エアガン

2023/01/01

MGC「スプリングフィールド5インチエキスパートピストルABSライトウエイト」【毛野ブースカの今月の1挺!番外編】

 

「月刊アームズマガジン」編集部の毛野ブースカがおくる『毛野ブースカの今月の1挺!』。今回は番外編パート7ということでMGCのガスブローバックガン『スプリングフィールド5インチエキスパートピストルABSライトウエイト』だ。

 

【番外編パート6】カナマルの「チャーターアームズブルドッグ」はコチラ

前回の「今月の一挺」はコチラ

 


 

 

 「ハイキャパ」という実銃が存在していると思っている方が多い。しかし実際には「ハイキャパシティマガジンが使えるガバメントカスタム」のことであり、「ハイキャパ」という名前を持つ実銃は存在しない。それだけ東京マルイのハイキャパシリーズが支持されている証拠でもある。今回紹介するMGCのガスブローバックガン「スプリングフィールド5インチエキスパートピストルABSライトウエイト」(以下エキスパートピストル)は、日本で初めて製品化されたハイキャパシティマガジン仕様のガバメントカスタムである。まずはこの製品を紹介する前に、1980年代後半から1990年代半ばにかけてアメリカを中心に開催されていたUSPSA/IPSCやスチールチャレンジにおけるレースガンのトレンドについて解説しなければならない。しばしお付き合いいただきたい。

 

エキスパートピストルの左側面。スライドはスプリングフィールド製を再現。パッケージには「WIDE BODY WONDER!」のキャッチが踊り、ハイキャパシティガバメントの時代が来たことを感じさせるものだった。価格は¥14,200(税抜き)

 

 1980年代半ば以降、USPSA/IPSCやスチールチャレンジ、ビアンキカップといったアクションシューティングマッチの人気が急速に高まっていた。ガンメーカーやアクセサリーメーカーが自社製品のPRのために契約したプロシューターを参加させ、競技で使われるガバメントカスタムは日進月歩で進化し、スプリングフィールドカスタムショップやスミス&ウェッソンパフォーマンスセンターが誕生したのもこの頃だ。こうした中、その後の銃器業界に大きな影響を与えた2つの潮流があった。ひとつがドットサイトの浸透、もうひとつが多弾数(ハイキャパシティ)マガジンが使えるガバメントの浸透だ。

 ドットサイトは1970年代前半から存在しており、エイムポイントやタスコのドットサイトはビアンキカップで実戦投入され成果を上げていた。ドットサイトがブレークスルーするきっかけとなったのは、1990年9月に開催されたUSPSAナショナルズと1991年4月の開催されたスチールチャレンジでジェリー・バーンハート氏がタスコのプロポイントⅡを搭載したウィルソンコンバット製のガバメントカスタムを使って両マッチで優勝したことからだ。ドットサイトそのものの信頼性の向上はもちろん、アイアンサイトに比べて素早く正確に狙えるというドットサイトの利点をフルに発揮した結果なのだが、これをきっかけにアクションシューティングにおいてドットサイトは必要不可欠なアイテムとなり、やがてその流れはアサルトライフルやサブマシンガンなどにも広まっていった。

 余談だが、1989年に実行された米国人カート・ミューズ救出作戦(Operation Acid Gambit)において、当時アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォース隊員だったラリー・ヴィッカーズが使ったコルトモデル723にはエイムポイントが搭載されており、先見性のあるデルタフォース隊員たちはこの頃からドットサイトに着目していた。

 

エキスパートピストルの右側面。フレーム右側上部の盛り上がりがいかにもハイキャパシティフレームらしい。5インチバレルのリミテッドスタイルを再現した外観は意外とカッコいい。フレーム、スライドともABS樹脂製

 

 そして、ドットサイトと同時期に主にUSPSA/IPSCにおいてトレンドとなっていたのがレースガンのハイキャパシティ化である。1枚のペーパーターゲットに2発ずつ(=ダブルタップ)撃ち込む必要があるUSPSA/IPSCのコースレイアウトにおいて、マガジン内の装弾数が多いほうがマガジンチェンジが少なく済むので競技を有利に進められる。当時主流だったシングルカアラムフレームの.38スーパー口径のガバメントカスタムでは10発+1発が限界だった。そこでトップシューターたちは装弾数15発以上のダブルカアラムマガジンを持つCz75のクローンモデルをベースとしたカスタムモデルを投入していた。そんな中、カナダのパラオードナンスがダブルカアラムマガジンを持つガバメントを1990年に開発して市販化。1991年のUSPSAナショナルズでパラオードナンスのガバメントをベースにしたカスタムガンでタッド・ジャレット氏が優勝した。前後してガバメント用カスタムパーツメーカーのキャスピアンからハイキャパシティフレームが登場した。

 

バレルブッシング仕様のシルバー仕上げのアウターバレル。マズルからインナーバレルが丸見えだ。スライド前部両側にはフロントセレーションが施されている

 

