ミリタリー

2022/12/08

【陸上自衛隊】陸自戦闘車輌の革命児となるか。共通戦術装輪車に迫る

 

陸自試作装輪装甲車の姿を捉えた!

 

  9月下旬。深夜の御殿場で、陸上自衛隊で試験中の試作装輪装甲車「共通戦術装輪車」の姿を、武若雅哉が捉えた。16式機動戦闘車をベースに開発中のこの車輌のうち、機動迫撃砲型と歩兵戦闘車型を撮影できたので、解説していこう。

 

御殿場に現れた試作車輌

 

 9月29日の3時半頃、九州での試験走行を終えて横須賀港に到着した試作車輌が、東名道の御殿場インターに到着した。この車輌は、陸上自衛隊開発実験団装備実験隊が試験を進める「共通戦術装輪車」で、今回目撃されたのは30mm機関砲を搭載した歩兵戦闘型と機動迫撃砲型の2種類である。
 共通戦術装輪車は89式装甲戦闘車(FV)の後継ではなく、現在別系統で試験が進められている次期装輪装甲車とも用途が異なる。これまでの陸上自衛隊が持っていなかった、新しいコンセプトで開発された車輌なのだ。

 

ファミリー化でコスト低減

 

 これまで、陸自では用途ごとに別の車輌が開発され、調達費が高騰し充分な数を配備できない、という前例が多くあった。そこで、諸外国の同種車輌のように車体を共通化(ファミリー化)し、車体上部だけを新規開発することで、製造や維持・整備にかかるコストを減らそうという動きが本格化。装輪戦闘車輌として大量調達に成功した16式機動戦闘車の車体を流用することで、これまでの装備品と比較して開発期間と費用の低減を目指すのである。

 

さまざまな派生型

 

 まず歩兵戦闘車型(現状陸自ではそのように呼ばないはずだが、便宜的に呼称)だが、これは主に普通科部隊や即応機動連隊などに配備されると考えられている車輌で、無人砲塔に30mm機関砲Mk.44ブッシュマスターⅡと7.62mm機関銃Mk.52ブッシュマスターを搭載している。車体そのものは16式機動戦闘車と共通化されているため、脚周りや操縦系統などはほぼ同じと考えられる。ちなみに、採用されれば無人砲塔は陸自初となる。また、後部に監視用センサーなどを搭載した偵察型にも発展するため、将来的に全国の偵察戦闘大隊への配備が進められることであろう。
 歩兵戦闘車型は全国の普通科部隊を機械化させるのに充分な性能を有していると考えられ、部隊の即応機動展開に大きく寄与するほか、戦闘時にも普通科部隊に装甲を与えることで、隊員の生存率向上が図られるはずだ。
 機動迫撃砲型では、これまで高機動車でけん引していた120mm迫撃砲が自走化され、車輌に搭載したまま射撃できるようになる。すでに第7師団の第11普通科連隊が装軌式の96式自走120mm迫撃歩兵戦闘車型砲を運用しており、概ね同じような使い方となるであろう。ただし、第7師団のような機甲部隊において、装輪式の機動迫撃砲型が装軌式の戦車に完全に追従することは難しく、96式を代替するものにはならないものと思われる。つまり、機動迫撃砲型は、全国に緊急展開する即応機動連隊の運用にマッチした装備であるといえそうだ。

 

機動迫撃砲型

 

御殿場インター料金所に進入する機動迫撃砲型。LEDヘッドライトはまさに「爆光」で、正面からの撮影は困難だった。車体前面形状は16式機動戦闘車(MCV)とよく似ているが、キャビンが設けられる車体後部の高さが上がって車体前方上面装甲の傾斜が増している。MCVと同じく、後ろの二輪の間に巻き込み防止用のライトが配されている

 

車体側面。エンジンルームや操縦席がある車体前部の上面装甲には、5cm程度の隙間が作られている。これは試験用の仮装甲なのか、それとも中空装甲の類なのだろうか。操縦手ハッチの開き方もMCVとは異なるようだ。タイヤサイズは395/85R20で、16式機動戦闘車や輸送防護車と同じ。ほかにも派生型として人員輸送タイプや救急車タイプなども開発される予定だという

 

歩兵戦闘車型

 

歩兵戦闘車型は試験中の無人砲塔を搭載。砲塔に乗員用ハッチはあるが、戦闘時は車内から操作するというものだ。北海道でしか実運用されていない89式装甲戦闘車と同クラスの火力が、全国の普通科部隊に行きわたるか…? また、分割された装甲板が車体や砲塔にボルト止めされており、上面装甲は必要に応じて交換可能になっているものと思われる

 

試験走行を終え、富士駐屯地の正門を潜る。これからは東富士での試験が重ねられると考えられる

 

こちらは機動迫撃砲型の後部。WAPCよりも若干小さめな後部ランプと、手動開閉できる乗降扉を確認できる。普通科隊員であれば見慣れた作りであろう

 

TEXT&PHOTO:武若雅哉

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年12月号 P.60~61をもとに再編集したものです。

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