2022/09/12
【特殊部隊】ユーロサトリで見たフランス国家憲兵隊治安介入部隊、GIGNの実力
GIGN
フランス国防省が開催するユーロサトリではフランス陸軍だけでなく、GIGNもデモンストレーションを行ない、最新の装備と訓練された技能を披露した。今回はその取材レポートを公開しよう。
GIGNの射撃技術
イギリスのSASと並び称されるフランス国家憲兵隊の特殊部隊GIGNでは、部隊全員が空挺降下の資格を持っているのが特徴のひとつだ。そうした事情から、GIPNやRAIDのような対テロ任務のほかに、軍のようにアフガニスタンやイラクへも展開している。ウクライナ危機のような事態が発生した際、GIGNに課せられる最大の任務は人質や民間人の救出となる。
今回、GIGNのデモンストレーションのシナリオは次のようなものだ。
フランスの民主主義の転覆を目論む某組織が過激な行動に転向した。海外での戦闘経験もある10人のテロリストが、ある農場に人質を取って立てこもり大統領の解任を要求。事態発生からすでに24時間が経過し、17時までに回答がなければ人質を15分ごとに1人ずつ殺害し、フランス国内で爆破テロを実行すると通告してきた。これを受けてGIGNがヘリで急行。情報収集の後、スナイパーを配置した。人質に危害が加えられたという報告を受け、突入の指示が飛ぶ。スナイパーが発砲し、同時に突入部隊が室内に突入する。解放された人質の1名が負傷するも、その場で応急処置が行なわれる。犯人のうち1人が爆弾を持って逃亡し、K9(警察犬部隊)が出動。逃走犯を取り押さえ爆弾が解除される。また、人質を取って車輌で逃走した別のグループも制圧され、状況が終了した。
ところで、突入の際発砲したスナイパーは観客席に配置されていたのだが、この時なんと実弾が使用された。筆者が撮影していた場所から数十センチ先を.308弾が通り抜けていったのだ。当然イヤーマフなどしておらず、“耳を塞いでください”というアナウンスこそあったものの、なにせ撮影中で両手が塞がっている。射撃の後はしっかり耳が聞こえなくなった。
日本人的感覚だとこうした場面で実弾を使用することには驚いてしまうが、これがGIGNという組織なのだ。というのも、GIGNは射撃を非常に重んじており、隊員は毎日50発の射撃を義務付けられている。ちなみに、フランスの一般警察官1人が年間に訓練で消費する実弾の数は13発といわれている。比べてみるとGIGNがどれほど射撃に重きを置いているかが窺えるだろう。
GIGNのメインウェポンはHK416。これはフランス軍が導入するより前に採用していた。様々なシチュエーションに合わせ、AK弾が使用できるCZ BREN2も採用されている。AK弾と同様の特徴を持つ.300ブラックアウトを使うくらいなら、どこにでもあるAK弾を使えばいいということだ。その他にもHK MP7やMP5と色々な装備を展示している。スナイパーライフルにはAI(アキュラシー・インターナショナル)を使用している。1挺50万円を超えるエイリアンピストルを60挺発注したGIGNだが、今回は使用せずグロックを使っていた。また、GIGNのシンボルであるマニューランMR73を持つ隊員は見られなかった。GIGNも新しい世代へと移り、伝説の存在となってしまったようだ。
次回のレポートはRAID、フランス国家警察特別介入部隊についての取材レポートを公開する。フランスの特殊部隊に興味がある方は引き続きご覧いただければ幸いだ。
Photo & Text:櫻井朋成(Tomonari Sakurai)
この記事は月刊アームズマガジン2022年9月号 P.202~209をもとに再編集したものです。