2023/01/30
【無可動実銃に見る21世紀の小火器】FN FALの成功と業績回復切り札のライフル【F2000】
FN F2000
FALの成功
1889年、ベルギー王国はマウザーボルトアクションライフル モデル1889を新たな軍用ライフルとして採用した。そしてこの銃をライセンス生産するため、同国の銃器製造拠点であるリエージュにFN(FabriqueNationale d'Armes de Guerre:ファブリク・ナショナール・ダムデュ・ゲール)社を設立した。その名称の意味は、“国立戦争用小火器製造工場”だ。ジョン・M.ブラウニングが基本設計したセミオートマチックピストルの製造供給でヨーロッパ中にその名が知れ渡ったFN社だが、設立から半世紀が経過するまで、ブラウニングピストル以外には大きな成功作は生み出すことはなかった。
ライセンス生産から始まったマウザーライフルについては、第一次大戦後に改良を加えたモデル24、およびモデル30を製品化したが、これはマウザー98を元に少し手直ししたコピーでしかない。しかし、そんなFN社は第二次大戦終結後、銃砲史上に名を残す傑作を世に送り出すことができた。
FAL(Fusil Automatique Leger)と名付けられた7.62×51mm弾を使用するアサルトライフルは、1953年に運用が開始され、西側の多くの国が採用している。これはFN社のエンジニアであったDieudonne Joseph Saive(デュドネ・ジョゼフ・セィヴ:1888-1970)によって設計された新世代ミリタリーライフルだが、設計開発段階では.280 British(7×43mm)と呼ばれるインターミディエイト(中威力)弾を使用することを想定していた。
しかし、戦後に組織されたNATOの共通弾薬として、アメリカがフルロード弾である7.62×51mmの採用を強力に推し進めた結果、FALもこの弾薬を使用できるよう変更が加えられた。そのため設計上無理があり、本来の性能を完全に発揮できているとは言い難い。それでもFALが成功した背景には、この時代にはまだFALと同等の性能を持ったライフルがほとんどなかったということがある。
FN社による製造の他、多くの国でライセンス生産がおこなわれ、西ドイツがその後に開発したG3と並び、冷戦期前半の西側を代表するアサルトライフルとなった。ライセンス生産をおこなった国も多く、その総生産数は7百万挺に達するといわれている。FN社は1950年代から70年代まで、自社における製造販売に伴う利益の他、多額のライセンス料、あるいはロイヤリティを獲得したはずだ。
FAL以後
1960年代になってアメリカ軍がM16を採用した結果、小口径高速軽量弾である5.56×45mmが注目を集めるようになった。これを受けてFN社は1967年頃に新型ライフルの開発に動き出した。ErnestVervier(エーネスト・ヴェルヴィ)が中心となって開発が進められたこの新型銃は、FALのスケールダウンモデルともいうべき存在で、Carabine Automatique Legere(CAL)と名付けられた。
ロッキングシステムは、FAL が採用したティルトボルトから、ロテイティングボルトに変更されている。レシーバーは削り出しのFALとは異なり、量産性の高いプレス加工によって製作されたが、内部のメカニズムは複雑で、生産性は非常に悪いものであった。1970年からCALの生産が始まったが、数々の不具合箇所が見つかり、その影響でほとんど普及しないまま1977年に早くもその生産は終了した。
1975年にCALに代わる5.56mmライフルとして、FN社FabriqueNationaleCarabine(FNC)の開発をスタートさせている。設計はMaurice Bourlet(モリス・ブーレ)が中心となっておこなわれ、CALの失敗を教訓として今度はシンプルさに徹したものとなった。1979年に生産が開始されたFNCは、ベルギー軍で採用された他、インドネシア軍にも採用され、インドネシアの国有企業であるPTPindadでSS1、およびSS2としてライセンス生産された。またスウェーデン軍も採用、こちらもAk5として同国のBofors Carl Gustaf(ボフォース・カールグスタフ)でライセンス生産された。しかしFNCの軍用ライフルとしての大規模採用はこの3 ヵ国のみで、他の国での採用事例はあるものの、その数は少ない。
