ミリタリー

2023/04/16

【陸上自衛隊】日印の絆を深めた共同訓練「ダルマ・ガーディアン」をレポート

 

日印共同訓練

 

 インド太平洋地域の安定化は周知のとおり近年重要度を増しつつあることから、基本的価値を共有する日米豪印4カ国による戦略対話の枠組み「QUAD(クアッド)」が生まれた。これに関連して日本とインドは同志国として急速に防衛交流を深めており、2018年より日印共同訓練「ダルマ・ガーディアン」がスタートしている。同訓練はこれまでインド国内を中心に開催されてきたが、4回目にして初めて日本国内で実施された。今回はその模様を取材したので、お伝えしていこう。

 

前編はこちら

 

陸自市街地戦闘訓練場をフル活用

 

 この「ダルマ・ガーディアン」は、第1回目から変わらず「対テロに係る各種事態」を想定した内容となっている。インドでも、ミゾラム州にあるCIJW(対テロジャングル戦)学校を中心として、市街地戦闘訓練施設等を使った訓練を行なってきた。今回、饗庭野演習場が選ばれた理由も、同演習場内に市街地戦闘訓練場があるからだ。
 陸上自衛隊のTwitter等で訓練の様子が写真と共に公開され、中には実弾射撃訓練などの様子も収められていた。日印の隊員たちが屋内射場にて射撃する写真に、界隈はにわかに盛り上がった。基本的に陸自は米軍と訓練する機会が多いため米軍装備については見慣れていても、インド軍の装備は珍しいからだ。とりわけ、B&T MP9サブマシンガンをかまえるインド兵の姿は非常に新鮮だった。

 

なかなかの急斜面を降りて来るインド兵たち。今回派遣されてきた部隊は、山岳エリアでのゲリラ戦が得意だそうで、積雪寒冷地での戦闘にも慣れているとのこと

 

 そして、2月28日の報道公開を迎えた。この日は、これまで機能別に行なっていた市街地戦闘訓練を一連の流れで実施。テロリストが潜伏する街を捜索し、発見すれば制圧していく。ただし、日印が入り乱れて戦うというものではなく、各建物を日印にそれぞれ振り分け、別々に対処していった。
 状況開始。無人の街の上空を陸自のUH-1Jが低空飛行していく。まずは空からの偵察だ。報告を受け、自衛官が前進してきた。今回は第36普通科連隊の第5中隊が中心となっている。市街地近傍まで高機動車や軽装甲機動車で進出してくる分隊、徒歩で接近を試みる分隊の姿があった。
 少し遅れて、建物の影からインド軍が駆け足で近づいていく。今回は自衛隊のバトラーシステム(交戦訓練装置)を用いての訓練となるため、インド軍兵士たちは自国の迷彩服の上から、バトラーの受光部を備える陸自迷彩柄のヘルメットカバーやベストを着用していた。
 インド兵がまず制圧に動いたのは、3階建ての建物だ。横長の建物の端にある扉に、盾をかまえた隊員たちが取り付く。インド兵が居並ぶ最後尾に一名の自衛官の姿があった。彼は連絡係であり、主として訓練を安全に進行するための、半分状況外という立ち位置であるという。そして慎重に扉を開けると、一気になだれ込んでいった。間髪入れず空包射撃の音がこだまする。潜伏するテロリストと交戦しているようだ。続いて別の分隊が突入し、逐次増強していく。一方で、自衛隊は5階建ての建物へと突入していく。こうして、日印それぞれが戦闘を開始した。

 

インド軍の最初の目標であった3階建ての建物を制圧。それを他の部隊や自衛隊側に伝えるため、盾で守られた隊員が信号弾(シグナルフレア)を発射する

 

次の建物へと移動するインド兵。被弾の判定などにバトラーシステムを用いているため、自衛隊の迷彩柄ヘルメットカバーやベストを着用し、その上からインド国旗を模したパッチを貼っている。ナイロンホルスターに収めている拳銃は、ブローニングハイパワーのようだ

 

自衛隊が制圧した5階建ての建物に身を隠すインド兵と、それと入れ替わりに建物から出て来る自衛隊員たち。引き続き、それぞれ別の建物の制圧へと向かった

 

はしごを使って窓から突入していく場面。こうした突入の際、MP9のコンパクトさはかなり有利に見えた


 今回建物内の取材は許可されなかったので、建物内から聞こえてくる銃声により戦局を予想するしかなかった。エントリーからおよそ30分。インド側の建物から銃声が聞こえなくなった。どうやら制圧が完了したようだ。すると、時折、屋上や窓からインド兵の姿が見られた。残敵がいないか捜索していたようで、やがて制圧を知らせる信号弾が発射された。
 これを受け、インド兵は自衛隊が制圧した5階建ての建物へと一旦移動する。そこで態勢を整えた後、その隣にある平屋の建物へと窓から突入。陸自部隊も5階建ての建物から飛び出し、別の建物へと移動していった。こうしてこの日の訓練は終了した。

 

軽装甲機動車に身を隠して89式小銃を構える。車体にもバトラー受光部が取り付けられており、ルーフにはランプが載せられている。これが光ると、敵の攻撃により車体が被害を受けたことを表す

 

建物へとエントリーしていく仲間を後方より援護するインド陸軍のスナイパー。構えているのは、フィンランドのSAKO製TRG22スナイパーライフルだ。スコープはSTEINER製M7Xi 4-28×56のようで、フロント側のレールにバトラーシステムを装着。ビニールテープを巻いているのは脱落防止のためと思われる。また伏射時に邪魔になるのだろうか、射手のエルボーパッドが手首側まで引き下げられている

 

TEXT&PHOTO:菊池雅之

取材協力:陸上幕僚監部広報室・中部方面総監部

 

 

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