実銃

2022/07/31

数奇な経緯を持ち競争に勝利した「Gew.3 FS 自動小銃」【無可動実銃ミュージアム】

 

 この1挺は戦うために作られてきた本物の銃だ。数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。さあ、今回も無可動実銃のことを語ろう……。

 今回紹介するのは、ドイツで誕生した数奇な経緯を持つ「Gew.3 FS自動小銃」だ。

 

 

流転の果てにドイツに凱旋

 

 G3ライフルは数奇な経緯を持ってドイツで誕生した銃だ。ベースとなったのは第二次世界大戦末期にモーゼルが開発したローラー遅延式ブローバック機構を装備したStG45である。

 

「ステアーAUG A3」【無可動実銃ミュージアム】

 

Gew.3 FS 自動小銃(EN製 ドイツプルーフ刻印 #17T518)

  • 全長:1,020mm
  • 口径:7.62mm×51
  • 装弾数:20発
  • 価格:¥407,000

 

 ローラー遅延ブローバックはStG45の開発時に偶然生まれたもので大戦中に完成することはなかった。だが終戦後に技術者の一部がフランスのミュルーズ兵器研究所とスペインのセトメに渡り研究を続けローラー遅延ブローバック方式を完成させた。冷戦時の西ドイツではFALの国産化がベルギーによって拒否され、代替案としてセトメライフルの国内製造を開始した。製造はラインメタル社に委託されたが、小口径の銃器に不慣れであったため、事業から撤退。製造を引き継いだのが旧モーゼルの社員が立ち上げたH&K社であった。ドイツで原型が生まれながらも敗戦によって道が閉ざされたG3は、国外での開発と外国製銃器のライセンス拒否が偶然重なったことで完成したバトルライフルなのだ。

 

H&Kタイプの銃器でSMGからLMGまで統一されたレシーバー。その元祖がG3だ。マガジンハウジング部にあるENの刻印はイギリスのエンフィールドで組み立てが行なわれたノックダウン生産の印である

 

マガジンに表面に並んだ小さなリブは、一説によるとFALのマガジンと間違えないようにするための識別用のものだと言われている

 

世界中で好評を得た理由

 

 1960年代に誕生したG3は同年代に活躍していたAKやFALとライバル関係にあった。AKは想定される敵対勢力の武器でもあったことから、G3はAKに対して性能面で劣ることがないように優れた作動性と高い命中精度を持つように設計された。もう1挺のライバルであったFALはこの時代のバトルライフルとしてもっとも成功した銃であり、G3は後追いの対抗馬であった。冷戦時では世界中で紛争が勃発し、銃器の需要が高まっていたが、西ドイツの武器輸出禁止法の影響によりG3はFALに市場競争で勝つことができなかった。そこでパーツを海外に輸出し、他国で組み立てを行なうことでドイツ産ではないG3を製造。これを合法的に世界中へ輸出していった。輸出されたG3は世界中で好評を博し、多くのユーザーが買い求めるようになっていった。このG3の人気にはいくつかの理由があり、そのうちのひとつとしてはライバルのFALがフルオート射撃時に性能低下を起こすというものがあった。対してG3のローラー遅延ブローバック機構、フリーフローティングバレルはフルオート射撃時でも高い精度が出せた。また製造が簡単で安価なことから40年間で合計50カ国以上が採用し、総生産数は500万挺ともいわれFALの一人勝ちに水を差した。

 

銃剣はフロントサイト下部のキャップを外して装着するためバレルへの負荷が少なく、命中精度への影響が少ない

 

ハンドガードの下部のスリットはオプションのバイポットを収めるためのもの。G3の拡張性を反映させたものだ

 

フィンガーグルーブの付いたターゲットグリップを他のライフルより先駆けて取り入れたのも好評を得た要因だ

 

バトルライフル競争の勝者


 G3の長所は時代が進むごとに強みを 増していく。ユニットごとの生産方式と最大の武器であるローラー遅延ブローバック機構をSMGからLMGまで幅広い機種で採用することによって、高い命中率を誇るG3ファミリーを形成し、多様なジャンルでライバル達を蹴落としていった。1960年代から大きな改修を受けずに2019年まで軍隊で生き残った銃器はG3だけであり、 同時代に開発され たライフルはアップグレードされたと しても最前線からは退いている。最終的に勝ちを収めたG3はこれからも伝説を刻み続けていくであろう。

 

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TEXT:IRON SIGHT/アームズマガジンウェブ編集部
撮影協力:ビレッジワン(千葉県四街道市吉岡)

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年9月号 P.218~219をもとに再編集したものです。

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