2023/01/25
【陸上自衛隊】PKOを支える陸自の訓練に密着!「陸上自衛隊PKO訓練」
平成4(1992)年9月、陸上自衛隊は国連カンボジア暫定機構(UNTAC)に施設科部隊等を派遣し、我が国初の国連平和維持活動(PKO)参加として国民の注目を浴びた。それから30年の節目を迎えた令和4(2022)年9月。陸上自衛隊が公開した国際活動教育隊による「宿営地警備」と中央即応連隊による「駆け付け警護」、2つのPKO訓練をご紹介する。
国連平和維持活動(PKO)とは
国連平和維持活動(United Nations Peacekeeping Operations:略称PKOあるいはUN PKO)は、国連が紛争地域の平和の維持を図るため、国連加盟国の軍などが紛争当事者の間に立って停戦や軍の撤退の監視等を行ない、紛争当事者による対話を通じた紛争解決の支援を目的とする。冷戦終結後は紛争の多くが国家間の紛争から国内紛争、あるいは国内紛争と国際紛争の混合型へと変化し、PKOの任務も多様化してきた。
我が国は平成4(1992)年4月の国際平和協力法制定に伴い、同年9月に初のPKOミッションとして国連カンボジア暫定機構(UNTAC)に陸上自衛隊の施設科部隊等を派遣した。これを皮切りに、これまで28のミッションに延べ12,500名以上の人的協力、29回の物資協力を実施。現在は国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に4名、エジプトのシナイ半島における多国籍部隊・監視団(MFO)に2名の司令部要員を派遣している。
また、自衛隊では「能力構築支援事業」の一環として、国連三角パートナーシッププログラム(UNTPP)などに基づきPKOに参加する国(要員派遣国)の要員の訓練支援に力を入れている。とりわけ、途上国のPKO要員は技術・能力が充分でないケースが多いため、任務遂行のための教育は重要となる。そんな中、自衛隊員の「高圧的にならない丁寧な指導」は世界的にみても重宝されているようだ。
宿営地警備訓練
我が国のPKO参加が30周年を迎えた今年、大手メディア向けに2つのPKO訓練が公開された。私は陸上総隊司令部報道官のはからいで取材陣に加えていただけたので、その模様をお伝えしていこう。
まずご紹介するのは、9月12日に静岡県の駒門駐屯地で行なわれた、国際活動教育隊による「宿営地警備」の訓練である。本訓練は上級陸曹特技課程「国際活動」の一環として、国際平和協力活動などにおいて派遣先の宿営地警備にあたる隊員を対象に実施された。
宿営地が脅威にさらされた場合、警備にあたる隊員には法に基づいた対処が求められる。今回の訓練では宿営地ゲートにおけるセキュリティチェックに加え、暴徒による宿営地襲撃への対処などが盛り込まれた。その中で、暴徒に投石された場合、あるいは発砲された場合にはそれぞれどのように対処するべきかなど、警備にあたる隊員たちが状況に応じて適切に対処する判断力が試された。
国際活動教育隊とは
国際活動教育隊は平成19(2007)年3月、中央即応集団直轄部隊として駒門駐屯地で新編。平成30(2018)年3月には中央即応集団廃止にともない、陸上総隊直轄部隊となっている。
その任務は、陸上自衛官に対する国際任務に関わる基本教育の実施、国際任務に派遣される部隊や隊員個人に対する派遣前訓練および訓練支援の実施、国際任務の教育訓練に関する研究など。平素からこうした教育を行なえるようにしたことで、国際平和協力活動において迅速かつ継続的に部隊を派遣できる体制が強化されている。
国際活動教育隊長の西村修1等陸佐は「どうしても現地の空気感を伝えるのは難しいが、多様な訓練でいつ命令が出ても対応できるようにしたい」と話す。同隊ではこれまでの国際平和協力活動への派遣経験者が得た経験、教訓を蓄積してノウハウの継承に努め、海外での共同訓練や国際会議にも参加して知見をアップテートするなど、意欲的に任務を果たしている。
中央即応連隊による駆け付け警護訓練
9月14日には栃木県の宇都宮駐屯地で、中央即応連隊による「駆け付け警護」の訓練が公開された。「駆け付け警護」とは海外でPKOの任務につく自衛隊が、その近くで活動する国連職員やNGO(国際的な社会課題に取り組む民間の団体)などが襲撃を受けて緊急の要請があった際、自衛隊が駆け付けてその保護にあたるというもの。平成27(2015)年9月に平和安全法制が国会で審議可決され国際平和協力法が改正されたことに伴い、新たに自衛隊に課された任務の1つである。
この訓練は、宇都宮駐屯地内にある市街地戦闘訓練施設で行なわれた。状況(訓練の想定)は現地の部族間で対立が生じて暴徒化し国連職員3名が避難先の事務所で身動き取れなくなり、中央即応連隊が救出に向かう、というものだ。
中央即応連隊の隊員は軽装甲機動車を伴って暴徒に包囲された国連事務所に接近。暴徒が投石を始めたため、ポリカーボネート製の盾で身を守りつつ閃光発音筒(いわゆるフラッシュバン/スタングレネード)を用いて暴徒を鎮圧。事務所から職員を救出し、負傷した暴徒の救護も行ないつつ訓練は終了した。暴徒の鎮圧から職員の救出までの動きは俊敏かつ大胆で、中央即応連隊の練度の高さを実感することができた。
Text&Photos:笹川英夫
取材協力:陸上自衛隊 陸上総隊司令部報道官
この記事は月刊アームズマガジン2023年1月号 P.142~151をもとに再編集したものです。