ミリタリー

2023/01/26

【陸上自衛隊】04北演~令和4年度北部方面隊総合戦闘力演習~


 毎年恒例の“北演”こと北部方面隊総合戦闘力演習が、8月下旬から9月初頭にかけて北海道各地で行なわれた。今年度は、ここ最近まで行なわれていた島嶼防衛ではなく、昨今の情勢を反映したのか北海道への敵勢力の着上陸を阻止する想定の訓練へと変化していた。
 今、日本は東西冷戦期に匹敵する脅威にさらされていると言っても過言ではない。日本最北の地で守りにつく、北部方面隊が繰り広げた“リアルな訓練”を見よ!

 

久しぶりに北海道着上陸を想定!? 「04北演」

 

 北海道の防衛警備を担当する「北部方面隊」が、「令和4年度北部方面隊総合戦闘力演習」を実施した。同演習は毎年恒例の訓練で、“北演”と略して呼ばれている(今年度でいえば「04北演」)。実施期間は8月22日から9月4日まで。訓練場所として北海道内の主要な演習場や駐屯地、分屯地が使われた。参加規模は人員約12,000名、車輌約3,400輌、航空機20機となる。
 これまで北演では、2年続けて「島嶼防衛」訓練を実施してきた。演習場を島々に見立て、北部方面隊の各師団・旅団が敵の着上陸侵攻に備え、もし敵の手に落ちた島があれば奪還するというシナリオだった。しかし、今回は北海道に侵攻する敵部隊と戦うシナリオで、東西冷戦時代を彷彿とさせる中身の濃いものとなった。
 仮想敵役を務めたのは第5旅団だった。これを第11旅団、第7師団、そして第2師団が迎え撃つ。なお、第2師団については他の訓練との関係もあり、ほぼ想定上として存在するのみとなった。方面隊直轄部隊については、これら各師団・旅団を増強した。
 まず敵は、上陸作戦を展開するため、強襲揚陸艦や上陸用舟艇を北海道沿岸部へと差し向ける。これをせん滅するため、第1特科団の第3地対艦ミサイル連隊の88式地対艦誘導弾と、第129特科大隊のMLRSが攻撃を仕掛ける。
 しかしながら、敵部隊の着上陸を許してしまい、いよいよ北海道が戦場となってしまう。ここから、04北演のハイライトへと向かっていく。
 今回は、バトラーシステム(「訓練用交戦装置」とも呼ばれる)を用いた実戦さながらの訓練となった。小銃からミサイル、戦車に至るまで、訓練部隊の火器にレーザー発射機が取り付けられ、射撃を行なうとともに、レーザーも発射される。このレーザーを隊員の身体、戦車や装甲車の車体に取り付けられた受光部が感知すると“被弾”となる。その当たり方によって、隊員個人であれば死亡または重症、車輌であれば大破、といった判定が下される。戦車の場合は、被弾とともに黄色い煙が吐き出され、見た目にも損害を受けたことが分かる。このように、バトラーシステムは戦場を疑似体験できるのである。

 

砲塔に青いナンバープレートを掲げている。これは、対抗演習の際、敵味方を色の違いで識別できるようにするため。よって、敵側も同じようにナンバープレートを掲げるが使用する色は赤となる

 

機甲師団の本領発揮

 

 敵役の第5旅団は、北海道の某地域と想定された北海道大演習場へと進出。これを第11旅団が必死に食い止めていた。第11旅団には16式機動戦闘車を配備する第10即応機動連隊があり、同隊を中心として機動力を武器に敵の侵攻阻止を図る。
 しかし、敵の勢いはとどまるところを知らず、攻撃の手は止まない。そこで第7師団が第11旅団を支援し、そのまま一気に攻勢に転じることになった。なお、この最終攻撃が行なわれたのが9月3日。取材した一連のシーンは、その時の様子である。
 第11旅団の助っ人として加わったのが第7師団隷下の第73戦車連隊だった。第7師団には、第71、第72、第73戦車連隊と、3つの戦車連隊が編成されている。この規模の戦車部隊を有するのは第7師団のみ。それゆえに、機甲(戦車)師団と分類されている。
 今回は90式戦車を中心とし、第11普通科連隊の89式装甲戦闘車や第7高射特科大隊の87式自走高射機関砲などを加えて戦闘団を編成し、攻撃を仕掛けることになった。これに合わせ、それまで主として前面を守ってきた第10即応機動連隊が後退していく。取材時は同部隊の96式装輪装甲車を見かけたが、残念ながら16式機動戦闘車の雄姿を拝むことはできなかった。

 

移動中の90式戦車。やはり北海道は戦車王国。これも仮想敵たるロシアの地上軍が戦車を中心に大隊戦術群(BTG)を編成しているからで、迎え撃つ北部方面隊にも必要不可欠な装備となっている

 

防御部隊の73式装甲車(通称73APC)。名称に冠している数字から分かるように、最初に配備されたのは1973年。もはや半世紀を経た装軌式装甲車である

 