 ガバメントカスタムにもハイキャパシティ化の波が訪れつつある中で決定版となる製品が1992年に登場した。サンディ・ストレイヤー氏とヴァージル・トリップ氏の2人によって開発され、チップ・マコーミック氏によって市販化された「モジュラー・コンペティションシステム・フレームキット」(通称モジュラーフレーム)だ。東京マルイのハイキャパシリーズのフレームの原型となったモデルである。先行したパラオードナンス、キャスピアンのフレームがメタルソリッドタイプ(従来のシングルカアラムフレームと同じ金属製の一体型)であったのに対して、モジュラーフレームは金属製のフレームとポリマー樹脂製のグリップが組み合わされたハイブリッド構造を取り入れていた。メタルソリッドタイプに比べて軽量で握りやすく、カスタマイズのしやすさ、装弾数の多さ(9mm×19で19発)から瞬く間に人気となった。その後、マコーミックから製造の加えて販売もSTIに移り、やがてSTIからSV(ストレイヤー・ヴォイト)が分離、現在はSTIはスタカート、SVはインフィニティファイアアームズに社名を変更して製造を続けている。結局、ガバメントのハイキャパシティフレームはSTI系のモジュラーフレームが生き残り、パラオードナンス、キャスピアンともに現在は製造されていない。

 また余談だが、1992年のUSPSAナショナルズでプロトタイプのマコーミックフレーム+ドットサイト付きのウィルソンコンバット製ガバメントカスタムで優勝したのが、先ほども登場したジェリー・バーンハート氏であった。バーンハート氏は2つの「革命」に関わったまさにトレンドセッターと呼べる伝説のシューターであり、眼鏡をかけた数少ないチャンピオンシューターでもある。

 

スライドをホールドオープンさせたところ。アウターバレル、インナーバレルともに固定式なのでショートリコイルしない。リコイルスプリングガイドはフルレングスタイプ

 

 前置きがかなり長くなってしまったが、MGCのエキスパートピストルはトイガンで唯一キャスピアン製のハイキャパシティフレームを再現し、ハイキャパシティタイプのガバメントカスタムを初めてトイガン化した製品でもある。グロック17、P7M13の後に発売され、同社初のガバメント系ガスブローバックガンであった。登場が1993年なので、実銃のトレンドを真っ先に再現したと言っても過言ではない。スライドはスプリングフィールドカスタムショップタイプが組み合わされており、1993年の時点でスプリングフィールドとキャスピアンとの間でキャスピアン製ハイキャパシティフレームの製造に関するライセンス契約が結ばれており、オーソドックスなエキスパートピストルのようなモデルがあったかもしれない。

 エキスパートピストルは初期型のアフターシュート式(スライドが後退した後にBB弾が発射される)と後期型のハイパーブローバック式(=プレシュート式、BB弾が発射された後にスライドが後退する)があり、今回紹介するのはABS樹脂製スライド仕様のハイパーブローバック式である。アフターシュート式はハンマーダウン状態だとマガジン交換できないというデメリットがあったが、ハイパーブローバック式ではノッカー部分が改良されたことでハンマーダウン状態でもマガジン交換できるようになった。エキスパートピストルのほかにコンペンセイターが付いたレースガンっぽいフォルムのスクワートガンがあり、筆者は当時これを発売直後に購入したものの、すぐにフレーム後部が欠けてしまった記憶がある。

 

フラットなスライドトップにはセレーションが刻まれており、ランプドライプのフロントサイトの後面(リアサイト側)にもセレーションが刻まれている

 

 全体のフォルムは同じ5インチタイプの東京マルイのハイキャパ5.1ガバメントモデルに似ていて、今の視点から見てもカッコいい。グリップもSTI系のモジュラーフレームに比べて太めだが、角が丸められているので握りにくいわけでもない。カスタムパーツもフル装備されている。スクワートガンはノンホップ仕様、エキスパートピストルはホップアップが搭載されているのだが、今回紹介するハイパーブローバック式はノンホップ仕様となっている。MGCらしいリアルなプロポーションだが、スライドをホールドオープンするとエジェクションポートからはブローバックユニットが丸見えで、バレルはショートリコイルしなかった旧世代のものだった。発売時は許容範囲だったが、ほどなくしてウエスタンアームズからマグナブローバックシステムを搭載したベレッタM92FSが登場したことで状況は一変。マグナブローバックシステムがもたらすリアルなディテールと手首にガシッとくる撃ち応え、作動の確実性、耐久性の高さは旧世代のガスブローバックガンを過去のものにしてしまった。

 

スプリングフィールドらしいシンプルなスライド左側の刻印。口径は当時のレースガンで主流だった.38スーパー仕様となっている

 

