エアガン

2021/11/01

ファルコントーイ「HK P9S」【毛野ブースカの今月の1挺!番外編】

 

「月刊アームズマガジン」編集部の毛野ブースカがおくる『毛野ブースカの今月の1挺!』 。今回は番外編パート4ということでファルコントーイのカート式エアコッキングガン『HK P9S』だ。

 

【番外編パート3】マルゼンの「S&W M659」と「コルトガバメント」はコチラ

前回の「今月の一挺」はコチラ

 


 

パッケージのイラストはディテールが正確なので、おそらく実銃の写真をもとに描かれたものと思われる。パッケージを開けると、それとはややディテールの異なる製品が出てくる

 

 このコーナーでは初登場となるファルコントーイ。エアガン黎明期から活動しており、ポンプ(シリンダーとピストン)を内蔵したカートリッジを使うライブカート式リボルバーや、カート式エアコッキングガンのウッズマン(デフォルメされてかなり大きかったが…)やMP5K、MP5SD3、ブローバック式のブレンテン、ガスフルオート式のスペクターや56式小銃、ガリル、そして蛇腹式のシリンダー/ピストン(バルク式)を採用したMP5KやMP5SD3の電動ガンを発売。常にユニークなメカニズムとマニアックな機種選定でマニアを楽しませてくれたメーカーだった。

 

 今回紹介する製品は同社のカート式エアコッキングガン「HK P9S」(以下P9S)だ。実はファルコントーイはMP5シリーズを初めてトイガン化したメーカーであり、P9Sをトイガン化した唯一のメーカーである。ファルコントーイというメーカーはラインアップにハンドガンが少なく、その中でもP9Sは完成度が高い部類に入る。1985年に登場し、バリエーションとしてはバレルウエイト+シルバーフレーム仕様のP9Sカスタム、ケースレス仕様があった。価格は¥5,000だった。

 

実銃のP9Sは今から50年前に開発されたローラーロッキング方式を採用するユニークなハンドガン。ヘッケラー&コックの銃の中でもマイナーな部類に入る。そんな銃をファルコントーイはカート式エアコッキングガンで唯一トイガン化した

 

スプリングによってスライドを後退させてカートリッジをエジェクトする仕組みのため、スライドがホールドオープンした状態がデフォルト(エアガンとしての本来の姿)となっている。ちなみに実銃はバレル固定式なのでショートリコイル方式のようにティルトしない

 

 1970年に登場した実銃のP9Sは、口径9mm×19、ハンドガンでは珍しいMP5やG3と同じローラーロッキングによるディレードブローバック方式を採用し、バレルは固定式、ダブルアクショントリガー、ハンマーをシングルアクションモードにできるコッキングレバーを搭載。トリガーガードとグリップが樹脂製だった、当時としてはかなり斬新な作りだったが成功作とは言えなかった。のちに登場するVP70やP7シリーズと並んで「個性的で先進的だがメカニズムが複雑すぎて扱いにくい」というこの当時のヘッケラー&コック製ハンドガンに対するネガティブなイメージを植え付けさせる一端となってしまった。その反省からか1993年に開発されたUSP以降はコンベンショナルなブローニング式のショートリコイルシステムを採用。P2000、HK45、VP9へと続く現代を代表するハンドガンへと成長させた。
 

操作系は左側に集中しており、右側はなにもない。エジェクションポートはエアガン用にアレンジされている。グリップ前部はフィンガーチャンネルが付いている。フレーム下部のマガジンキャッチはコンチネンタルタイプなので左右両側から操作できる

 

 そんなハンドガンの異端児をファルコントーイは敢えてエアガン化した。外観はまさにP9Sなのだが、スライド内にシリンダー/ピストンを内蔵した関係からかスライドの形状がデフォルメされている。グリップも実銃より丸みがなく平べったく、あくまでも「P9Sっぽく」作ってあるといったほうが正解だろう。スライドストップはマニュアルセーフティを兼ねており、トリガー後方左側にあるコッキングレバーはグリップ下部のコンチネンタルマガジンキャッチと連動している。コンチネンタルマガジンキャッチは素早いマガジンチェンジに向いていないので、このファルコントーイのそれはナイスアイデアだ。実銃ではスライド後部左側にマニュアルセーフティが設けられているがファルコントーイのはダミーとなっている。

 

 発射方式はスライドを押し込んでピストンをコックするプッシュ式。ピストンがコックされるとスライドが閉鎖され、トリガーは2段引きとなっていて、トリガーを引くとピストンが前進してBB弾を発射され、さらに引くとスライドが解放されてスプリングの力でスライドが後退し、カートリッジがエジェクトされる。ホールドオープン状態がデフォルトで、スライドが前進(閉鎖)した状態にするにはコッキングするか、トリガーを引きながらスライドを前進させるしかなかった。実銃のようにスライドが前後動するガスブローバックガンが当たり前の今から見ると牧歌的だが、マルゼンもこの方式を採用したハンドガンをリリースしており、当時としては一般的だった。カートリッジは9mm×19弾のリアルサイズではなく.380ACP弾に近い。