 第11旅団の防御陣地の1つには、第71戦車連隊の10式戦車がいた。こちらは、第11旅団に組み込まれていたようだ。第11旅団は2019年に機動旅団化改編されたのに伴い、前述の第10即応機動連隊を隷下に新編。その一方で、これまで機動打撃力を担ってきた第11戦車大隊が縮小され、2個戦車中隊を基幹とする第11戦車隊となった。
 だが、そこは北部方面隊。やはり戦車を中心とする強大な陸上部隊を有する仮想敵のロシアに対抗するためには、戦車火力は必要不可欠。規模は縮小されようとも変わらずに90式戦車を配備しており、74式が残存する北海道以外の戦車部隊と比べれば、戦力は高いまま維持されていると考えていいだろう。戦闘でより優位に立つためには、さらに戦車は多い方がいい。目撃した10式戦車は、その役目にあった。

 

第71戦車連隊の10式戦車も参加。同連隊は連隊本部、本部管理中隊、第1~第5中隊の編成で、その中の第1、第2、第4中隊に10式戦車、その他の中隊に90式戦車が配備されている

 

最後の大戦闘

 

 攻撃を仕掛けるために最初の障害となるのが敵の仕掛けた地雷原等で、今回の訓練でも進路上のいたるところに仕掛けられていた。これを処理するのが施設科の仕事となる。敵の塹壕は75式ドーザーなどで埋めていき、また従来のように施設科隊員が爆薬を抱えて、直接誘爆処理する方法なども取られた。
 ただし、こうした任務は危険を伴う。実際に、今回も障害を処理している最中に敵の攻撃を受ける場面があった。破壊された75式ドーザーは作業を止め、審判が判定のため、乗り込んでいった。

 

塹壕を埋める75式ドーザー。写真のようにブルドーザーを装甲化しているのが特徴。この後、残念ながら敵の攻撃により大破する

 

戦車部隊の安全な移動をアシストする施設科隊員。地雷があれば処理し、塹壕など穴があればそれを埋める。施設科がいなければ、第一線の戦闘職種は戦うことができない。彼らはまさに縁の下の力持ちである

 

 障害を処理していくと、いよいよ突撃となった。森の中には十数輌の90式戦車がその時を待つ。戦車の後方には、第11普通科連隊の73式装甲車の姿もあった。
 まず90式戦車が敵に対し、戦車砲を射撃する。もちろん実弾ではないし、空包でもない。訓練実施部隊や審判員など、演習に関わる隊員たちがこの“射撃”を確認できるように、砲塔上に積載された訓練用の射撃装置から“パンっ”とクラッカーのような音がして、白い煙が上がる。これが射撃をしたという証となる。
 そしてこの射撃を終えると、戦車が前進。道路を横切り茂みに車体を隠そうとした最中、突然黄色い煙を噴き出した。残念ながら、被弾し撃破されたのである。審判による被弾判定を受け、砲塔上には赤い旗が立てられ、強制的に戦線を離脱させられる。
 どうやら敵は、対戦車ミサイルで攻撃を仕掛けているとのこと。これに対し、別の戦車が射撃。しかし、こちら側の戦車や装甲車も破壊されていく、といった具合に一進一退の攻防が繰り広げられていった。

 

第11普通科連隊の89式装甲戦闘車(89FVと略される)。同連隊は、連隊本部、本部管理中隊、第1~第6普通科中隊、重迫撃砲中隊編成となっている。その中の第1・第3・第5中隊が89FVを配備している

 

着上陸を果たした敵部隊をせん滅するため移動する青部隊の車列。この写真にて先頭を走るのは92式地雷原処理車。その後方には89式装甲戦闘車の姿がある

 

90式戦車を先頭に、隊列を組んで移動。その中に第7高射特科大隊の87式自走高射機関砲が含まれていた。“高射”とは、航空機など対空目標と戦うことを意味する。87式は74式戦車の車体をベースに改造され、砲塔には90口径35mm対空機関砲KDAを2門搭載している

 

敵に向けて戦車砲を射撃したという想定で“パン”と乾いた小さな音が響き、白い煙が放たれた

 

 こうした実戦さながらの04北演は、予定通り終了した。
 久しぶりとなる、北海道着上陸阻止というシナリオに、地元メディアからは「ロシアによるウクライナ侵攻の影響か?」という質問が出た。確かに、北海道へと部隊を上陸させて戦い続けることができるのは、ロシア以外にはない。ソ連時代から、北海道はその脅威に脅かされ続けてきた。もちろん、北部方面隊側は「特定の国や地域は想定していない」と回答していたが、地元メディアがそう捉えるのも分かる。また、北部方面隊としてもいかなる脅威にも立ち向かい、国民の生命と財産、そして領土を守る、と答えるのも嘘ではない。
 今まさに、これまで以上に、04北演のような実戦的な訓練が必要とされている。

 

砲塔から黄色い煙を吹き出す90式戦車。これは敵の攻撃を受けたことを意味する。こうして被弾した状況を分かりやすく示し、よりリアルな訓練としている

 

残念ながら被弾した2輌の戦車。砲塔に赤い旗を掲げ、戦闘不能状態であることを示している

 

攻撃のため前進する90式戦車を見守る73式装甲車(写真手前)の乗員たち。このコンビも第7師団ならでは。現在陸自向けに新たな装軌式装甲車は製造されておらず、73式装甲車の後継はない状態だ

 

Text & Photos : 菊池雅之
取材協力:陸上自衛隊 北部方面隊

 

この記事は月刊アームズマガジン2023年1月号 P.152~159をもとに再編集したものです。

 

※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

Twitter

RELATED NEWS 関連記事

×
×