エアガン

2021/01/17

グンゼ産業「ソシミSMG821電動ガン」【毛野ブースカの今月の1挺!番外編】

 

「月刊アームズマガジン」編集部の毛野ブースカがおくる『毛野ブースカの今月の1挺!』 。今回は番外編ということで普段はご紹介しない銃を取り上げよう。ご紹介するのはグンゼ産業『ソシミSMG821電動ガン』だ。

 

前回の「今月の一挺」はコチラ

 


 

 

 エアガンの歴史を語るうえで絶対に外せない銃が、今から28年前の平成5年(1993年)に登場したグンゼ産業(現GSIクレオス)の電動ガン・ソシミSMG821(以下ソシミ)だ。1996年からアームズマガジンの制作に携わっている筆者だが、ソシミは1996年の時点ですでに伝説化しており、先輩方がらソシミにまつわるいろいろな話を伺っていたものの、ソシミの現物を手にしたことがなかった。しかし昨年末、ひょんなことから編集部の倉庫に長らく眠っていたソシミを発見した。「今月の1挺」の番外編としてソシミを取り上げたのは、単に当時を懐かしむだけではなく、ソシミに搭載されたユニークな電動メカニズムやチャレンジングな給電方法を通して、今の電動ガンの完成度の高さを知ってほしいという面もある。なお、今回は平成6年に発行されたアームズマガジンの別冊『THE電動ガン』に掲載された文章と写真を参考にソシミの特徴を解説したい。

 

UZIによく似た外観のソシミ。なぜソシミが選ばれたのか謎だが、まさに「コレジャナイ感」が漂う。ちなみにフォールディングストックはオプション扱いだった

 

 東京マルイとは異なる電動メカニズムを採用した電動ガンとしてはトイテックに次いで登場したソシミ。エアコッキングガンをメインに作っていたグンゼ産業にとっては初の電動ガンだった。選ばれたのは今はなきイタリアのガンメーカー・ソシミが開発したサブマシンガン821。外観はUZIに非常によく似ており、なぜメジャーなUZIではなくマイナーなソシミを選んだのか今となっては謎だ。ただ後発であるグンゼ産業としては、細長いレシーバー内に電動メカニズムとバッテリーを搭載した電動ガンを作ることで、先行していた東京マルイに追い付き追い越したかったのかもしれない。

 

フォールディングストックは右側に折り畳まれる。グリップにはフィンガーチャンネルが付くなどモダナイズドされているが、操作性はUZIとまったく同じ

 

 余談だが、ソシミから数年後に東京マルイが専用のバージョン5メカボックスを開発してUZIを電動ガン化したものの、現在ではカタログ落ちしている。その数年後に電動コンパクトマシンガンがデビューしたが、UZIスタイルのスタンダード電動ガンは登場していない。東京マルイですらUZIスタイルのスタンダード電動ガンの製品化は難しいということを念頭に置きながら読んでほしい。

 

樹脂製の本体は左右分割式のいわゆるモナカ構造。細長いレシーバー内に電動メカニズムと乾電池収納スペースで寸分の余地もない(別冊『THE電動ガン』から抜粋)

 

 ソシミが導入した電動メカニズムはカム式と呼ばれるものだ。東京マルイが採用しているラックアンドピニオン方式はピストンのコッキングをラック式のギアが行なっている。それに対してカム式はカム(突起)が側面に付いたピストンを、コッキングカムと呼ばれるらせん状の溝が設けられたパーツが横方向に回転することでピストンのカムと噛み合い、ピストンを押し下げてコッキングする。モーターの駆動力の伝達効率という点ではラックアンドピニオン式に比べて不利だが、メカニズム全体をコンパクトにまとめることができ、ピストン、ギアボックス、モーターを一列に配した縦置き型によってソシミのような細長いレシーバーにも対応できたのだ。

 

写真上からインナーバレル&チャンバーアッシーとシリンダー&ピストンアッシー。上から2段目がピストンとピストンガイド、メインスプリング。下から2段目がコッキングカム。下がシリンダーとノズル部分。コッキングカムがらせん状になっているのがわかるだろうか。コッキングカムによってノズルが押し出されることでチャンバーにBB弾が送り込まれる(別冊『THE電動ガン』から抜粋)

 

 一見すると非常にユニークでよくできた電動メカニズムにも見えるが、別冊『THE電動ガン』にはこんな記述がある。

 

