2022/03/01
英国魂が宿った20世紀の名銃「L42A1狙撃銃」【無可動実銃ミュージアム】
この1挺は戦うために作られた本物の銃だ。数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
今回紹介するのは、1世紀以上に渡って英国軍の信頼を勝ち取ってきたリー・エンフィールドタイプの狙撃銃「L42A1」だ。
英国を象徴するライフルの末裔
リー・エンフィールドが英国軍人に愛されてきた理由は、採用されてから100年以上もの間イギリス陸軍で使用されていたことに尽きる。20世紀におけるほぼすべての戦場で使用され、第二次世界大戦では英国の主要な狙撃ライフルとして絶大な信頼を勝ち得た。
ところがその後7.62mmがNATO標準になったとき、英国はFN FALをL1A1として制式採用した。L1A1は優れた自動小銃であったものの、命中精度は狙撃ライフルに必要なレベルをはるかに下回っていた。そのためリー・エンフィールドライフルの狙撃型は使用弾薬が公式には廃止されていたにもかかわらず、1970年代初頭まで使用され続けた。そしてリー・エンフィールドライフルを後方部隊用にするために7.62mmに変換することを計画したL8モデルをヒントに7.62mmNATO弾仕様のL42A1が誕生。L42A1は1世紀以上にわたって英国と連邦の軍隊と共に進化を続けてきた英国魂の末裔なのだ。
L42A1狙撃銃(#V38743)
- 全長:1,181mm
- 口径:7.62mm×51
- 装弾数:10発
- 価格:¥1,320,000
軍用ライフルをベースとしたタフな狙撃型
リー・エンフィールドの狙撃型にはNo.4(T)狙撃銃があった。L42A1は端的に言えばその使用弾薬をNATO標準の7.62mm×51に変更しただけのものである。しかしNo.4(T)狙撃銃がNo.4歩兵銃の中から命中精度が良好なものを選んでスコープを取り付けたものであったのに対し、L42A1ではベースとなるライフルの口径が違うことから改良は多岐に渡って行なわれた。
外見こそ古いリー・エンフィールドのままであったが、内部はバレル、マガジン、エキストラクター、チャンバーに至るまで作り替えられていた。後方部隊や予備役に支給するためには費用対効果が薄いこの改良も、新しい弾薬を発射する狙撃銃が欲しい軍にとっては価値のあるものであった。
1970年代は現在ほど長距離における精密な命中精度は重視されていなかったが、L42A1は1,000ヤード(914m)まで正確に射撃できたとの報告もあり当時としては充分な精度を持っていた。フォークランド戦争時には大軍で押し寄せるアルゼンチン軍の猛攻撃に対し、L42A1を装備したスナイパーが活躍して防衛に成功するなどの功績もある。高い命中精度もさることながらタフな軍用銃の長所も兼ね備えており、軍用狙撃銃として成功を収めた。
揺るがぬ信頼――ついに20世紀末まで実戦投入
1985年に近代的狙撃銃であるL96A1が新たに狙撃銃として採用されたことによりL42A1は第一線から退いた。しかし1991年の湾岸戦争時には英国特殊部隊SASが、退役したはずのL42A1を装備して実戦に投入されたという。新型のL96A1を差し置いてなぜL42A1を使用したのか謎は残るが、その優れた実力を示す逸話も残っている。もしかしたら砂漠という環境下では実績のあるリー・エンフィールドタイプの方が確実に作動したのかもしれない。
L42A1は英国以外では使用されなかったが、伝統を重んじる英国人の気質に合っており、20世紀を代表する狙撃銃の1つとして揺るぎない地位を得ている。
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TEXT:IRON SIGHT/アームズマガジンウェブ編集部
この記事は月刊アームズマガジン2022年4月号 P.206~207をもとに再編集したものです。