実銃

2022/03/29

アメリカ軍黎明期の制式採用小銃「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」【無可動実銃ミュージアム】

 

 この1挺は戦うために作られた本物の銃だ。数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
 今回紹介するのは、黎明期の米国軍が制式採用したノルウェー製小銃「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」だ。

 

「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」【無可動実銃ミュージアム】

 

アメリカ軍初の外国製制式採用小銃の誕生

 

 1890年に西部開拓時代が終わるとアメリカは国外へと目を向けるようになる。国内の争いが終結したことで、前世代の黒色火薬弾薬から新型の無煙火薬弾薬に変更された小口径連発式小銃の開発が可能となった。しかし、アメリカにおける軍用小銃の開発は他国に大きく遅れを取っており、国産小銃はいずれも推薦に値しない性能のものばかりだった。
 そこでアメリカ軍は30口径無煙火薬弾を用いた新型小銃のトライアルを実施、52挺もの候補の中からノルウェー製のクラッグ・ヨルゲンセン・ライフルが選ばれる。ところが議会は自国製小銃を退けて外国製小銃を採用することに反発。クラッグ小銃に関する計画を一時中止させたうえ、新たな試験委員会の設置と再試験が命じられた。
 そうして実施された再試験でもクラッグ小銃への評価は変わらず、正式に採用が決定され、アメリカ軍初の外国製制式小銃が誕生したのである。

 

「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」【無可動実銃ミュージアム】

 

クラッグ ヨルゲンゼン M1898(#385041)

  • 全長:1,248mm
  • 口径:.30-40 krag
  • 装弾数:5発
  • 価格:¥418,000

 

19世紀から20世紀へと近代小銃の足掛かりとなったライフル

 

 クラッグ小銃が採用された経緯は諸説あるが、大きな理由はその独特の給弾方法にあるといえる。機関部弾倉に右側面から.30-40クラグ弾を5発装填可能であるうえ、マガジンカットオフ機能を用いると単発式小銃のように薬室へ弾薬を1発ずつ装填して使用できたからだ。マガジンカットオフ機能により今まで使われていた単発式小銃から操作方法が大きく変わらないことで、米軍では運用に混乱をもたらさずにスムーズに更新が進んだ。

 

「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」【無可動実銃ミュージアム】
マガジンカバーを開け1発ずつ直接弾薬を給弾する。残弾数にかかわらず補充が可能で、道具なしでも給弾できるという利点があるが、実際にはこの利点は上手く使われずもっぱらマガジンカットオフにして単発銃として用いられていた

 

「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」【無可動実銃ミュージアム】
ボルトの頭頂部のプレートはエキストラクターで薬莢は真上に排莢される。マガジンカバーには開閉のためのノブが確認できる

 

 クラッグ小銃の国産化はスプリングフィールド造兵廠で行なわれ採用期間に3度の大きな改修を受ける。特に3度目の改修ではマガジンカットオフレバーの使い勝手をよくするために従来とは逆にされているほか、ボルトハンドルシート部を改良することで機関部が簡素化されている。これらの改修によってクラッグ小銃は一応の完成をみたが、実際の戦闘に投入すると根本的な欠点が浮き彫りとなった。

 

「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」【無可動実銃ミュージアム】
スプリングフィールド造兵廠製であることはレシーバーの刻印で確認できる。レシーバー下部は弾薬をボルトへ送るガイドになっている

 

「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」【無可動実銃ミュージアム】
後期生産型から採用されたウィンデージ調整機能が追加されたM1898リアサイトは評判がよく、後のM1903小銃にも継承されたほどだ

 

実戦で欠点が露呈し、後のM1903開発のきっかけに

 

 クリップを使用しない給弾はクラッグ小銃の特徴でもあったが、給弾に手間が掛かるため戦闘中は単発で使用されることが多く、相手がクリップ式の給弾小銃の場合では分が悪かった。さらにスペイン帝国との戦争では、スペイン側の使用するM1893スパニッシュ・モーゼル小銃と比べ同じ口径ながら威力と弾速で劣っていることが露呈し、クラッグ小銃の性能問題はより深刻なものとなった。
 この問題を重く見た陸軍武器省では1900年からモーゼル式ボルトアクション機構と改良した弾薬を使用できる新型小銃の設計に着手。1903年、この小銃がスプリングフィールドM1903として採用されると、クラッグ小銃の製造設備はM1903用に転換されてしまう。

 

「クラッグ・ヨルゲンゼン M1898」【無可動実銃ミュージアム】
直線を基調としたストックは製造工程を減らすためであろう。軍用銃としては理に適っていて、これもM1903小銃に継承された

 

 こうして10年ほどでクラッグ小銃の製造は終了してしまうが、アメリカ軍の近代化に残した功績は大きい。また生産数も475,000挺と多く、余剰品は.30-40クラグ弾と共に放出され民間で狩猟やスポーツ射撃に使用された。

 

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TEXT:IRON SIGHT/アームズマガジンウェブ編集部

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年5月号 P.92~93をもとに再編集したものです。

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