ミリタリー

2022/11/12

【取材レポート】環太平洋合同演習 リムパック


世界最大規模の演習を見た!

 

 軍事演習「リムパック(RIMPAC)」は、今回で28回目となる歴史ある訓練であり、参加国は26カ国を数えた。もともとはソ連海軍の太平洋進出を防ぐことを目的に、米海軍の呼びかけで太平洋に面した国々の海軍が集まって訓練をしたのがはじまりで、回を追うごとに統合運用化が進み、陸軍・海兵隊といった地上部隊による演習も本格化している。ここでは陸上訓練パートにクローズアップし、この演習を見ていこう。

 

世界最大規模の大演習~リムパック~

 

 毎偶数年にハワイ州を中心(一部カリフォルニア州)に開催されている環太平洋合同演習「リムパック(RIMPAC)」をご存じだろうか。名称は「Rim of the Pacific Exercise」の略で、世界最大規模を誇る多国間演習である。
 記念すべき第1回目が行なわれたのは、1971年のこと。まさに冷戦真っただ中、米ソ対立は3度目の世界大戦勃発の危険をはらんでいた。アメリカが恐れたのが、ソ連の太平洋進出だ。これを許してしまうと、ハワイから米本土西海岸までもが危険に晒される。そこで、環太平洋地域へと呼びかけ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスの5カ国で訓練を実施した。
 当初は毎年開催していく考えであったが、開催しなかった年もあり、最終的に現在の隔年開催で落ち着いた。日本も1980年より参加することになった。
 そして、2022年6月29日から8月4日までの約1カ月にわたり、第28回目となる「リムパック2022」が開催された。参加国は、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、コロンビア、デンマーク、エクアドル、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イスラエル、日本、マレーシア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ペルー、韓国、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、トンガ、イギリス、アメリカ(アルファベット順)の26カ国を数えた。参加人員はなんと約25,000名。そして、開催前の米海軍ホームページでは、水上艦及び潜水艦合わせて42隻が参加すると公表されていたが、最終的には46隻と増えている。航空機については約170機が参加した。
 もともとは海軍演習であったが、米軍は陸海空海兵隊、沿岸警備隊までもが参加するようになる。呼応するように陸上部隊を派遣する国が増えてきた。それは、今の軍隊が統合運用を基本としている表れでもあり、今回は9カ国が陸軍や海兵隊など陸上部隊を参加させている。日本もそのひとつで、海上自衛隊の護衛艦「いずも」「たかなみ」、P-1哨戒機に加えて、陸上自衛隊から第5地対艦ミサイル連隊が参加している。
 海軍演習のイメージが強い「リムパック」ではあるが、本誌では2回にわたり陸上訓練を主として見ていく。

 

西太平洋の海洋安全保障の中核として期待されるオーストラリア陸軍による着上陸訓練の様子。2隻の強襲揚陸艦キャンベラ級も配備し、着実に、水陸両用戦の強化を図っている。「リムパック2022」では、陸海空統合軍として参加

 

米海兵隊第462海兵大型ヘリコプター飛行隊(HMH462)のCH-53Eシースタリオンからヘリキャスティングにて海面に降下していくオーストラリア陸軍。その奥にはオーストラリア海軍強襲揚陸艦キャンベラの姿も見える

 

「リムパック2022」における水陸両用戦パートの中で、オーストラリア軍と韓国軍は指揮系統において、中心的役割を担った。さらに現場レベルでは、トンガ軍やマレーシア軍、スリランカ軍を取りまとめた

 

西太平洋の安全保障の核心~オーストラリア~


 これまでの「リムパック」では、対艦・対空・対潜訓練等、実弾射撃も含んだ各種訓練を行ない、最後はシナリオ演習を繰り広げ、参加国間の戦術技量の向上を図ってきた。こうして「リムパック」を通じ環太平洋安全保障の枠組み、そして絆を培っている。
 最大の特徴は、世界最大の軍隊である米軍から数々の戦術を学ぶことができることであり、海上自衛隊が発展した一翼を「リムパック」が担ってきたのは紛れもない事実だ。
 2010年以降中国が台頭してくると、日本南西諸島部の防衛強化を進めていくにあたり、島嶼防衛並びに水陸両用戦を強化する必要が出てきた。そこで、西部方面普通科連隊が創設されたが、着上陸のノウハウがない。そこで、日本は米海兵隊から学ぶ道を選んだ。
 そのひとつが「リムパック」であり、西部方面普通科連隊は2014年、2016年の「リムパック」に参加。こうした布石を経て、2018年の「リムパック2018」からは、同連隊を拡大改編した水陸機動団が参加。これにて、一応“卒業”。水機団が日本版海兵隊と呼ばれているのは伊達ではないとも言える。
 オーストラリア軍も同じだ。第1回目からのメンバーとして、「リムパック」を通じて磨き上げた。今度は陸軍力を高めたい。そこで、米海兵隊から学ぶ道を選んだ。アメリカ側からしても、オーストラリアにはぜひとも西太洋の安全保障の核心となってほしい。
 オーストラリア陸軍も水陸両用戦に力を入れるべく、西部方面普通科連隊のような豪版海兵隊を作ることにした。王立オーストラリア連隊の第2大隊を水陸両用戦専門部隊とするとともに、他にもいくつかの大隊の水陸両用戦能力を高めることとした。

 

激しい波に巻かれながらも前へと進むオーストラリア陸軍のゾディアックボート。時には写真のようにほぼ90度になるも、仲間同士で支え合いながら、耐えている。改めて着上陸戦には、戦う以外にも“海を制する”スキルが必要であることが理解できる

 

上陸後、速やかに海岸線を制圧。今回着上陸訓練を行なったのは、王立オーストラリア連隊の第2大隊。この大隊は水陸両用戦を専門とする

 

Text & Photos : 菊池雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年11月号 P.148~153をもとに再編集したものです。

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