ミリタリー

2022/10/26

【陸上自衛隊】陸上自衛隊の多用途/輸送ヘリコプター


 陸上自衛隊のヘリコプター戦力において大きな割合を占める多用途/輸送ヘリコプター。アパッチやコブラといった戦闘/攻撃ヘリのような華々しさはないものの、輸送や連絡、観測、そして救難などさまざまな任務に用いられ、マルチに活躍する装備ともいえる。前回は自衛隊の最新多用途ヘリコプター「UH-2」の解説と引渡式の模様をお伝えしたが、今回はUH-1J、UH-60JA、そしてCH-47J/JAといった陸自の多用途/輸送ヘリコプターにスポットを当て、その実力を見ていこうと思う。

 

陸自最新ヘリ「UH-2」の紹介はこちら

 


 

陸自の多用途/輸送ヘリ

 

多用途ヘリコプター
UH-1J

 

フォーメーションを組んで編隊飛行する第1師団第1飛行隊のUH-1J。調達開始以来30年近く経ち、もはやベテランの域にさしかかった機体ではあるが、陸自の多用途ヘリとしては最大勢力を誇り、まだまだ最前線で飛び続けるだろう

 

 昭和34(1959)年にアメリカ陸軍で採用され、ベストセラーとなったUH-1(当初はHU-1と呼称され、そこから“ヒューイ”の愛称で知られる)を陸上自衛隊向けに改良した機体がUH-1Jだ。機種名のUHはUtility Helicopter、すなわち汎用ヘリコプター(陸自では多用途ヘリコプターと呼称)を意味している。
 陸自の多用途ヘリとしてはUH-1B、UH-1Hに続く3代目で、平成3(1991)年度予算から調達が開始されている。
 UH-1Jは全国の方面航空隊や師・旅団の飛行隊の主力ヘリコプターとなっており、災害救助から山林火災消火活動、物資輸送から人員輸送、果てはドアガン射撃まで行なうマルチな性能を持つ。特に普通科部隊を迅速に遠距離輸送できる手段として多用されており、着陸せずに人員を降下させるリぺリング降下などは記念行事などでの注目展示となっている。
 すべてが手動操縦のため、パイロットの技量がそのまま飛行技術に反映されるとあって、パイロットたちからは「最も面白いヘリコプター」として評価されている。

 

UH-1J SPEC

  • 乗員:2名
  • 収容人員:11名
  • 全長:17.44m(回転翼含む)
  • 全高:3.97m
  • メインローター直径:14.69m
  • 最大離陸重量:約4.7t
  • エンジン:T53-L-703ターボシャフト(単発)
  • 出力:1,800shp
  • 最大速度:約240km/h
  • 航続距離:約500km
  • 実用上昇限度:約3,800m

 

一度降着してしまうと再度離陸するまで時間がかかるため、迅速に隊員を卸下させる際はこうして地面ギリギリまで降下し、飛び降りる方法を用いる。手前側隊員の足元にある錘付きの紐は、飛び降りる高度を測るための道具

 

某戦争映画を彷彿とさせるUH-1Jの4機編隊。逆光のためシルエットだけが浮かび上がる構図となったが、逆にそれが迫力を増している

 

多用途ヘリコプター
UH-60JA

 

山間部を背景に飛行するUH-60JA。陸自迷彩が効果を発揮しており、遠くから見ると機体の位置を確認することが難しい。2015年に発生した鬼怒川の氾濫では、今にも濁流に押されそうになっていた被災者を救い出す様子がテレビ中継され話題となった

 

