ミリタリー

2022/12/07

【取材レポート】日米の強固な絆を示す共同演習「オリエントシールド22」


 今年8月半ばから9月にかけて、陸上自衛隊と米陸軍による恒例の日米共同訓練「オリエント・シールド(ORIENT SHIELD)22」が実施された。緊迫の度合いを増す南西方面の島嶼防衛を見据え、陸上自衛隊西部方面隊と在日米陸軍を中心に現代戦の様相を踏まえて行なわれた各種訓練では、陸自の12式地対艦ミサイル(12SSM)やネットワーク電子戦システム(NEWS)に加え、米陸軍のジャベリン対戦車ミサイル、HIMARS(高機動ロケット砲システム)などウクライナ戦争でも脚光を浴びた装備が参加し、注目されている。この訓練のうち、熊本県大矢野原演習場と鹿児島県奄美駐屯地で行なわれた本訓練の模様を、フォトジャーナリスト・笹川英夫が捉えたのでご覧いただきたい。

 

訓練開始式

 

 陸上自衛隊は、島嶼防衛作戦における陸自CDO(Cross DomainOperations:領域横断作戦)と米陸軍MDO(Multi-DomainOperations)を踏まえた日米連携の実効性向上に資することを目的とし、日米共同の実動訓練「オリエント・シールド22」を実施した。近年の戦いの様相は陸・海・空といった従来の領域だけでなく宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域が重要性を増し、これらを有機的に融合した横断的な作戦が必要とされている。今回は島嶼防衛を本題に見据え、陸上自衛隊西部方面隊と在日米陸軍を中心とする各部隊約2,100名が、8月27日から9月9日までの日程で、九州・南西諸島各地の演習場や駐屯地などで実動訓練を行なった。
 参加部隊は陸自が西方総監部、第4師団、西方特科隊、第2高射特科団、西方システム通信群など。米陸軍は在日米陸軍司令部、第1MDTF(Multi-Domain Task Force)、第1-24歩兵大隊、第17砲兵旅団、第38防空砲兵旅団などであった。
 訓練開始式には日米の隊員ら約150人が出席。西部方面総監 の竹本竜司陸将は「隊員同士の絆を深め、日米共同対処能力を向上させよう」、在日米陸軍司令官のジョエル・B・ヴァウル少将は「日米のパートナーシップはインド・太平洋地域の安全保障の鍵。演習を通して即応性と友情を深められることを楽しみにしている」と訓示した。

 

Photo:西部方面隊提供

 

対戦車ミサイル等の射撃訓練

 

 翌日、熊本県山都町にある大矢野原演習場にて対戦車ミサイル等の射撃訓練が報道公開された。まず、米陸軍は携行式対戦車ミサイル・ジャベリン、陸自は同様の機能でやや小型の01式軽対戦車誘導弾による実弾射撃を実施。日米の陸上部隊が連携して共同作戦を進める手順が、この訓練で確認された。
 ジャベリンは歩兵が携行し、射撃時には肩にのせて目標を照準、ロックオンして発射。ミサイルは自律で目標に向かって飛翔し、破壊する。対戦車用途では、装甲が弱いとされている上面を狙うトップアタックが可能。ロシアに侵攻されたウクライナに対し、米国が軍事支援として供与した代表的な武器であり、現地では多数使用されて大きな戦果をあげている。なお、この訓練には中国による東シナ海や台湾周辺での軍事活動の活発化を念頭に、地上戦闘でも日米の戦力に優位性があることを示し抑止力を高める狙いもあるのだろう。
 この日の射撃訓練では陸自と米陸軍が演習場内の別々の場所で、それぞれ2発ずつ撃ち込んだ。陸自は約0.4km先、米陸軍は約2km先の山肌に配された、戦車に見立てた標的を射撃。ミサイルはそれぞれ独特の推進音を響かせて飛翔し、標的に命中すると大きな黒い煙が上がった。
 陸自によると、米陸軍はアラスカ州の1-24歩兵大隊が、陸自は福岡県の小倉駐屯地の第40普通科連隊がこの射撃訓練を担った。ジャベリンの射撃は、日本国内では富士演習場で米海兵隊が実施した例(本誌でも取材した)などはあるが、米陸軍としては今回が初めてとのことだ。
 その後も陸自の110mm個人携帯対戦車弾(通称:LAM)や、米陸軍のAT-4携行対戦車弾などの射撃が行なわれ、約300~400m先の標的にテキパキと命中させていた。この日の大矢野原演習場は、まさに日米個人携行対戦車兵器の饗宴となっていた。

 

01式軽対戦車誘導弾

 

 

 

