2020/11/28
カルカノM1891 騎兵銃【無可動実銃の魅力】
小口径ライフルの長所を最大限に生かした騎兵銃
カルカノM1891は、1891年にイタリア軍初の無煙火薬を使用する制式小銃として、トリノ陸軍工廠に勤めていた技師のサルヴァトーレ・カルカーノによって開発される。1870年からイタリア軍で制式化されていた単発式ボルトアクションライフルのベッテルリM1870小銃および騎兵銃を世界基準の連発式小銃に置き換えるために、自身が長らく温めていた案に基づいて設計がなされたものだった。
カルカノ M1891 騎兵銃(#XL8537)
- 全長:920mm
- 口径:6.5mm×52
- 装弾数:6発
- 価格:¥110,000
S・カルカーノはイタリア独立戦争後の1866年、国の新しいライフル計画を研究するための委員会にて革新的な設計案を提出していた。しかし統一直後のイタリアは財政難のため、あまりにも高価で非生産的であったその設計案は却下されている。ちなみに、後に同盟国のドイツ帝国が開発したモーゼルM1871の仕様はまさにカルカーノの提案していたものとほぼ同じであり、奇しくもカルカーノに先見の明があったことが証明される形となった。
カルカノM1891は同盟国であったドイツ帝国のGew88ライフルの機関部を模したといわれているが、20年以上前にカルカーノが構想したライフルも同様の仕様である。また、開発当時は機動戦力は騎馬隊が一般的であり、ほぼ同時に騎兵銃の開発も行なわれた。この騎兵銃はストックとハンドガード部が短縮され、材料費が抑えられることから大量に生産された。
折り畳み式のスパイク型銃剣は馬上で素早く展開するのに最適で、日本でも四四式騎兵銃の参考にしたほどだ
騎兵銃はストック部も通常の歩兵型と比べて短縮されている。このことから体格が小柄なイタリア兵には好まれる傾向にあった
アーチを描くように可動するリアサイトブレードには1,500mまでの目盛りが刻まれる。サイト前方のハンドガードの切れ込みまでリアサイトブレードを180度倒すと固定式のサイトが現れる
第一次大戦後は口径6.51mmでは威力不足が叫ばれ当時の世界基準の7mmクラスの口径に変更されることが決定していたが、設備や生産体制が整う前に第二次世界大戦に参戦することとなり、再び6.5mm口径に戻されている。第二次世界大戦中は口径こそ小口径であったが、全長が短く、装備に引っかからないようにボルトハンドルがストック方向に折れ曲がるなど、ドイツのKar98kと同様のコンセプトを持っているなど古くても実用的な銃であった。
トリガーガード底部にあけられた開口部は銃弾のクリップを排出するためのもので、射手に弾切れを知らせるのに適していたが位置が悪く、ゴミや異物の侵入を許してしまう欠点があった
セーフティはレバーを動かすと撃針バネのテンションが抜け同時にボルトハンドルも固定される。ゆえに薬室の開放が行なえずコッキングしたままバネ圧力のみが抜けるので、万が一衝撃でシアが解放されたとしても暴発する危険性が皆無となる優れた安全性を持つ
カルカノは駄銃として語られることが多いが、イタリアの意図はあくまで資源の節約にあった。薬莢長が短く火薬も少なめで威力では若干劣るものの、高初速と低進弾道性、低反動によって命中精度では大国の銃に対抗できたのだ。製造コストや材料が少なかった事から数多く生産されたM1891騎兵銃は、イタリア軍のWW1、WW2を支えたタフなライフルであった。
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TEXT:IRON SIGHT/アームズマガジンウェブ編集部
撮影協力:バトルシティ
この記事は月刊アームズマガジン2021年1月号 P.100~101より抜粋・再編集したものです。