2022/12/09
戦闘経験を基に堅実な設計で作り出された「K2」【無可動実銃ミュージアム】
この1挺は戦うために作られてきた本物の銃だ。数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
さあ、今回も無可動実銃のことを語ろう……。
戦闘経験から生まれたアジア版のM16
韓国が開発したK2自動小銃はM16A1を原型にしたオリジナルモデルである。そもそも韓国軍は朝鮮戦争勃発後にアメリカ軍の全面的な援助を受けており、その装備は一世代前のアメリカ軍そのものであった。朝鮮戦争休戦後に国内の製造工業が復興すると、国防のための安定した戦力保持を目的とした銃器製造計画が立案され、それに基づいて開発されたのがK2ライフルである。1968年に当時最新であったM16A1を配備した韓国軍はこれを国内にてライセンス生産したが、契約終了により必要数を獲得できなかった。そこでM16A1のライセンス生産で経験を積んだ大宇精工がノウハウと設備を導入して国産銃の開発を始めた。それまで旧日本軍やアメリカ軍の銃器を製造し続けた韓国にとって初の自国産ライフルであるK2ライフルは、多くの戦闘経験を基に作り出した1挺なのだ。
K2 自動小銃(#k000789)
- 全長:730mm/980mm(ストック展開時)
- 口径:5.56mm×45
- 装弾数:30発
- 価格:¥363,000
K2と89式は何故似たか
アジア圏におけるK2と同時代の小銃に、日本の89式小銃がある。両者ともにM16の影響を強く受けた設計や、コルトのパテントに触れないようにしたガスピストン式の発射機構を用いるなど似た作りのものとなっている。コルトとの間で訴訟問題が発生することからM16をコピーしたくてもできない状況の答えは、日本がライセンス契約していたAR18と同一であった。
加えて韓国軍はベトナム戦争にも参加しておりM16の問題点についても把握していたと考えられる。兵士レベルでの定期的なメンテナンスが必須のM16では、ベトナムで多発した不具合が起こる可能性も高い。韓国にとって想定される敵が使用するAKはロングストロークピストン式で故障が少なく確実に作動するため、対抗してK2にもガスピストン方式が用いられた。多くの改良を施したK2にM16A1の操作性を残したのは制式採用銃の変更によって起こる混乱や、予備役を投入した際の再教育の手間を省きたかったからだろう。敵国との休戦状態という特異な状況により、あらゆる面で合理的な設計が求められたはずだ。
その一つの例が弾薬だ。K2ライフルの弾薬は現行のM855弾ではなくひとつ前のM193弾を使用する。開発時期を考えれば新型のM855弾も可能であったろうが、休戦状態では即補給ができ、国内に弾薬製造ラインを持つM193弾の方が現実的であったのだ。コスト面でも武器輸出禁止の規制がない韓国では、輸出を含めた大量生産によるコストダウンにより、ライセンス料が発生していたM16A1より安価に製造している
セレクターが360度回転式であるなど、使いやすいとは言い難い部分もあるが、徴兵制で常に新兵を迎える韓国らしい、誤操作を許さない実戦的な設計ともいえる。
日本と韓国の両者では防衛の目的に差があるが、必要とする銃の結果が似ていたのは興味深いところだ。2022年現在でもK2は改良を加えられながら使用し続けられるようだ。この先の進化が89式と比べてどのようになるか楽しみである。
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この記事は月刊アームズマガジン2022年11月号 P.198~P.199をもとに再編集したものです。