 UH-1シリーズの後継として1979年よりアメリカ陸軍での運用が開始された高性能の汎用ヘリコプター、UH-60ブラックホークをベースに、日本向けの改良を加えて平成7(1995)年度予算から調達を開始した多用途ヘリコプターがUH-60JAだ。
 導入当初はUH-1Jの後継機として導入される予定だったが、コスト増のため一部の飛行隊にしか配備されず、現在ではUH-1Jとともにハイ・ローミックスでの運用がなされている。最終的な保有数は40機で、一部は事実上の特殊作戦群専属飛行隊機として運用されているようだ。また、増槽(追加の燃料タンク)を装備することで航続距離も長くなり、その能力を活かして離島間の急患搬送で活躍していることでも知られる。
 アメリカ陸軍のUH-60のような重武装(ヘルファイアやロケットポッドなども搭載可能)はしないものの、12.7mm重機関銃や5.56mm機関銃を搭載したドアガン射撃を行なうことができるほか、ミニガンを搭載したUH-60JAの姿も目撃されるなど、配備数は少ないながらも注目すべき動きを見せている。

 

UH-60JA SPEC

  • 乗員:2名+1名
  • 収容人員:14名
  • 全長:19.76m(メインローター含む)
  • 全高:5.13m
  • メインローター直径:16.36m
  • 最大離陸重量:約11t
  • エンジン:T700-IHI-401Cターボシャフト(双発)
  • 出力:1,800shp×2
  • 最大速度:約265km/h
  • 航続距離:約470km(通常時)、約1,300km(増槽使用時)
  • 実用上昇限度:約4,000m

 

第12旅団第12ヘリコプター隊によるエレファントウォーク。観測ヘリコプターOH-6の退役によって、旅団保有機はUH-60JAとCH-47J/JAの2機種になってしまった

 

大型輸送ヘリコプター
CH-47J/JA

 

低空ホバリングするCH-47JA。自動操縦でのホバリングも可能なため、こうして機体の下で作業する隊員がいる時は誤操作でふらつくこともなく安心していられる

 

 1962年からアメリカ陸軍での運用が開始されたCH-47を、陸上自衛隊および航空自衛隊ではCH-47Jとして昭和59(1984)年に導入。平成7(1995)年からは燃料タンク容量を増やして航続距離を大幅に伸ばしたJA型の生産も開始されている。陸自最大のヘリであり2組の大きなメインローター(タンデムローター型)が特徴。前から見ると「犬」に見え、後ろから見ると「カエル」に見えると女子にも人気があり、中の人やファンいずれにも「チヌーク」という愛称で親しまれている。
 体験搭乗の機会も多く、頻繁に見かける気がするものの、そのほとんどは千葉県にある木更津駐屯地(第1ヘリコプター団)に集中配備され、その他には第12ヘリコプター隊や中部方面隊及び西部方面隊の航空隊、そして沖縄県の第15ヘリコプター隊に配備されている程度である。
 CH-47J/JAは、陸自においては「大型輸送ヘリコプター」として分類されているが、ほかの多用途ヘリコプターと同様、さまざまな任務に用いられる。特に大量の物資を迅速に輸送できる手段として重宝されており、空挺降下の支援や120mm迫撃砲の空輸など、ヘビーな任務を多く任せられている。

 

CH-47J/JA SPEC

  • 乗員:3名+α
  • 最大搭載人員:55名
  • 全長:30.1m(ローター含む)
  • 全高:5.6m
  • メインローター直径:18.3m
  • 最大離陸重量:約22.6t
  • エンジン:T-55-K-712ターボシャフト
  • 出力:3,149shp×2
  • 最大速度:約267km/h
  • 航続距離:約540km(J)、約1,040km(JA)
  • 実用上昇限度:約2,637m(J)、約2,804m(JA)

 

CH-47J(写真手前)とCH-47JA(写真奥)。JA型では機首に気象レーダー、機首下にFLIR(暗視装置)が追加装備され、燃料タンク容量増加にともない胴体左右のスポンソン(張り出した部分)がより大きく膨らんでいるのが分かる

 

CH-47J/JAは車輌も搭載できる。サイズは高機動車が限度で、実際に機内の様子を見てみると上下左右ともにピッタリサイズのため、操縦手はまっすぐ運転しなければならない

 


 

ヘリにできること

 

