2023年2月号

2025/07/23

コルト モデル1877 ライトニングリボルバー Part 3 ダブルアクションとシリンダーストップ

 

シリンダーストップ

 ほとんどのリボルバーは、弾薬を装填するシリンダーの側面にシリンダーを射撃位置に固定するためのシリンダーストップノッチを装備している。しかし、ライトニングリボルバーのシリンダー側面を見ると、どこにもシリンダーストップノッチがない。ライトニングリボルバーといえどもシリンダーを射撃位置に固定するためのシリンダーストップとそれを受け止めるシリンダーストップノッチは当然必要だ。
 ではどこにシリンダーストップノッチがあるかというと、外部から見えないシリンダー後面に設定された。シリンダーのチャンバーとチャンバーの間の外周に近い部分にシリンダーストップノッチが切られている。
 外部デザイン的にはすっきりしているが、ライトニングリボルバーのシリンダーストップノッチは大きな欠点を抱えていた。シングルアクションでハンマーを指でコックする場合、通常はシリンダーの回転モーメントが限定的になる。つまりシリンダーの回転速度はファンニング射撃などしない限り、かなり遅い。それに対し、ダブルアクションで使用しなければならない緊急の場合、トリガーが最大速度で引かれ、それに従いシリンダーの回転速度が上昇する。そのためシリンダーストップをシリンダーストップノッチが受け損なってシリンダーを所定の位置に固定できないというトラブルにつながる。すなわち不発だ。
 この事故を防止するため、通常のシリンダー側面にシリンダーストップノッチを設定してあるリボルバーでは、確実にシリンダーストップをシリンダーストップノッチでキャッチするための傾斜をもったリード部を設けている。しかし、シリンダーストップノッチをシリンダーの後面に設定したライトニングリボルバーでは、シリンダーの後面にこのリード部を設けるスペースが確保できず、単に角型のシリンダーストップノッチのみが切られているだけだ。おそらくコルトの製造組み立て担当者は、シリンダーが毎回確実に定位置でストップするよう調整することにかなり苦労をしたことと思う。

 

▲ライトニングのシリンダーストップと、シリンダー後面に切られたシリンダーストップノッチ。
▲ライトニングに組み込まれたシリンダーストップ


 なぜシリンダーストップノッチをシリンダーの後面に設定したのだろうか。リポーターの考えでは、その理由はおそらくダブルアクションのトリガープルに関係していると推測している。ライトニングリボルバーがベースにしたSAAリボルバーのシリンダーストップメカニズムは、歴代のコルトパーカッションリボルバーで長い経験をもった信頼性の高いものだった。これをそのままライトニングリボルバーに組み込めば問題がないように思える。だがそうはいかない事情が、おそらくダブルアクションの長いトリガープルにあったと考えている。
 SAAリボルバーのシリンダーストップメカニズムは、ハンマーによって作動させる。ハンマー軸からもっとも長い距離にあるハンマースパーを指でコックするシングルアクションでは、ハンマーをコックする際にシリンダーストップスプリングのテンション負荷が追加されてもさほど問題がなかった。しかし、ハンマーをコックさせるための長いトリガープルが必要なダブルアクションではそういうわけにはいかない。ハンマー軸に近い位置で機械的にハンマーをコックさせなくてはならないダブルアクションでは、ハンマーをコックする際にかかるハンマースプリングのテンションがより大きくなり、これ以外のスプリングテンション負荷は避けなくてはならない。そうしないとトリガープルが重くなりすぎ、長いトリガープル距離が加わることで命中精度を低下させる可能性が高くなる。かつてサミュエル・コルトがダブルアクションの欠点として指摘した問題だ。
 そこでライトニングリボルバーでは、信頼性が高かったハンマーによって作動させるSAAリボルバーのシリンダーストップメカニズムをやめ、新たにトリガーによって作動させるシリンダーストップメカニズムに切り替えた。これが、シリンダーの後面にシリンダーストップノッチを設定した理由だったと考えられる。同時にハンマーに装備されていたシリンダーを回転させるハンドも、ハンマーをコックする際の負荷を減少させるためにトリガーで作動させる方式に変更された。
 ウィリアム・メイソンはライトニングに先行してシングルアクション撃発メカニズムを組み込んだ中型のコルト ニューラインリボルバー開発している。このニューラインリボルバーは、シリンダー後面を利用したシリンダーストップメカニズムを採用していた。シングルアクションながら、ニューラインリボルバーでそれなりの成功を収めたことが、メイソンにライトニングリボルバーでも同じシリンダー後面を利用したシリンダーストップメカニズムを採用する気にさせたのだろう。
 シリンダーストップやハンドを、ハンマーでなくトリガーで作動させる方向性は正しかった。現代ダブルアクションリボルバーのほとんどが、トリガーでシリンダーストップメカニズムやハンドを作動させていることがそれを証明している。
 しかし、シリンダー後面にシリンダーストップノッチを設定したことは明らかに失敗だった。シリンダー後面で利用できる面積は少なく、シリンダーノッチのリード部を設けることが難しい。これがシリンダーストップの作動を不確実なものにした。加えてシリンダーストップノッチの左右には、装填された弾薬の薬莢リムが突き出してシリンダーストップの突き出しを阻害し、作動を不確実なものにしている。まさに二重苦のシリンダーストップといえる。
 シリンダー後面のシリンダーストップノッチ設定が失敗であったことは、この方式のシリンダーストップメカニズムを組み込んだコルト社のダブルアクションリボルバーがごく短い期間の1877年から1889年の間に設計された3機種に限定されていることからも明らかだ。その3機種とは、ライトニングリボルバー(1877年)、フロンティアダブルアクションリボルバー(1878年)、ネービーダブルアクションリボルバー(1889年)だ。1892年に発表されたニューアーミー&ネービーリボルバーからは、再びシリンダーストップノッチをシリンダー側面に設定する方式に切り替えられた。

