2022/08/20
【陸上自衛隊】陸自戦車戦力が大集結!日本唯一の機甲師団「第7師団」とは
日本唯一の機甲師団
令和4年5月22日(日)、北海道千歳市に所在する陸上自衛隊東千歳駐屯地にて「第7師団創隊67周年/東千歳駐屯地創立68周年記念行事」が挙行された。我が国において唯一の機甲師団である第7師団には、多数の戦車が集中配備されていることで知られる。今回はこの行事の予行取材を通じて同師団の編成を見ていこう。
第7師団の沿革
戦後、陸上自衛隊の前身となる保安隊が発足した年である昭和27(1952)年の10月、北海道の防衛を担任する北部方面隊が創設された。保安隊が陸上自衛隊へと改組された後、昭和30(1955)年12月には北部方面隊隷下部隊として北海道札幌市の真駒内駐屯地にて第7混成団が発足。昭和37(1962)年1月には東千歳駐屯地に移駐し、同年8月に機械化師団として第7師団に改編。昭和56(1981)年3月には機甲師団として改編され、現在に至っている。
機甲部隊とは
北海道は東西冷戦期には隣国ソビエト連邦との最前線であり、陸上自衛隊は膨大な機甲部隊を持つソ連軍の侵攻に備えて、北方の機甲部隊の整備に務めてきた。
機甲部隊とは“陸戦の王者”たる戦車を主体とし、歩兵は装甲車に搭乗、砲兵は自走砲化するなどして戦車に随伴させ全体的に機動打撃力を高めた部隊のことを指す。冷戦期にヨーロッパを中心に対峙していた東西両陣営は機甲部隊の整備に余念がなく、後の湾岸戦争やイラク戦争の地上戦においても、機甲部隊を主軸とする大規模な作戦が展開されている。
さて、戦車のような装軌車輌は履帯(トラック/キャタピラ)により不整地における高い機動性を有するが、多数の戦車を集中運用する場合、地形的には比較的広く平坦な平野部や砂漠などが適している。日本では北海道に機甲部隊を集中させているのも、あの広大な風景を思い浮かべれば分かるように、地形が適しているのも理由のひとつだ。そして、最盛期には北部方面隊隷下に第7師団を含め4個師団(人員約5万人、戦車約600輌、自走砲含む火砲約400門)という戦力を有していたのである。
平成3(1991)年にソ連が崩壊して冷戦が終結。さらに近年では南西地域への脅威が増したことから、北部方面隊は最盛期に比べ縮小を余儀なくされた。しかし、旧ソ連時代に比べ後継のロシア軍は弱体化したものの潜在的な脅威は存在しており、実際にロシアがクリミア併合やウクライナ侵攻など“力を背景とした一方的な現状変更”を行なったことで、その脅威はより現実味を帯びてきた。
第7師団の編成と装備
陸上自衛隊では以前よりこうした脅威を見据え、平成29年度末(2018年3月)からは各方面隊隷下部隊の約半数を機動運用が可能な「機動師団/旅団」とし、一部の連隊を高い機動力や警戒監視能力を備える即応機動連隊(新たに機動戦闘車等も配備)へと改編を始めている。北部方面隊隷下の第2師団、第7師団および第5旅団、第11旅団は最盛期に比べスリムにはなっているが上記の理由から機械化の度合は高く、いずれも機動師団/旅団に指定された。そして、北海道の防衛だけでなく日本全国への機動展開も想定した訓練が行なわれている。
現在、第7師団は第71、72、73戦車連隊(各5個戦車中隊基幹)をはじめ、機械化がなされた第11普通科(歩兵)連隊、第7特科(砲兵)連隊、第7高射特科連隊および各種後方部隊などを有し、高い機動打撃力と自己完結性を備えた編成となっている。なお、陸上自衛隊において連隊規模の戦車部隊はほかに第2師団隷下の第2戦車連隊があるのみで、その他は戦車大隊や戦車隊(各2 〜3個中隊基幹)の編成となっており、いかに第7師団に戦車戦力が集中しているかが分かるだろう。
装備について見ていくと、各戦車連隊の主力は44口径120mm滑腔砲を備えた戦後第3世代MBT(Main Battle Tank=主力戦車)の90式戦車で、旧式化した74式戦車の更新として新鋭の第4世代10式戦車の配備も進みつつある。さらに第11普通科連隊には89式装甲戦闘車、第7特科連隊には99式155mm自走榴弾砲、第7高射特科連隊には87式自走高射機関砲が集中配備されるなど、機械化の度合は他の陸自部隊に比べて高い。
機甲部隊の存在意義
もっとも、機甲部隊の整備には多額の費用がかかるのは言うまでもない。例えば10式戦車の価格は1輌約10億円とも言われており、上記の装甲車輌もそれに匹敵するくらい高価な装備となっている。さらに乗員の訓練や弾薬、整備などのコストも考慮しなければならず、防衛予算の限られた我が国においては、抑止力として足りうる必要最低限の戦力を維持するのに精一杯の状況とも言える。
また、陸戦の王者たる戦車には、戦車以外にも各種航空機や対戦車ミサイルなどさまざまな“天敵”が存在する。最近のウクライナ侵攻においては、ウクライナ軍が西側製のジャベリンやNLAWといった歩兵携行式対戦車ミサイル、そして各種ドローンを用いてロシア軍機甲部隊に大損害を与えたことは記憶に新しいだろう。
とはいえ、戦車が時代遅れの兵器かといえば、そうではないとも言える。こうした脅威に対してはより強固な装甲や自己防御システムといった改良を加え、戦場ネットワークシステムやドローンなどを駆使したリアルタイムで高精度な戦場情報の獲得、また従来のように随伴歩兵や砲兵との緊密な連携などによりある程度克服することはできる。なにより攻・守・走に優れた戦車の機動打撃力は他に代えがたく、件のウクライナ軍も失地回復のために戦車を必要とし、機甲部隊の再編を進めているのを見ればその必要性は明らかだろう。敵が機甲部隊を擁している限り、例えばその弱点となる側背を突くといった作戦には、やはり機甲部隊が必要となるからである。
近年、自衛隊では宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域と、陸・海・空という従来の領域の組合せにより、軍事力の質・量に優れた脅威に対する実効的な抑止および対処を可能とする「多次元統合防衛力」の構築が進められている。今回取材した記念行事の模擬戦でも、情報収集のためのドローンやNEWS(ネットワーク電子戦システム)が参加するなど、その一端を垣間見ることができた。
こうした変化の渦に第7師団のような機甲部隊も含め、今後陸上自衛隊がどのように適応し、進化を遂げていくのか。日本国民として関心を払い、見守り続けていきたい。次回のレポートではこの第7師団隷下部隊を詳しく解説しよう。
Planning & Photos : 笹川英夫
取材協力:陸上自衛隊第7師団
この記事は月刊アームズマガジン2022年8月号 P.100~103をもとに再編集したものです。