2023/04/30
【実銃】傑作ライフル、リー・エンフィールドの魅力を実射で確かめる
Lee-Enfield
No.1 Mark Ⅲ
.303 British
第一次、第二次大戦において、大英帝国ならびに英連邦国軍の基幹歩兵銃として使われたリー・エンフィールド ボルトアクションライフル。軍用銃としての歴史はマウザー98よりも古い。半世紀以上にわたって軍用として使用され続けたのは、優れた部分も少なからずあったからだ。現在ではほとんど顧みられることがなくなったリー・エンフィールドに、改めてスポットを当ててその魅力を探ってみたい。
リアロッキング
リアロッキング法のメリットはロッキングラグ用のガイドレースウェイを必要としないため、スムーズな往復が得やすいことだ。原則としてエジェクションポート、マガジンカットのサイズを可能な限り小さくすることで、ボルトをサポートし同時にレシーバーの強度を保つ。リアロッキング法は古くからあり、珍しくはないのだが、デメリットもあって近年では廃れてしまった。現在、市場にあるボルトアクションライフルのほとんどは、ボルトのフロント部にロッキングラグを配したものだ。ロッキングラグが噛み合うレシーバーのリセス位置が前の方がハイプレッシャーに有利となる。
実際問題として、ファクトリーカートリッジを撃つ分にはリアロッキングでもなんら問題はない。参考までに発射時の状況を追ってみよう。ケースヘッドには強烈なプレシャー(トラスト)が掛かる。リアロッキングの場合、ロッキングラグに掛かるプレシャーを受けるレシーバーのリセスは後方にある。その間のレシーバーマテリアルは瞬間伸びることになる。たとえ短くとも伸びるのだが、その伸び率はマテリアルの種類、そして長さに関係してくる。レシーバーの強度確保はマストだが、重量増加を生むのでおのずと限界がある。伸びたレシーバーは瞬時に元の寸法に戻るのだが、その伸び、戻りのタイミングがキーとなる。伸びて、戻り切らないケース(薬莢)をピンチする格好となり、ボルトのオープンに抵抗がかかる。何回もケースをリローディングした場合、発射時におけるケースの復元力が徐々に鈍る。すなわち戻りのタイミングがずれてきて、ボルトのオープンに抵抗がかかる。これがリローダーに嫌がられる。特にリローダーが多い米国じゃホットロードもありでこの問題に拍車をかける。今日、リアロッキングは.22LR用として以外、センターファイヤー用として廃ってしまった理由はもちろんこれだけではない。ここで述べたことはリローダーの多い米国の背景から来たものだ。それについては別の機会に述べたいと思う。誤解のないように再度書くが、ファクトリーアモを撃ってる分にはリアロッキングラグでも全く問題がない。
リーライフルはミリタリーライフルだ。当時、レシーバー上方からのカートリッジ装填は常套手段だった。当然、エジェクションポート/ローデイングポートは大きくならざるを得ない。となるとカートリッジの突き上げによるボルトバインディングは避けられない。リーはボルトボディを二分割とし、ボルトヘッドの回転、ボルトストップの機能、そしてレシーバー右側面のガイド機能を組み合わせることで、ボルト往復におけるアンチボルトバインディングを実現した。マウザー98の場合、エキストラクターがこの役目を兼ねている。マウザー以前に、方法でこそ異なるものの、このような有効なデザインが既に存在したことは評価できる。
1,700万挺以上も製造されたリーライフル系アクションが、なぜ現代のスポーティングライフルに進化しなかったのだろうか? .303ブリティッシュは、現在主流のいわゆるモダンカートリッジと比較すればロープレッシャーカートリッジと位置付けられる。リーライフルの作動方式は、.303ブリティッシュを使う限りなんら問題はなかったのだが、よりハイプレッシャーのカートリッジには耐えられなかった。一言でいえば、“応用が利かなかった”というわけだ。マウザー98との違いはここにあったと言ってよいのではないかと思う。さらに言えば、リー・エンフィールドライフルのアクションは、マウザーアクションに比べてロックタイムが長かった。ごくわずかの違いではあるが、これはスポーティングライフルとしては嫌がられる要素だ。
セイフティレバーとトリガー
左側面に配したセイフティレバーは手前に倒してオンとなる。この時、レシーバー内部に突き出したセイフティチャッチの爪がボルトの溝に入り、ボルトをロックする。すなわちこの状態ではボルト操作はできない。またストライカーがレストポジションでもセイフティはオンとなり、この時もボルトをロックする。右利きならグリップを握ったまま親指でセイフティレバーがなんとか操作できる。三八式、九九式ならグリップから一旦手を離し、シュラウドを押しながら回さなければならない。要するに片手だけでは操作不可だ。
トリガープルは約2.7kg、ツーステージ(2段引き)で、クリアな第一段と第二段がある。これはトリガーのシアと接する部分をカッタウェイでみれば容易に理解できる。