 

GP Web Editor修正補足:
 この赤く色付けした部分の記述は間違っています。一連のライトニングシリーズが採用した、シリンダー後面にシリンダーストップノッチを設けるデザインは、1878年のフロンティアダブルアクションモデル1878ではもう用いられなくなりました。
 確かにフロンティアダブルアクションにもシリンダー側面(曲面部分)にシリンダーストップノッチはありません。フロンティアダブルアクションモデル1878では、シリンダーハンドの横にシリンダーのラチェット部分に食い込むボルトがあり、これがシリンダーの回転を止めるのです。しかし、これもうまく機能しなかったようで、シリアルナンバー6000以降は、ラチェットロックのためのパーツがローディングゲート内側に追加されました。
 このフロンティアダブルアクションモデル1878のシリンダーを止める構造については、2013年に読者からの質問という形で話題になり、Turkさんがガンショップで現物を確認すると共に、またトルネード吉田さんからの情報を含めて、誌面でご紹介した経緯があります。
いずれにしても、
“この方式のシリンダーストップメカニズムを組み込んだコルト社のダブルアクションリボルバーがごく短い期間の1877年から1889年の間に設計された3機種に限定されている”
 という記述は間違いで、“コルト ニューラインリボルバーとライトニングシリーズだけで使用したメカニズム”ということが正解です。
 謹んで修正させて頂きます。
 さらに言えば、ウィリアム・メイスンがシリンダーストップノッチを、シリンダーの側面に配置するのを止めて、シリンダー後面に配置した理由については別の考え方もあります。シリンダー側面にシリンダーストップノッチを配置すると、その部分のシリンダー肉厚が薄くなってしまい、シリンダーの強度が低下します。ウィリアム・メイスンはそれを避けようとニューラインリボルバーでシリンダー後面にノッチを配置し、ライトニングリボルバーでもそれを踏襲したと考えることもできます。

 

 ライトニングリボルバーのメカニズムに関して、リポーターはかなり厳しい指摘をした。だが、それら欠点を抱えていることを考慮しても ライトニングリボルバーはその優美とも言える外見で、リポーターの好きなリボルバーのひとつであることに変わりはない。
 歴史に“If”(もし)は禁句だ。しかし、もし、コルト ライトニングリボルバーがその外見を保ちつつ、より近代的なダブルアクションメカニズムを組み込み、シリンダーストップノッチをシリンダーの側面に設定してあったなら、おそらくもっと人気が出て長い期間生産されたであろうことに疑いはない。

 

 

Text by Masami Tokoi  床井雅美
Photos by Terushi Jimbo 神保照史

 

Gun Professionals   2023年2月号掲載

 

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