ベルギーは小国であり、その人口は1980年の時点で約1千万人だ(現在の東京都の人口よりも少ない)。そのためベルギー軍の規模も小さく、FN社が小火器の開発製造能力を高いレベルで維持するためには、海外に向けて数多く製造供給する必要がある。ところがCAL、およびFNCは全くそのレベルに達することはなく、FN社の業績は急速に悪化していった。
1970年代以降、FN社にはさまざまな動きがあった。1973年、FNはその社名をFabrique Nationaled'Herstal(ファブリックナショナール ハースタル)と改めている。社名から“戦争”の文字を消したわけだ。
そして1977年、アメリカのブラウニングアームズカンパニーを吸収し、傘下に収めた。これは、民間市場への更なる浸透を図るためだと思われる。しかし、この試みは、FNハースタルの業績を大きく上向かせることにはならなかった。軍用火器の分野でFNミニミやFN MAGといった成功作もあるが、これらはアサルトライフルほどの数が量産されるわけではない。結果的にFNハースタルは、1989年にフランスの軍需産業グループであるGIAT(Groupement Industrieldes Armements Terrestres)に6億フランで買収された。
しかし、GIAT傘下でもFNハースタルの業績は上向きにはならず、1997年になるとGIATはFNハースタルをコルト社(Colt's Patent Firearms ManufacturingCompany)に売却する方針を打ち出した。これを阻止することに動いたのが、ベルギーを構成する連邦地域のひとつであり、国土の55%を占めるワロン リージョン(Wallonne Region)だ。
FNハースタルのあるリエージュは、このワロン リージョン内に位置している。もしFNハースタルがアメリカのコルト社へ売却されてしまえば、本社の開発部門は大きく形を変え、解体されてしまうかもしれない。これは何としても阻止しなくてはならないと考えたワロン リージョンは、結果的にFNハースタルをGIATから買い取った。そしてFNハースタルは、ワロン リージョンが経営母体となるハースタルグループの中核企業として新たな道を歩み始めた。
SPEC
FN F2000
- 全長:688mm
- 銃身長:400mm
- 重量:3.6kg
- 使用弾:5.56×45mm
- マガジン装弾数:30発
- 回転速度:850発/分
- 形式:ガスオペレーション、ショートストロークピストン,
- 無可動実銃¥1,300,000+税
(無可動実銃はボルトが溶接されているため、
ボルト操作、装填、排莢はできません)
起死回生の切り札F2000
おそらくF2000は、そんなFNハースタルが、業績回復のために開発した切り札的位置付けのアサルトライフルだったと思われる。FNハースタルが経営危機に瀕していた1990年代、アメリカ軍はOICW(Objective Individual Combat Weapon:個人戦闘目的兵器)の開発を進めていた。
OICWは20mmエアバースト・セミオート・グレネートランチャーと5.56mmアサルトライフル、ファイアコントロールコンピュータ、ビデオカメラ搭載のレーザーレンジファインダースコープを組み合わせた次世代型個人兵器だ。レンジファインダーで敵までの正確な距離を測定することで、20mmグレネートの適切な発射角度が自動的に計算される。これに基づき発射されたグレネートは敵の直上、もしくは背後まで飛んだところで空中炸裂し、たとえ敵が遮蔽物に隠れていたとしても確実に倒すことができる機能を持つ。
銃としての製造コストとその大きさを度外視すれば、これは技術的に不可能なものではないだろう。しかし、これを兵士ひとりで扱える大きさと重さにまとめることは難しい。
また高価なシステムとなり、すべての兵士にOICWを1挺ずつ配ることはかなり困難と言わざるを得ない。FNハースタルは、このOICWの開発競争には全く加わっていない。しかし、2001年3月にアラブ首長国連邦(UAE)で開催されたIDEX(International DefenceExhibition & Conference)2001でFNハースタルが発表したF2000は、極めて未来的なフォルムを持つライフルであったため、当初はOICWの対抗機種と目された。
