実銃

2020/10/31

U. S. RIFLE M14【無可動実銃の魅力】

 

アメリカンスピリッツを象徴した名銃

 

U. S. RIFLE M14【無可動実銃の魅力】

 

 米国マサチューセッツ州スプリングフィールド市に「スプリングフィールド造兵廠(Springfield Arsenal)」が設立されたのは1777年、アメリカ独立戦争中のことである。そこは弾薬と砲架の生産及びあらゆる軍用品の貯蔵と輸送が行なわれる重要な施設となっていった。アメリカ独立戦争後も国営企業としてアメリカ軍の主要な武器を生産し多くの技術者を輩出してきた。

 中でもM1ガーランドで達成されたオートマチック機構は世界に先んじて完成されたものであり、同程度の品質のものをアメリカ以外の国が生産できるのは何年も後のことである。それを牽引してきたのがスプリングフィールド造兵廠であり、そのスピリットを継承したM14ライフルは、クラシックスタイルライフルの集大成だといえる。

 

U. S. RIFLE M14【無可動実銃の魅力】

 

M14 ライフル(Winchester製)

  • 全長:1,125mm(実測)
  • 口径:7.62mm×51
  • 装弾数:20発
  • 価格:¥750,000

 

U. S. RIFLE M14【無可動実銃の魅力】

機関部を見ればガーランドライフルの直系であることは一目瞭然だ。リアサイトは命中精度にこだわりが強く感じられる

 

U. S. RIFLE M14【無可動実銃の魅力】

初期はガーランドのような木製ハンドガードを備えていたが、フルオート射撃時に放熱が追いつかずに焦げることが多かったためグラスファイバー製を経て固形繊維ガラスのものに改められた

 

 やがてスプリングフィールド造兵廠は民間企業の台頭により、時代が進むに連れて国営企業としての役割は薄れていった。とどめをさしたのはAR15ライフルの登場である。この銃の開発にはスプリングフィールド造兵廠はかかわっておらず、また生産技術の限界から最先端の軍需施設としてかつてのような運営を続けることが難しくなる。最終的にM14ライフルの生産終了とともにスプリングフィールド造兵廠は閉鎖が決定した。

 

U. S. RIFLE M14【無可動実銃の魅力】

ストックのバットプレート部は二重構造になっており、一段目を跳ね上げるとショルダーレストになり、クリーニングキットを収納するトビラにアクセスできる

 

 冷戦時代に突入すると、7.62mm×51弾が正式にNATO弾となり、アメリカ軍はM1ガーランドに替わる新たな小銃を必要とした。そこで浮かび上がったのがM14だった。先の大戦で作られた試作銃の改良型であり、現在稼働中のM1ガーランドの製造設備をそのまま転用することができ、米国内の銃器メーカーでの製造が容易という点がM14の採用理由となった。

 冷戦下においてアメリカ軍は急速なM14の配備を推し進め、1962年のキューバ危機までには陸軍および海兵隊のほとんどの部隊でM14が配備される。

 

U. S. RIFLE M14【無可動実銃の魅力】

かつてM1ガーランドの製造を担当したメーカーは多く、M14の製造にはM1ガーランドの生産設備の流用が計画されていたが、実際には転用が困難であり、生産設備を改良して生産を行なったのはウィンチェスターに代表される一部のメーカーだけであった

 

 ところが次のベトナム戦争はM14が予測していない環境であったことを思い知らされる。ベトナムは国土の大半がジャングルである。M14の長銃身は取り回しが悪く、視界がさえぎられて長射程も意味をなさず、近接戦闘には不向きであった。しかもジャングルの湿気が木製ストックの膨れ、腐食などの悪影響を与えた。

 おまけに突如現れるべトコンには連射の方が有効であるものの、当時のM14はフルオートでのコントロールの難しさからセレクターがセミオートでロックされた状態で兵士に支給されていたため、フルオートができなかったのである。

 

U. S. RIFLE M14【無可動実銃の魅力】

トリガープルの重さはM1ガーランド時代から踏襲されているので素早く連射するのは難しい。またトリガーガードに設けられたセーフティの操作性の悪さはM14の弱点であった

 

 結果、M16に制式小銃の座を明け渡すとM14は生産終了が命じられる。余剰品となった多くのM14は譲渡されたが、新型狙撃銃の調達を計画していたアメリカ陸軍は、M14の精度、信頼性から新たに狙撃銃として改良を加え1988年まで米陸軍の主力狙撃銃として使用した。また、限定的ではあるが現在でも正式にアメリカ軍で使用でき、1957年の制式採用以来、単純な採用期間では他のアメリカ軍のどの制式小銃より長いものとなっている名銃である。

 

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TEXT:IRON SIGHT/アームズマガジンウェブ編集部
撮影協力:HEAD SHOT

 


 

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この記事は月刊アームズマガジン2020年12月号 P.102~103より抜粋・再編集したものです。

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