 MGCのハイキャパシティガバメントシリーズはエキスパートピストルやスクワートガンを含めてスコープマウントベース付きモデル(ABSシューティングカスタム)などのバリエーション、最後にはモデルガンが登場したが、MGCの休業に伴い製造中止となった。発売時に大きな注目を集めたものの、初期型で問題となったハンマーダウン時にマガジンが着脱できないことや信頼性の低さから期待したほどの人気は出なかった。もしキャスピアンフレームではなくSTI系のモジュラーフレームだったらもっと人気が出たかというと、それはなかっただろう。時代はすでにマグナブローバックシステムやプレシュート式のブローバックエンジンに向かいつつあり、その時流に乗ることができなかったのが不振の大きな要因だろう。ただし、日本初のハイキャパシティガバメントのトイガンであり、貴重なキャスピアンフレームを再現したガスブローバックガン/モデルガンとして後世に語り継がれることだろう。

 

スライド右側前部にはスプリングフィールドカスタムショップの刻印が入れられている

 

スライド右側エジェクションポート下にスプリングフィールドとトレードマークが入っている

 

フレーム右側上部にキャスピアン製であることを示す刻印が入っている

 

シルバーメッキ仕上げのチャンバーカバーは無刻印仕様(バリエーションによっては刻印入りのものがあるようだ)

 

スライドをホールドオープンさせたところ。エジェクションポートからはブローバックユニットが丸見えでちょっと興醒め

 

スクエアトリガーガードに2ホールタイプのトリガー、スライドのエッジが落とされたスライドストップが組み合わされている

 

ダブルホールリングハンマーやアンビタイプのサムセーフティ、ビーバーテイルグリップセーフティなどガバメントカスタムらしいカスタムパーツが装着されている

 

左右の幅が広げられたハイキャパシティフレームに対応してトリガーバーの左右の幅も広げられており、グリップセーフティもそれに対応した形状となっている

 

リアサイトはエッジがカットされたボーマータイプのフルアジャスタブルタイプ

 

キャスピアンオリジナルのハイキャパシティフレーム。マガジンウェルが一体になっており、STI系とは異なりノーマルのガバメントのようなグリップパネルが付属しているのが特徴

 

グリップのフロントストラップ部分にはチェッカリングが刻まれている。グリップパネルはできるだけ薄くされていてエッジも丸められているので握りにくくはない

 

バックストラップの形状に合わせられたチェッカードメインスプリングハウジング。フレーム一体型のマガジンウェルのお陰でマガジンチェンジしやすい

 

ステンレス製のアウターケースにアルミダイキャスト製のインナーが組み合わされたボクシーなマガジン。BB弾は専用のローダーを使って装填する。装弾数は20発

 

アウターケース前面には「CASPIAN ARMS」の刻印が堂々と入れられている

 

ハンマーダウン時でもマガジン交換できる後期型のマガジンはガス放出バルブ上部にノッカーを避けるための切り欠きが追加されている

 

分解方法は実銃とは異なっている。まずはアウターバレルを外し、リコイルスプリングガイドを縮めた状態で固定する。スライド後部のダミーエキストラクターを外してスライドを戻し、スライド後部を引き上げたまま前方にずらしてフレームから外す。そしてバレルブッシング、リコイルスプリングガイドプラグを取り出す

 

フレーム内部に設けられたブローバックユニット。写真右側の黒いパーツ(スライドレール)がスライド内部に固定されることでスライドがブローバックする。インナーバレルは固定式

 

製品にはプレシュートのハイパーブローバック式ピストンロッドがあらかじめ装着されているが、パワーを優先したい方のためにアフターシュート式ピストンロッドがおまけで付属していた

 

東京マルイのハイキャパ5.1ガバメントモデル(写真右)と比較したところ。30年の時を経てキャスピアンフレームとSTI系モジュラーフレームが共演するとは誰もが予想しなかっただろう。どちらもスタンダードな5インチのため外観が似ている

 

グリップを前面から見たところの比較。右がMGC、左が東京マルイ。MGCのキャスピアンフレームのほうがグリップパネル分だけ明らかに左右の厚みがあるのがわかる。マガジンウェルまで含めたグリップの上下長は同じくらい

 

グリップを後面から見たところの比較。右がMGC、左が東京マルイ。両銃ともグリップセーフティやメインスプリングハウジングはフレームの形状に合わせて専用品となっている。後ろから見てもキャスピアンフレームのほうが厚みがあるのがわかる

 

マガジンを比較したところ。右がMGC、左が東京マルイ。実銃の装弾数はキャスピアンフレーム、STI系ともに19発(弾は.38スーパー)。マガジン上部の形状が実銃用とは異なるので縦の長さは比較できないが、左右はもちろんバンパーの厚み、形状もまったく異なる。キャスピアンフレームのほうが携行しやすそうだ

 

 

[プロフィール]

 

アームズマガジンの編集ライター。エアガンシューティング歴35年。数多くの国内シューティングマッチ入賞経験に加えて、1999年、2000年に開催されたIDPAナショナルズ参戦、シグアームズアカデミーや元デルタフォース隊員のラリー・ヴィッカーズのタクティカルトレーニングを受講するなど実弾射撃経験も豊富。今まで25年、300冊以上のアームズマガジンと関連MOOKの制作に携わる。

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