 文字通り、多用途/輸送ヘリにできることは多い。逆に言ってしまえば、戦闘/攻撃ヘリが得意とする対機甲戦闘などの限定された状況以外の場面で、柔軟に運用できるであろう。とはいえ、最近のロシアによるウクライナ侵攻などを見てもよく分かるのは、敵の対空火器を沈黙させている場合にのみ能力を最大限発揮できるということだ。つまり、ヘリコプターは飛行高度が低い分、戦闘機や輸送機よりも対空火器に対し脆弱なのである。
 こういった懸念をなくした状態での多用途/輸送ヘリコプターの任務は多岐に渡る。たとえば小銃小隊の空輸や空挺降下などの支援、降着できない地域へのファストロープまたはリぺリングによる特殊卸下(しゃが:人員や積み荷を航空機や車輌から降ろすこと)、ドアガンによる地上部隊支援、さらには野戦特科部隊などの射撃観測なども行なう。以下、陸自での多用途/輸送ヘリの使い方について、いくつか紹介しよう。

 

ファストロープ降下の様子。1本のロープに複数名が取り付けるため、人員の卸下速度はどの降下方法よりも速い。なお、規定値以上の握力が必要とされ、何度も訓練塔から降下する練習を重ねないと実機からの降下訓練にステップアップすることができない

 

小銃小隊の空輸

 

 まず小銃小隊などの空輸だ。これは主に「GF(ゲリラフォース)」と呼ばれる遊撃部隊を空輸する際に用いられる。あくまでもGFが移動するための手段の1つなのだが、UH-1など1機の中型ヘリコプターでは多くても8名ほどのGF隊員しか運べない。そのため、味方の普通科中隊などが展開する敵との接触戦を迂回する方向にGFを空輸し、側背から敵をかく乱する目的で投入される。この際、仮に敵のGFが携行式の地対空誘導弾などを保有している可能性があるときは、敵の行動範囲外での飛行が前提となる。そのため、降着場所は敵陣地からは遠く離れてしまうものの、自軍陣地から迂回するよりは遥かに早く到達できるため、移動効率そのものはよくなる。

 

低空でホバリングするヘリコプターは敵からすればいい標的である。そのため、自分たちが搭乗する味方ヘリは、何としても守り抜かなければならない

 

空挺降下

 

 その一方でヘリコプターから空挺隊員を落下傘降下させることもある。これもいわばGFのような部隊運用の1つなのだが、落下傘で降下できることから低空飛行時よりも敵の対空攻撃を避けやすいという性質がある。といっても、携行式地対空ミサイル(MANPADS)などは例え発見できたとしても簡単に避けられるものではないのだが、高度があるだけ生き残る可能性は高くなるだろう。もう1つの利点は、ヘリコプターの降着地域を選ばないことだ。もちろん、降下する空挺隊員からすればより良い場所に降りたいという気持ちがあるものの、こうした作戦時には非常に限定された場所へ降下することになるため、彼らに多くを望むことはできないだろう。また、降下中の空挺隊員を攻撃することは国際条約で認められているため、降下地点の選定は非常に重要である。

 

CH-47JAからの空挺降下。大型輸送機からの降下はどうしても目立ち、なおかつ大人数を運ばないと費用対効果が見込めない。そのため、少数を奥地に降下させるような局地的な潜入任務などには、ヘリコプターが適任となる

 

リぺリングとファストロープ

 

 では、降着できない場所での隊員降下はどうするのか。その時に使用されるのがリぺリングやファストロープでの降下だ。前述のように特殊卸下と呼ばれ、リぺリングであれば地上20mほど、ファストロープであれば地上10m以下の高度で行なわれる。どちらも一長一短なのだが、両者の決定的な違いは重量物を背負っているか否かだ。
 リぺリングはカラビナなどを使って強い制動をかけることができるため重量物を背負っていても降下することができるが、一方でファストロープの場合は自身の手と足だけでブレーキ操作を行なうため、重量物を背負っていると非常に危険な状態になってしまう可能性が高い。仮にロープから手が離れてしまえば、あとは地上へ落ちるのを待つだけになる。

 

2機のUH-60JAからリぺリング降下する普通科隊員。リぺリング降下の最大のメリットは重量物を持った状態でも降りることができる点だ。そのため、長期間の潜入を想定している場合に選択される移動手段のひとつとなる

 

