諸島方面への配備

 

 加速する南西諸島方面への配備陸上自衛隊は島嶼奪還に不可欠な水陸機動団を陸上総隊直轄部隊として新編し、九州・沖縄を警備区域とする西部方面隊隷下の第8師団を機動師団化。また、沖縄配備の第1混成団を即応近代化旅団(離島型)の第15旅団に改編(今後さらに師団規模に改編の予定)し、最西端の与那国島に沿岸監視部隊を、宮古島と奄美大島に警備隊を新編し、石垣島に建設中の駐屯地も間もなく完成するなど、南西諸島方面への配備を加速させている。そして、普通科を中心とする各警備隊に加え、海と空からの侵攻を阻止するため要所ごとに中SAM(03式中距離地対空誘導弾)、12SSM(12式地対艦誘導弾)、さらにNEWS(ネットワーク電子戦システム)といった陸自の切り札的な高性能装備を持つ各種部隊を配備するなど、戦力の空白を埋めていくことで徐々にではあるが抑止力を高めつつある。

 さて、今回取材させていただいた奄美警備隊は、九州南端と沖縄本島のほぼ中間にある、鹿児島県の奄美大島に駐屯する。奄美大島において、奄美警備隊は奄美市にある奄美駐屯地と、瀬戸内町にある瀬戸内分屯地の2カ所に分散して駐屯しており、中SAMを装備する第344高射中隊、12SSMを装備する第301地対艦ミサイル中隊など、西部方面隊直轄の各種部隊も同居。さらに島内にはレーダーサイトを備える航空自衛隊奄美大島分屯基地や海上自衛隊奄美基地などもある。

 

近年軍事用途でも脚光を浴びるドローン。奄美警備隊では情報収集などのため、陸自採用のドローンのひとつである、米国FLIR Systems(旧Aeryon)製UAV(狭域用)スカイレンジャーR60を運用。写真は任務前のキャリブレーション(調整)の様子で、操作はタブレットによって行なう。キャリブレーションを終えると、班長の指示でスカイレンジャーは発進していった

 

最前線に立つ奄美警備隊

 

 奄美警備隊の編制のモデルとなったのは、離島のひとつで国境の島でもある対馬(長崎県)の対馬警備隊だ。奄美警備隊は第8師団隷下部隊として、平成31(2019)年3月26日に新編。隷下には隊本部、情報小隊、通信小隊、対戦車小隊、施設作業小隊、狙撃班、衛生班からなる本部中隊、数個の小銃小隊と迫撃砲小隊、狙撃班からなる普通科中隊、そして整備小隊、補給小隊、管理小隊からなる後方支援隊などがあり、離島における防衛・警備および災害派遣など、各種事態に対応可能なように編成されている。

 装備も比較的充実している。隊員たちは戦闘防弾チョッキ3型で身を包み、小銃小隊では新型の20式5.56mm小銃への更新も進みつつある。さらに対戦車小隊の中多(中距離多目的誘導弾)や情報小隊のスカイレンジャーUAVなど、新世代の各種装備を与えられているのは、最前線に立つ部隊として必要だからだろう。取材させていただいた隊員たちの士気も高いようで、奄美警備隊の頼もしさを肌で感じることができた。

 

偵察用オートバイと中距離多目的誘導弾の連携

 

対戦車小隊の中距離多目的誘導弾が陣地進入するのに先立ち、偵察用オートバイを駆る情報小隊の隊員が前進

 

前方の敵を警戒しつつ隊員は鮮やかなブレーキターンを決めてオートを横倒しにし、射撃姿勢をとる

 

情報小隊の隊員が警戒する後方では、対戦車小隊長春野2尉が指揮する2輌の中距離多目的誘導弾が陣地進入する

 

Text & Photos : 笹川英夫

取材協力:陸上自衛隊 奄美警備隊、西部方面隊

 

この記事は月刊アームズマガジン2023年4月号に掲載されたものです。

 

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