バレル長は80㎜で、約6㏄のピストン容量から見れば、この倍くらいの長さでもエアが不足することはないし、そのほうが性能が良くなるはずだ。しかしノズルの前後量がギリギリで、この部分のシールが完全にはできなくて、少々エア漏れがあるので、80㎜以上のバレル長では逆にパワーが落ちてしまう。これは残念なことではあるが、同時にこの部分を改良すれば、もっと性能アップが期待できるということでもある」(原文まま)

 

 さらにピストンストロークは39mm(実質23mm)、アルミ製インナーバレルの内径は6.15mmと記されており、0.20g弾を使った初速が51.6m/s(0.26J)とスタンダード電動ガンとしてはローパワーだったようだ。また連射速度が500発(毎秒8発程度)と、東京マルイのスタンダード電動ガンの半分くらいしかなかった。現代の技術ならもっといいものになったかもしれないが、当時は限界だったのだろう。

 

東京マルイ製電動ガンとはまったく異なるモーターを含めた駆動系。カムを回すためにギアは横方向に回転する。つまり撃つ時は横方向に捻られるような感じだったという。2個のピニオンギアがコッキングカムを回転させる(別冊『THE電動ガン』から抜粋)

 

2個のピニオンギアは2つの穴を通してコッキングカムを回転させる。ラックアンドピニオン式に比べて複雑な構造を有している(別冊『THE電動ガン』から抜粋)

 

 電動メカニズムもさることながら、もっとユニークなのが給電方式だ。現在の電動ガンはニッケル水素もしくはリチウムポリマーを使った電動ガン専用バッテリーをストックやハンドガード内に収納する方法を採用している。それに対してソシミは専用のバッテリーを使わずに、単3乾電池サイズのニッカド充電池、もしくはアルカリ乾電池を12本使用するのだ。さらにニッカド充電池を入れている時は電池を取り出すことなく銃本体に設けられたコネクターから充電が可能だった。細長いレシーバー内は電動メカニズムと12本もの電池でひしめき合っており、まったく余裕はない。当時の電動ガン用ニッカドバッテリーは大きくて収まらなかったことから採用された苦肉の策だったのかもしれない。今ならコンパクトなリポバッテリーがあれば解決できるはずだが、残念ながら当時は存在していなかった。

 

レシーバー下側にある充電用のコネクター。充電器を差して充電している様子はさながらスマホのよう。ゴム製のカバーがコネクターに被さっているはずなのだがこの製品にはなかった

 

 

本体前部にはバレルを挟むようにした合計12本の単3乾電池が収まる。入手しやすい単3乾電池が使えるメリットはあるものの、現在のリポバッテリーならこの半分以下のスペースで済むはずだ。ちなみに写真のニッカド充電池は当時付属品として同梱されていたもの

 

 このように、ソシミは唯一無二のエポックメイキングなメカニズムや給電方式を採用していたものの、信頼性や実射性能(=エアガンとしての実用性)という点において東京マルイの電動ガンには対抗できず短命に終わってしまった。先ほども書いたが、もし現代の技術を駆使すれば、もっといいものになったかもしれない。しかし、これで終わったしまったということは、いかに東京マルイが採用するラックアンドピニオン式がシンプルで優れているかの表れでもある。28年経った今でもそれを超えるメカニズムが誕生し、かつ普及していないことからも明らかだ。特にソシミやUZIのような細長いレシーバー形状を持つ銃に搭載可能な電動メカニズムや給電方式を実現することは極めてハードルが高い。グンゼ産業のソシミは歴史に埋もれてしまった銃だが、独自路線を切り開こうとした挑戦者としての意気込みを私たちは忘れてはならない。次の世代に語り継ぐためにソシミには再び眠りについてもらおう。

 

マガジンの装弾数は20発でリザーブタンクに200発収納できる。マガジンボトムを引っ張ってリザーブタンクから給弾する方式で、今から見るとあまり実用的とは言えない

 

別冊『THE電動ガン』に掲載されたソシミの広告。電動サブマシンガンという謳い文句はインパクトがあったはずだ。当時の価格は単3ニッカド充電池や充電器がセットになって¥20,000

 

サバイバルゲームフィールドがなかった時代に発売されたソシミ。素材や製造方法、電子制御が進化し、リポバッテリーがある現代の基準で作ったらどのような性能を発揮するのだろうか

 


 

[プロフィール]

 

アームズマガジンの編集ライター。エアガンシューティング歴35年。数多くの国内シューティングマッチ入賞経験に加えて、1999年、2000年に開催されたIDPAナショナルズ参戦、シグアームズアカデミーや元デルタフォース隊員のラリー・ヴィッカーズのタクティカルトレーニングを受講するなど実弾射撃経験も豊富。今まで24年、280冊以上のアームズマガジンと関連MOOKの制作に携わる。

 

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