ミリタリー

2022/12/04

【陸上自衛隊】中央即応連隊の邦人救出訓練に注目!


 日々戦況が変化するウクライナ戦争や、北朝鮮によるミサイル発射事案などの影響から、近年は在外邦人の保護輸送にも現実味が増加。海外での任務も想定される陸上自衛隊の中央即応連隊(CRR)は、突発的な任務に即応するために日々訓練を重ねている。今回はそんなCRRの任務、そして訓練の場にて目撃した各隊員の装備を紹介していこう。

 


 

 

TJNOからRJNOへの変遷

 

 現在、防衛省では「在外邦人等の保護措置及び輸送」をRJNO(Rescue of Japanese Nationals Overseas)と呼称しており、外国での災害、騒乱、その他の緊急事態に際し、在外邦人等の救出や輸送が必要であると認められた場合、外務大臣の要請を受けて防衛大臣が出動を命ずる。これは自衛隊法第84条の3(在外邦人等の保護措置)または同法第84条の4(在外邦人等の輸送)に基づき、当該在外邦人等の保護措置または輸送を行なうことができるというやや受動的ともいえる措置で、紛争勃発=出動という性格のものではない。
 2015年9月19日「平和安全法制」が国会で審議可決され、「在外邦人等輸送」は「在外邦人等保護措置」へと進化。危険地域における邦人輸送をより安全確実なものとするため、輸送任務以外に武器使用を伴う警護や救出も認められた。これらの経緯により、防衛省は英語表記をTJNO(Transportation of Japanese NationalsOverseas)のT(Transportation:輸送)をR(Rescue:救出)として上記の「RJNO」へと変更。以降、公式には「保護措置及び輸送」と任務内容の並列表記となった。

 

突発事態への取り組み

 

 日本政府は幾度となく発生してきた事案に対処するために、防衛省や外務省などと協議し、関係法令の整備と国内外への情報発信を重ねている。そして、憂慮される台湾・尖閣や朝鮮半島有事など、日本に近いエリアでの紛争勃発時の国民保護を着実に実施できるように努力してきたはずだ。これまでにもPKO派遣やアフリカ、中東地域での邦人の緊急保護・輸送等の問題提起があり、その都度法整備や実施面で陸海空自衛隊の統合運用についても研究されている。

 

厳しい条件下での行動

 

 一般国民目線でいえば、いざ外国で有事が起きた時に日の丸を付けた自衛隊が駆けつけてくれて、混乱の中で怯える日本人を救出してくれるなら、どんなにありがたいと思うだろうか。しかし、その実現にはいくつかのハードルが存在する。
 「在外邦人等の保護措置及び輸送」には、実施要件として次のすべてを満たす場合に保護措置を行なうことが可能と定義される。

 

ア 保護措置を行なう場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行なわれることがないと認められること

イ 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行なうことについて、当該外国などの同意があること

ウ 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行なうための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること

 

 これらの条件が満たされた上で「外国における緊急事態に際しての在外邦人等の保護にあたっては、生命又は身体の保護を要する在外邦人等を安全な地域に輸送することが可能となっている。また、生命又は身体に危害が加えられるおそれがある在外邦人等について、輸送だけでなく、警護、救出などの保護措置も次の要件のもとで可能となっている。」(※防衛白書より引用)とあり、部隊の派遣や救出輸送作戦の実施には、極めて厳格な条件整備が必要であるようだ。

 

 

RJNOにおける中央即応連隊(CRR)の任務

 

 栃木県の宇都宮駐屯地を本拠地とするCRRは、RJNO任務においては空路(空自)もしくは海路(海自)で目的地に到達後、あらかじめ集結しているであろう残留邦人のもとへと陸路にて進出して救出し、輸送する任務も課せられている。派遣の前提条件は前述の通りで、戦闘が行なわれていない地域であっても、無法地帯になっていれば現地武装集団などによる強盗や暴動への対処も必要となるだろう。
 そこで、CRRでは小銃弾程度の攻撃を防御しつつ移動できる輸送防護車(MRAP)や軽装甲機動車(LAV)などを積極的に運用。建物内に避難待機する邦人の救出の際などにおける不測の事態への対処に備え、日頃からCQB(市街地戦闘)やCQC(近接戦闘)などの訓練に比重を置かれ、格闘戦技に長けた隊員が多いとも言われている。
 次回、月刊アームズマガジンのために展示していただいた邦人救出任務のデモンストレーションにわかりやすく架空戦記風のストーリーを加えてみたものを掲載する。こちらもご覧いただきたい。

 

 

中央即応連隊の装備

 

 今回、中央即応連隊戦技訓練班の隊員による準備の様子も取材することができた。デモンストレーションの掲載に先駆け、その中から市街地戦闘向けの装備をいくつか抜粋してご紹介する。

 

89式小銃

 

こちらの隊員は89式小銃にAimpoint M5とマグニファイアを組み合わせ、Unity Tactical製のマウントで搭載している。市街地戦闘において遠近を使い分ける射撃を追求する上での、ひとつの解答といえるようだ

 

 

 

ブリーチングツール

 

隊員の何名かは、ブリーチングツール(突入時にドアや壁などを破壊する装備)を装備していた。大型ハンマーは一般住宅用のドアであれば数撃で打ち壊すことができる

 

 

こちらの隊員は背中にバールの機能を持つブリーチングツールを背負っていた。ドアをこじ開ける際などに有効な装備

 

 

SFP9 M

 

新型拳銃H&K SFP9 Mのグリップに、田村装備開発のN-BANDを装着している隊員がいた。滑り止め効果が付加され、保持もしやすくなったとのこと

 

 

準備のため大量の装具類が並ぶ。即応性を至上命題とする彼等にとって、すぐに出動できるよう常に装備を整えておくことが習慣化している

 

89式小銃に照準具JVS-V1を装着する時、真剣な表情で没頭している姿を捉えた。リモートスイッチの配置には隊員それぞれの工夫があり、自分の射撃姿勢に合う位置があるようだ

 

 

Planning & Photos : 笹川英夫

Text : 神崎 大/アームズマガジンウェブ編集部
Special thanks to : 陸上自衛隊 東部方面後方支援隊第104全般支援大隊、陸上総隊司令部、同付隊、中央即応連隊

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年12月号 P.38~49をもとに再編集したものです。

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