実銃

2022/01/29

かつて、AKを超えたAKクローンがあった「Kbkg wz.1960」【無可動実銃ミュージアム】

 

 この1挺は戦うために作られた本物の銃だ。数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
 今回紹介するのは、ライフルグレネード機能を備えたポーランド版AK「Kbkg wz.1960」だ。

 

「Kbkg wz.1960」【無可動実銃ミュージアム】

 

共産圏最高峰の職人技が光るAK

 

 ポーランドでは第2次世界大戦後の1958年にAK47のライセンス生産を開始している。ポーランドがワルシャワ陣営に組し、ソ連の兵器体系に統一されたことで、ソ連と同一規格となる銃器の製造を余儀なくされたのだ。
 製造はラドムwz.35 VISピストルなどオリジナルデザインの銃を作ってきたラドムが担当したのだが、そんなポーランドの兵器会社は自身のアイデンディティを失うことはなかった。オリジナルのAK47を正確に製造するだけではなく、ソ連に先立ってAK47を独自に発展させたKbkg wz.1960という改良モデルを開発。戦中にパルチザンとして戦闘に参加した経験と第3次世界大戦への懸念から、ポーランド版AK47と言えるこのライフルには通常のアサルトライフル以上の性能を求められたのだった。

 

「Kbkg wz.1960」【無可動実銃ミュージアム】

 

Kbk-g Wz.60 (#KZ20059)

  • 全長:1,090mm
  • 口径:7.62mm×39
  • 装弾数:10/30発
  • 価格:¥132,000

 

「Kbkg wz.1960」【無可動実銃ミュージアム】
第二次世界大戦を機に各国が軍用銃の仕上げを荒くしたのに対しポーランドは美しいブルーの軍用銃を生産し続けた。製造から60年以上経った軍用銃でありながらもこのコンディションを保っているのは素晴らしい

 

グレネードランチャー機能を持たせたライフルへ

 

 どんな状況であっても戦闘力を維持し続けられる耐久性と信頼性を備え、誰でも扱えるものが望ましかったからであろう。Kbkg wz.1960は高い基本性能に加えて、無改造で追加パーツを装着することでランチャーへと変身できる機能が盛り込まれた。そのための対人、対装甲、爆薬、発煙、訓練用の弾頭が用意されている。

 

「Kbkg wz.1960」【無可動実銃ミュージアム】
長く突き出したハイダーがグレネードランチャーノズルだ。ここにグレネードを被せるようにしてセットする

 

 ライフルグレネードは、第一次世界大戦中の塹壕戦において、敵の塹壕へ手榴弾を投擲する際に身を晒すことなく投射することを目的として開発された。ライフル銃を発射装置とすることで、人が投擲する手榴弾とは比較にならない射程を得た。ライフルグレネードなら200~400m程度飛翔させることができるのだ。

 

「Kbkg wz.1960」【無可動実銃ミュージアム】
グレネードの発射を行なうブランク弾は全長が短いため、誤って通常弾が装填できないように内部の寸法が短くなっている

 

「Kbkg wz.1960」【無可動実銃ミュージアム】
ストック側面に付けられた金具はリコイルパッドのバンドを留めるためのものでポーランドAKの最大の特徴だ

 

主流の座を譲った現在も生き続けている方式の礎に

 

 ライフルグレネードは弾頭を使い分けることで車輌への攻撃から非殺傷まで安価に幅広く対応できることから、第二次世界大戦直後は多くの国で採用された。現在では単独で使用するランチャーやアンダーバレルグレネードランチャーに大半が置き換えられたが、フランスのFA-MASや自衛隊など、銃の形状や政治的配慮でアンダーバレルグレネードランチャーが採用できない国ではいまだに現役である。
 ポーランドでもAKMタイプからはアンダーバレルグレネードランチャーに取って代わられている。しかしKbkg wz.1960はそのパーツがいくつかのワルシャワ軍加盟国でノックダウン生産された関係で同じタイプのライフルグレネードが存続し続けるなど、共産圏にて強い影響を与えたライフルとなっている。

 

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TEXT:IRON SIGHT/アームズマガジンウェブ編集部

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年3月号 P.216~217をもとに再編集したものです。

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