2026年2月号

2026/01/14

無可動実銃に見る20世紀の小火器203 ヘッケラー&コッホMP5A2 1976年製

▲フロントサイトフードはフロントポストサイトを保護する機能と共に、視認性を高める機能がある。
リアサイトはロテイティングディオプタードラムタイプで、4個の径の異なるサークルアパーチャー(ピープ)サイトが備わっている。通常、径の大きなサイトは近距離で素早くターゲットを捉える時に使用し、径の小さなサイトは、遠距離からより正確に射撃する際に用いる。このドラムタイプリアサイトはサークルアパーチャーではなく、大きさの異なるスクエアノッチが4つ備わったタイプも選択可能だ。スクエアノッチはより素早くサイトでターゲットを捉えることに優れ、サークルアパーチャーは正確な射撃に適している。

 

 HK54はG3をほぼそのまま縮小、7.62×51mmを9×19mm仕様にしたものだ。ローラーディレイドブローバックメカニズムの作動原理はそのままだし、ロアレシーバーの構造もサイズが異なるだけで同じとなっている。フルパワーライフルカートリッジとピストルカートリッジで、そのガス圧は大幅に異なるため、ブリーチフェイスとローラー部の設計は変更されているが、作動原理は全く同じなので、その設計は比較的容易だっただろう。
 ヘッケラー&コッホが目指したサブマシンガンは、当時としては画期的なものだった。第二次大戦で注目を集め、各国が戦時中に大量生産したサブマシンガンは、シンプルさと量産性を追い求めた結果、粗雑な近距離用銃弾バラマキ装置のようになっていった。戦争が終結し、それは少し見直されたものの、依然としてシンプルな低価格銃であることには変わりがなかった。オープンボルトで作動するが故、高い射撃精度は期待できない。
 ヘッケラー&コッホは全く違ったアプローチで、ピストル弾を撃つコンパクトライフルとしてサブマシンガンを捉えた。射撃精度を重視した結果、クローズドボルト作動とし、これにフルオートマチック機能を追加したものだ。当然価格は高くなる。
 同時期、ワルサーでもサブマシンガンの開発がおこなわれた。ワルサーは第二次大戦後、軍用ライフルの開発をほぼ封印し、スポーツ用ライフルとピストルに特化する方向に転じていた。西ドイツ連邦軍がサービスピストルとして、P.38の戦後型をP1として採用し、これを生産納入しているため、軍用銃の生産をおこなわないという姿勢ではない。ワルサーはワルサーなりのポリシーに基づき、その製品展開分野を決めていたのだろう。その中で警察用サブマシンガンは挑戦すべき製品だと判断したようだ。
 ワルサーの開発したサブマシンガンは、プレス加工レシーバーを持ち、オープンボルトファイアリングのセミフルセレクティブファイアで、サイドスイング式の折り畳みストックを持っている。1960年代のサブマシンガンとしてはオーソドックスにまとめ上げた製品だ。コンセプトは通常のサブマシンガンの流れから逸脱していない。ロングバレル仕様はMPL、ショートバレル仕様がMPKと名付けられている。

 

▲当初マガジンはストレートのボックスマガジンだったが、稀に弾詰まりを起こすことから60年代後半にやや湾曲した改良型カーブドマガジンが登場、その後にこれが標準となった。但し、70年代になってもストレートマガジン付きで供給されたものもあり、マガジンの仕様変更は緩やかにおこなわれたようだ。

 

▲A2のフィクスドストックは剛性が高く、射撃時の頬付けが快適で、正確な射撃をおこなう上では有利だ。いわゆるcheek weld(チークウェルド:頬をストックに密着させること)に優れている。リトラクタブルストックのA3の方がコンパクトで機能的ではあるが、射撃に特化して考えるとA2という選択もあり得る。

 

連邦国境警備隊による採用

 1966年、連邦国境警備隊と各州警察は、合同で新たなサブマシンガンの選定のためのトライアルをおこない、HK54の改良型にMP5のテスト名を与えた。ヘッケラー&コッホは、これをそのまま製品名とし、固定ストックモデルをMP5A2、リトラクタブルストックモデルをMP5A3とした。
 ドイツの警察組織は州単位で独立した組織であり、トライアルをおこなっても、1つの銃で統一することはあまりない。このトライアルでは、ワルサー、ヘッケラー&コッホのいずれもが合格し、連邦国境警備隊はMP5を1966年6月末に採用を決定、各州警察はいずれかの製品を独自の判断で購入した。
 実際のところ、州警察が採用したものは、高価なMP5ではなく、比較的安価なワルサーMPL, MPKが圧倒的に多かった。西ドイツ連邦軍もごく少数のMP5を採用したが、それは特殊用途用に過ぎない。主力サブマシンガンは依然としてMP2, およびMP2A1(UZI)だ。
 アサルトライフルを小型化したデザインを持ち、ローラーディレイドブローバックでクローズドボルトから射撃をおこなうMP5は高価であったため、その販売実績は決して芳しいものではなかった。それでもヘッケラー&コッホはMP5のバリエーションを拡大させていく。
 前述のMP5A2, A3の他、A4は固定ストックモデルで3ショットバースト機能を追加したもの、A5はリトラクタブルストックの3ショットバースト機能追加モデルだ。この他にもインテグラルサプレッサーを装着したSD仕様が1974年、ショートバレルとストック無しの組み合わせによるK仕様も1976年に加わっている。
 ヘッケラー&コッホがMP5のバリエーションを充実させていっても、高価なサブマシンガンに対する需要は限定的だった。しかし、そんなMP5に大きな転機が訪れる。
それが1977年10月13日、乗員5名、乗客84名が乗るルフトハンザ航空ボーイング737が、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)のテロリスト4名によってハイジャックされた“ルフトハンザ航空ハイジャック事件”だ。これに対し、10月18日午前2時、西ドイツGSG9(Grenzschutzgruppe 9 、グレンツシュッツ・グルッペ・ノイン:連邦国境警備隊第9グループ)は人質救出作戦“Operation Feuerzauber” (Operation Fire Magic)を実行した。

 ここでGSG9によって使用されたMP5が大きな成果を挙げる。この作戦ではひとりの犠牲者を出すことなく、人質全員を救出したのだ。それはヘッケラー&コッホが目指した高精度コンパクトライフルMP5を用いたからこそ得られた勝利だった。この事件で、MP5は一躍有名になり、サブマシンガンの市場を大きく塗り替えていくことになる。
 ここから先のMP5の歴史については、G3と同様、いずれ別の場所、別の機会で解説したい。

▲MP5の基本形が完成したのが1966年だ。今年はそれから60年となる。細部を見ていくと古さを感じる要素はあるが(たとえ近年製造された製品であっても)、MP5はサブマシンガンの在り方を変えた傑作であり、この銃が持っている魅力はまだ色褪せてはいない。

 

 13年11カ月 166回の“無可動実銃に見る20世紀の小火器”をご愛読頂き、誠にありがとうございました。心より御礼申し上げます。
 また別の場所でお会いしましょう。

 

ヘッケラー&コッホMP5A2
全長:710mm
銃身長:225mm
重量:2.54㎏(マガジンなし:無可動実銃化加工前)
作動方式:ローラーディレイドブローバック、クローズドボルト
撃発方式:ハンマーファイアード セミフルセレクティブファイア
使用弾:9×19mm
マガジン装弾数:30発

無可動実銃
¥550,000(税込)

 

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Text by Satoshi Matsuo

 

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