LOP
いつもLOPとだけ書いている。たまにはちゃんと解説しよう。LOPとはLength of Pullの略で、トリガーからバットプレート後部までの寸法をいう。
リー・エンフィールドのLOPは13-1/4”(337mm)となっている。これはヨーロッパのスタンダード寸法だ。普通に撃つなら筆者にはちょうどいい長さだ。速射を重要視するなら、ボルト操作に余裕を持たせるため若干短めの方がいい。
チャージャークリップによるカートリッジの装填
チャージャークリップには5発は入る。マガジンキャパは10発なので2個の5発チャージャーを使って装填する。しかしチャージャークリップがなくともバラでも1発ずつ装填可能だ。マガジンは一応着脱式なので、マガジンごとの交換も可能だ。しかしそれよりもマガジンは外さず固定マガジンとして使い、チャージャークリップで装填した方が容易ではなかろうかと思う。装填したマガジンを何本も携帯すればマガジン自体の重量も加算され、総重量はバカにならない。但し、予備のマガジンを少なくとも1本は持つべきだ。というのは戦闘中にマガジン脱落による紛失も考えられる。マガジンなしでシングルショットで撃つことも可能だが、カートリッジ装填がスムーズにできない。
サイト
フロントサイトはプロテクター付きのブレードで、ポンチ/ハンマー、またはフロントサイト調整工具によるウインデージの調整が可能となっている。リアはUノッチ、戦闘射撃ポジションなら一番下にセットした状態が妥当だ。目盛り200以下で目分量で言えば100と200の中間だろう。サイト自体には200-2000ヤードまで目盛られている。有効射程は500ヤード、それ以上はエリア射撃に近いものだろう。感心したのは小刻みにリアサイトハイツアジャストメント(キャリアー)の調整が可能となっていることだ。視力があって優れた射撃人ならかなり正確な射撃が可能と見た。もっとも銃とアモの相性もあるのサイトだけで決められないことだが……。
プレッシャーポイント
一見、何の変哲もないミリタリーライフルに見えるがプレッシャーポイントなど今日でも話題になりそうなアイデアを100年以上前に既に歩兵銃に組み込んでいたのは驚きだ。多分にほとんどの読者も知らなかったに違いない。この部分に触れたリポートが出回っていないからだ。戦後、レミントン社がM40ボルトアクションライフルにプレッシャーポイントを組み込み、話題をさらった記憶がある。結局は“車輪の再発明”といえないこともない。先人は既にいろんなことを試みていたのだ。プレッシャーポイントについては前述の写真で説明している。
実射
今回、お恥ずかしいことに.303Britの手持ちがあったと記憶していたのだがほとんどなかった。あるにはあったがわずか19発、通販での入手も時間的にままならず…。
と言うわけで19発だけでのテストとなった。実を言うとこの銃、最後に撃ったのがいつだったのか思い出せない。1990年にリポートしているので多分、この時、何発か撃ったのだろう。30年前ということか…。
古い漬物になったようなノルマ製150grSPの銃口初速を計測したところ、2,640fpsだった。100ヤードでのインパクトはターゲットの中心狙って撃ち、狙い点から7”(180mm)下、左に3”(75mm)だった。インパクトに関してはミリタリーオリジナルの174grじゃないのでなんとも言えない。3発×3グループを撃った。写真のグルーピングは43mmだった。他のグループは56mm、73mmだったので43mmはどうやら偶然のようだ。九九式で使用する.303ブレットは買い込んであるんでリローディングと言いたいところだが、.303Britのリローディングダイを所持していない。九九式と違い、今後、頻繁に撃つ銃とは到底思えず、購入を見送った。10発そこらの射撃で実射してどうのというのは赤面の至りだが、撃ったアモが150grということもあり、リコイルもマイルドだった。スプリングフィールドM1903 .30-06のような鋭いリコイルではない。最近、よく撃つ九九式/スコープ付きと撃った感じはよく似ている。もっとも7.7×58mmも.30-06と比較すればマイルドなカートリッジだ。
リー・エンフィールドにスコープを装着して撃ちたいところだが、改造しなければスコープは付かない。そうするとコレクションとしての価値が下がる。九九式のように複数挺所持していれば改造もありだが、撃てるエンフィールドは手元にこれ1挺なんで止めておいた。
Photo&Text:Gun Professionals テキサス支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2020年5月号に掲載したものです。
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