 

6mmBB弾サイズのマズル。実銃のリコイルスプリングはバレルを取り囲むように装着されている。スライドを後退させるスプリング(押しバネではなく引きバネ)は別の場所(おそらくスライドとフレームに隠された部分)に設けられている

 

赤色のHKの文字が印象的なスライド左側の刻印。ABS樹脂製のスライドは無塗装仕上げ

 

スライド上面はセレーションなどなくのっぺりしている。フロント/リアサイトとも固定式

 

マニュアルセーフティを兼用しているスライドストップ。スライドが前進(閉鎖)した時のみかかるようになっており、スライドストップとしても機能する

 

実銃は樹脂製のフィンガーレスト付きトリガーガード。表面がシボ加工されておりそれっぽくなっている。トリガーはシングルアクションオンリー

 

実銃はハンマー内蔵式のダブルアクショントリガーなのでスライド後部はのっぺりしている。スライド後部左側にあるのが実銃ではマニュアルセーフティ

 

実銃ではコッキングレバーにあたるパーツはフレーム下部のコンチネンタルマガジンキャッチと連動しており、素早いマガジンチェンジに貢献している

 

この当時のヨーロッパ製オートマチックピストルでは一般的だったフレーム下部のコンチネンタルマガジンキャッチ。マガジンにはバンパーが付属している

 

スチールプレス製マガジンを取り出したところ。実物よりもひと回りくらい小さい。装弾数は8発

 

マガジンをよく見ると、カートリッジの上りをスムーズにするためにマガジン内部後側にスチールプレス製のガイドが設けられており、なかなか凝っている

 

9mm×19弾よりやや小さいカートリッジとBB弾。BB弾はカートリッジの先から込める。当時のBB弾のクオリティはお世辞にもいいとは言えない。もちろんノンバイオ

 

 

カートリッジをチャンバーに装填しようとしているところ。チャンバーは二重構造で、装填、排莢を確実にするために前後に可動するムービングチャンバー式となっている

 

ピストンをコッキングせずにスライドを前進(閉鎖)させる、もしくはBB弾を飛ばさずにカートリッジだけエジェクトさせない時は、まずトリガーを引く

 

トリガーを引きながらスライドを押し込むとスライドを固定するためのシアに引っ掛かって固定される。トリガーを引けばシアが解放されてスライドが後退してホールドオープン状態となる

 

BB弾を撃ちたい場合は、スライドをホールドオープン状態にしてからカートリッジを込めたマガジンを装填し、スライドを押し込むとカートリッジがチャンバーに送り込まれ、同時にピストンがコックされる。P9Sはスライド後部がスラントしているので押し込みにくい

 

 あらためて撃ってみると、コッキングにそれほど力がいらないが、カートリッジをチャンバーに装填する際にはちょっとコツがいる感じ。スライドの後退スピードは想像より早く、カートリッジも軽快にエジェクトされる。BB弾の飛距離は20m弱で、ガスブローバックガンに比べればリコイルショックはなきに等しいが、カートリッジがエジェクトされるので純粋に撃っていて楽しい。当時はこれで充分だったのだ。

 

 エアガン黎明期は実銃のようにカートリッジがエジェクトされる製品が意外と多かった。現代のエアガンよりもある意味でリアルだったのかもしれない。しかし、P9Sと同時期に登場したMGCのM93Rなどのスライド固定式ガスガンの台頭により、P9Sのようなカート式エアコッキングガンは衰退していくことになった。P9Sというハンドガンもこのファルコントーイの製品以降、どこもモデル化していない。そういった意味で貴重な製品だと言える。時代の波に飲まれて消えていったファルコントーイのP9S。この銃も後世に語り継ぐために再び眠りについてもらおう。

 

 

 

「シャコッ!」とスライドが後退してカートリッジがエジェクトされる瞬間。スライドの後退スピードとカートリッジがエジェクトされるスピードは意外と速い。真ん中の写真だけ見ているとガスブローバックガンのようだ。撃つ度にスライドを押し込まくてはならないが、カートリッジがエジェクトされる様子は見ていて楽しい

 

現代を代表するヘッケラー&コック製ハンドガンであるHK45(写真右、東京マルイ製)やUSP(写真中央、東京マルイ製)と比較したところ。2挺とも他社製品に比べれば個性的だが、P9Sに比べれば正直言って「ぬるい」。USPが出た当初、メカニズムやデザインがフツーすぎて(結果的にそれがよかったのだが…)P9Sを筆頭にP7やVP70など個性の塊のようなヘッケラー&コックのハンドガンらしさが感じられずガッカリしたものだ

 

[プロフィール]

 

アームズマガジンの編集ライター。エアガンシューティング歴35年。数多くの国内シューティングマッチ入賞経験に加えて、1999年、2000年に開催されたIDPAナショナルズ参戦、シグアームズアカデミーや元デルタフォース隊員のラリー・ヴィッカーズのタクティカルトレーニングを受講するなど実弾射撃経験も豊富。今まで25年、300冊以上のアームズマガジンと関連MOOKの制作に携わる。

 

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