2022/11/09
【陸上自衛隊】退役迫る74式戦車、その威容──中部方面戦車射撃競技会
ベテラン“74式戦車”が集結
この7月、陸上自衛隊あいば野演習場にて、中部方面戦車射撃競技会が実施された。中部方面隊隷下の各戦車部隊の隊員たちが射撃の腕を競うこの競技会には、昭和49(1974)年に採用され、長らく日本防衛の第一線を支えつつも退役が迫るベテラン、74式戦車が多数参加。電子装置満載の10式や90式とは異なり、“アナログ”な74式戦車ならではの魅力を感じとることができた。
主役は74式戦車
陸上自衛隊中部方面隊隷下の戦車部隊が射撃の技術を競う「中部方面隊戦車射撃競技会」が今年7月12日(火)、滋賀県の陸上自衛隊あいば野演習場で行なわれた。参加部隊は第3師団第3戦車大隊(今津駐屯地)、第10師団第10戦車大隊(今津駐屯地)、第13旅団第13戦車中隊(日本原駐屯地)の3個部隊から選抜された5個小隊20輌、総勢80名。なお、このなかには5名の女性自衛官も含まれている。
この戦車射撃競技会は過去4回実施されており、今回は平成27(2015)年に次いで5回目になるそう。実に7年ぶりの開催なのだが、注目すべきは、なんといっても全部隊が74式戦車を運用しているという点だ。
アナログなメカを持つ74式
74式戦車は、戦後初の国産戦車である61式戦車の後継として誕生した戦後第2代目の戦車。すでに導入から50年近くが経過しているものの、いまだに第一線で運用されている。
陸上自衛隊には、より新しい90式戦車や10式戦車があるが、それらは射撃や装填動作がコンピューターや機械によって大幅に自動化されているのに対し、74式戦車はそのほとんどがアナログである。たとえば砲弾の装填は、90式戦車や10式戦車は自動装填装置によってボタンひとつで行なえるようになっているのに対し、74式戦車は装填手の人力によって行なうのである。
目標追尾も、90式戦車や10式戦車はコンピューターでロックオンすれば、自動で行なってくれるのに対し、74式戦車では砲手の目測によって目標の動きを予想しながら照準することが求められる。
練度とチームワークが不可欠な戦車
こうした厳しい車内環境で最も過酷なのが砲手であろう。激しく揺れる車内である程度の照準を定めておき、車輌が停止した瞬間に正確な照準に切り替えてから射撃をする。もちろん、動いている標的に対する射撃であればなおさら難易度は上がる。
その一方で、操縦手のブレーキ操作も大きく影響するという。車長が「止まれ」といった場所で止まるのだが、とりあえず急ブレーキを掛ければいいというものでもないそうだ。最初こそ強めにブレーキを掛けつつも、最後はなるべく「ふんわり」止まれるようにブレーキ操作を行なうというのだが、そこはタイヤを装着している装輪車とは感覚がまるで違うため、戦車の操縦は人一倍気を使うのかもしれない。実際、操縦手の練度によって射撃の結果が変わるとも言われている。つまり、戦車は車内のチームワークの如何で強さが決まるといえよう。
ゆえに、乗員の練度の差は競技会の成績にも大きく反映されることから、各部隊とも頂点を極めようと激しく競い合っていた。
競技会は4輌で1個小隊を組み、前方に設置された的に向けて戦車砲と連装銃(機関銃)の両方を射撃するという内容で実施された。的への距離は最大2km、その中には移動目標も用意されていた。特有の甲高い金属音を響かせながら射場へと向かう74式戦車。後方では万が一の事故の際に駆けつける78式戦車回収車も見守る。各部隊が順に射撃、その結果が次々と統裁台の裏に設置してある掲示板に記入されていく。
熾烈を極めた競技会だったが、最終的には第3戦車大隊第1中隊第1小隊が優勝を飾った。
16式機動戦闘車への更新
ちなみに、今回の射撃競技会には前出の第14旅団第15即応機動連隊の16式機動戦闘車2個小隊8輌もオープン参加。今後、74式戦車は減る一方なのに対し、逆に16式機動戦闘車は配備部隊を増やす予定である。現に、年間20輌から30輌程度のハイペースで製造が進んでいるとも言われており、既に最新ロットはC5にまでなった。
16式機動戦闘車は今津駐屯地にも配備されるようであり、もしかしたら数年後は、16式機動戦闘車の部隊が一堂に会した「中部方面隊機動戦闘車射撃競技会」が行なわれているかもしれない。
Text & Photos : 武若雅哉
この記事は月刊アームズマガジン2022年11月号 P.142~147をもとに再編集したものです。