しかしFNハースタルは、夢物語のような近未来兵器ではなく、現行の技術で実用化できる最新鋭のアサルトライフルとしてF2000を開発した。搭載した光学照準器を含み、銃本体はほぼすべてポリマー樹脂の外装に覆われ、装着された40mmグレネートランチャーも銃本体と一体化したようなデザインを持っている。しかし、その中身は一つの特徴を除けば、通常のブルパップライフルと同じだ。
その特徴とは、フォワードエジェクションシステムで、射撃後の空薬莢は側面からではなく、銃口近くの前面に設けられた排莢口から排出される。これにより左右どちらの手で銃を構えて射撃しても、排莢不良にはならずに問題なく射撃ができる。レシーバー上部には、巨大なサイトシステムが載っているように見えるが、これは発表時にはまだ開発中であった40mmグレネートのエアバースト対応機能を追加するためのもので、実際には1.6倍のシンプルな単焦点スコープが組み込まれているに過ぎない。
したがってF2000は近未来的フォルムを持つものの、フォワードエジェクションシステムを除けば“枯れた技術”で構成されたブルパップアサルトライフルなのだ。OICWを採用すべく動いていたアメリカ軍だったが、2000年代前半にアリアント・テックシステムズとヘッケラー&コッホが共同開発したOICWシステム“XM29”をテストした結果、その不十分な性能と8.2㎏という過剰な重量からその採用を見送った。
そして2004年になるとOICW開発計画自体が中止となった。しかし、だからといってF2000に追い風が吹いたわけではない。F2000に搭載されたフォワードエジェクションシステムはブルパップライフルの持つ欠点を克服するものだが、それだけで各国の軍が既存のアサルトライフルを捨て、F2000に乗り換えるほど魅力がある機能ではない。
当初は2003年頃には、OICWと同様の機能を持つ40mmグレネートのエアバーストコントロールを可能にするコンピュータ内蔵のファイアコントロールシステム搭載のサイトシステムが登場するという触れ込みであったが、結果的にF2000用としてこれが実用化したという情報は伝わってきていない。
そうなると、本体上部にそびえ立つデカいサイトシステムカバーは意味がなくなってしまう。そのためこのカバーをなくし、レシーバー上面をピカティニーレイルで覆い、ユーザーがオプティカルサイトを自由に選択して使用できる仕様の“F2000タクティカル”と、これにトリプルレイルシステムを加えた“F2000タクティカルTR”が登場し、こちらがF2000の主力となっていった。
2001年に登場したとき、世界中から注目を集めたF2000だが、これを大規模に導入した軍は、サウジアラビアやスロベニアなどに限られ、それ以外にはベルギーを含むいくつかの国の特殊部隊が部分的に採用したに過ぎない。結果としてF2000はFNハースタルの救世主にはならなかった。その後に、FNハースタルはアメリカ軍による採用を意識したSCAR-L、SCAR-Hを開発したが、これらも限定数が納入されたに過ぎない。またF2000のバリエーションはどれも現在製造供給はおこなわれておらず、ラインナップから消えた。
FNハースタルは現在も、ハースタルグループの傘下にあって軍用小火器製造供給の総合メーカーとして事業展を続けている。2019年時点での従業員数は1,456名、年間売り上げは3億9,963万USドル(1US-D=0.9038EUR)だ。もしFNハースタルが、かつてのFALのような世界中に供給される製品を生み出すことができれば、この数値は大きく跳ね上がることになるはずだが、時代が大きく変わった現代において、そのような大ヒット作を生み出すことは極めて難しいといえる。
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Text:Satoshi Matsuo
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年2月号 P.156-160をもとに再編集したものです。