2人1組の陸自普通科隊員による01式軽対戦車誘導弾の射撃訓練の様子。01式はジャベリンより小型のため、発射時の反動も少なかったようだ

 

約0.4km先の標的の中心に着弾させ、その性能の高さをアピールしていた

 

FGM-148 ジャベリン

 

ジャベリンを射撃する米陸軍兵士たち。こちらも射撃は基本的に2人1組で行なった

 

 

 

秒間40コマのハイスピードでジャベリン発射の瞬間を捉えた。射手は目標にロックオンしてから発射。ミサイル本体は発射後少し間を開けて推進装置に点火し、自律で飛翔して目標を撃破する。01式同様撃ち放し(Fire-and-forget)タイプのミサイルで、射手は反撃を避けるためすぐに射撃地点から離脱できるメリットもある

 

2km先の標的に見事命中

 


12SSMおよびHIMARSの報道公開

 

 8月31日には鹿児島県奄美市の奄美駐屯地で、本訓練の報道公開が行なわれた。陸上自衛隊と米陸軍による防衛警備を想定したこの訓練では、陸自は西部方面特科隊より12式地対艦誘導弾(12SSM)、米陸軍は第17砲兵旅団のHIMARS(ハイマース:高機動ロケット砲システム)を展開。とりわけ、米国がウクライナに供与して一躍有名となったHIMARSは一部で物議を醸したようで、奄美名瀬の高台にある奄美駐屯地の入口付近には、この共同訓練を中止せよと市民団体が20名ほど集結し、訓練中止の要請書を同駐屯地に提出するなどの静かな抗議活動はあったものの、訓練自体は無事に予定通り進行した。
 まず訓練に先立ち月刊アームズマガジン11月号で紹介した陸自第301電子戦中隊が洋上より接近する艦艇を探知。グアム島から到着したての米陸軍HIMARSと陸自12SSM部隊が連携して攻撃する訓練を行なった。
 参加人員は陸自約200名、米陸軍約50名。訓練は非実射で奄美駐屯地敷地内にてHIMARSと12SSMの展開機動並びに発射シークエンスを展示した。また、見学のみ許された共同調整所(高度なネットワークで日米両国の電子戦情報が共有されていた)など日米の指揮系統が連携し、領海を侵犯した艦艇への対処手順などが確認された。
 陸自西部方面総監の竹本陸将は訓練後現地で記者会見し、「安全保障環境が厳しい南西諸島で日米部隊が実際に展開できたのは大きな意味がある。奄美は沖縄半島と九州の中間で地政学的に重要」と指摘。在日米陸軍司令官ヴァウル少将は「米陸軍が陸自のパートナーとなり、潜在的な敵に対する抑止を支える立場だ」と述べた。

 

12式地対艦誘導弾

 

 

12式地対艦誘導弾(12SSM)の発射シークエンス。手慣れた様子で歯切れよく準備する陸自特科隊員の様子から、練度の高さがうかがわれた

 

M142 HIMARS

 

 

報道陣に特に注目されていたHIMARSの発射シークエンス。高機動と謳っている装備らしく、展開から発射準備までの時間が短い。速やかに発射し離脱できることは、生残性の面でも利点がある

 

陸自の12式地対艦誘導弾と、南西諸島へ初めて展開した米陸軍HIMARSのツーショット

 

これからの島嶼防衛

 

 12式地対艦誘導弾は令和3(2021)年度より能力向上型の開発が進められており、着上陸侵攻事態に際し、多様なプラットフォーム(車輌、艦艇、航空機等)で相手の脅威圏外からの攻撃が可能なスタンド・オフ・ミサイルとして注目されている。米陸軍HIMARSの国内米軍基地への配備なども含め、日本の抑止力向上のために一刻でも早い国土防衛力の強化が望まれる。
 今回の「オリエント・シールド22」の取材を通して、こうした日米共同による島嶼防衛訓練が海洋進出を強める中国など脅威となりうる周辺国への効果的な牽制となり、日本の平和を維持するうえで必要であると、強く実感した。

 

訓練後、在日米陸軍司令官ジョエル・B・ヴァウル少将と、陸自西部方面総監の竹本竜司陸将が記者会見を行ない、日米連携の重要性が確認された

 


 

 月刊アームズマガジン12月号では、オリエントシールドの模様を本誌でのみ掲載の写真を交えつつ詳細にレポートしている。下記リンクから購入できるので、ぜひ手に取ってみてほしい。

 

Text & Photos : 笹川英夫
取材協力:陸上自衛隊 西部方面隊、在日米陸軍

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年12月号 P.50~59をもとに再編集したものです。

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