ドアガン射撃

 

 こうした人員輸送後に行なわれることが多いのが、ドアガン射撃による地上部隊への支援だ。
 ドアガン射撃は主に機関銃を使って行なわれる。専用の架台をヘリコプターに取り付け、そこに5.56mm機関銃や12.7mm重機関銃を設置すれば、簡易な武装化が完了する。この銃を操作するのは機上整備員などになるため、彼らは機会を捉えて実弾射撃の訓練にも参加している。

 

UH-1Jの側面に専用の架台を設置し、5.56mm機関銃MINIMIを搭載。射手は航空科の隊員が担当し、他のヘリが部隊を降着させる際その周囲を警戒し、必要に応じて上空からの支援射撃を行なう

 

災害派遣任務


 多用途ヘリコプターの神髄が発揮されるのが、災害派遣任務であろう。
 地震や台風などの風水害によって山奥の集落などは孤立しやすくなる。そういった場合、普通科部隊の隊員が救援物資を背負って孤立集落まで向かうこともあるが、自治体との調整や移動経路などの選定に時間が掛かり、それから徒歩で前進となると更に時間がかかる。こうした時に、ヘリコプターがあれば迅速に物資を輸送することができる。
 実際、令和元(2019)年に発生した台風19号の災害派遣において、東京都奥多摩町で発生した土砂崩れの影響で孤立した集落に立川駐屯地に所在する第1師団第1飛行隊がUH-1Jを使用して救援物資を届けている。この活動はUH-1Jを4機使い、天候が安定しない山間部を低空飛行して実現できたもので、当時、任期付自衛官として一時的に現役復帰していた筆者は現地へと動向してその一部始終を記録している。
 これ以外にも、輸送ヘリコプターによる空輸は各地で行なわれており、大規模災害ともなると航空自衛隊の輸送機で運ばれてきた救援物資を輸送ヘリコプターに乗せ換えて現場まで空輸するなど、さまざまな場面で活用されているのである。
 また、沖縄の第15ヘリコプター隊は離島間の急患搬送で忙しく飛び回っている。第15旅団の前身となる第1混成団時代から合わせると令和4(2022)年8月現在で延べ1万件以上、人数にして10,400名以上の患者をUH-60JAおよびCH-47J/JAで空輸するなど、かけがえのない多くの命を救っているのだ。

 

機内に収容した民間人に簡易的な救急処置を施す隊員。機内では限定的な処置しかできないものの、このちょっとした対処が救命率を高め、後遺症の発症率を下げることができるのだ

 

ヘリコプター搭乗員の装備

 

 陸上自衛隊の職種の1つ、航空科特有の装備にフライトスーツや航空ヘルメットがある。陸自では航空用という名称で調達されており、一般的な戦闘服に比べアラミド繊維などの難燃素材が使用され、感触としては戦車の乗員などが着用する装甲用に近い感じだ。左腿には航空図誌などを挟む大型のクリップが取り付けられており、専用の半長靴(戦闘靴)は側面にファスナーを備えている。こちらは主にパイロットとフライトエンジニアに支給されているため、航空科職種でも着用しない隊員は多い。
 その一方で、誰でも着用することができる航空ヘルメットは「FHG-1」という名称で調達されている。スモークのシングルバイザーが格納されており、パッと見は航空自衛隊のFHG-2や海上自衛隊のFHG-3と同じような形状になっている。バイクの有名ヘルメットメーカーであるSHOEI製で日本人の頭の形にフィットしているため、長時間の着用でもストレスは少ない。
 この他にも、洋上飛行時に欠かせないライフジャケットや耐寒スーツなども配備されているが、我々が目にする機会は少ないだろう。

 

CH-47J/JAの機上整備員の服装。パイロットと同じ航空服を着用し、FHG-1航空ヘルメットを被る。機体後部のカーゴドアを開けて飛行するため、転落防止のフルハーネスも必須だ。必要に応じて小銃なども装備するほか、ガナーとして機関銃射撃も行なう

 

Text & Photos : 武若雅哉

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年10月号 P.144~153をもとに再編集したものです。

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