2025/07/13
コルト モデル1877 ライトニングリボルバー Part 1 ダブルアクションリボルバー開発経緯
Text by Masami Tokoi 床井雅美 Photos by Terushi Jimbo 神保照史
2023年2月号掲載 再編集
コルト モデル1877ライトニングについて詳しく分析したリポートは、Gun Pro誌2023年2月号に掲載したものしか現時点では存在しない。この魅力的なリボルバーについて多くの方々に知って頂くべく、あのレポート全文を7回に分割してWeb掲載させていただくことにした。今回はその1回目、“ダブルアクションリボルバー開発経緯”についてだ。
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何故ライトニングなのか
リポーターにはずっと気になっているリボルバーがある。そのリボルバーは特徴的なシルエットを備えており、リポーターの好きなリボルバーのひとつでもある。
そのリボルバーとは、コルト モデル1877、別名ライトニングリボルバーだ。
アメリカ開拓期、南北戦争、そしてワイルドウエストと呼ばれるアメリカ西部で使用されたビンテージガン(歴史的銃器)の多くは、現在の技術で再現されたレプリカモデルが供給されるようになっている。コルト社の第一期製品のパターソンリボルバーや、大型のウォーカーリボルバーなど、ほとんどすべてのコルト社製パーカッションリボルバーはもちろん、マイナーなルマット リボルバーやロジャー&スペンサー リボルバーまで幅広い機種のレプリカモデルが製造されている。レプリカといってもモデルガンやエアソフトガンの事ではない。すべて実弾発射機能を持つ実銃だ。
アメリカでカウボーイ アクションシューティングがスポーツとして始まると、その種類はさらに増え、近代的な金属薬莢弾薬を使用可能なビンテージガンが多数加わった。しかし、誰もがその名前を知っているにもかかわらず、レプリカが製造されていないリボルバーも存在する。それがコルト モデル1877、別名ライトニングリボルバーだ。
もう10年以上も前になるが、アメリカのSHOT SHOWで、このコルト モデル1877のレプリカ生産を発表したアメリカのマイナーメーカーがあった。ブースには試作されたメインフレームのサンプルも展示されていた。しかし、このレプリカ生産計画は挫折し、けっきょく製品化されることはなかった。
ラスベガスでSHOT SHOWと毎年同時期におこなわれるアンティークアームズショーで、アメリカのミニチュアガンメーカーの人と交わした会話が思い出される。会話は製作し難いミニチュアガンの話になった。彼の発した、「一番製作し難いミニチュアガンは何だと思う?」との質問に、リポーターが「コルト ライトニングリボルバーではなかろうか」と即答すると、えらく感心された。彼の製作してきた経験から、ミニチュアガンとしてもっとも製作し難いのは、ボーチャードピストルでもルガーピストルでもなく、ライトニングリボルバーだったという。彼は、それまでにライトニングリボルバーを1挺だけ製作したことがあったものの、その時、あまりにも大変だったため、その後製作したことがないと言っていた。
黎明期のダブルアクションメカニズムを組み込んだライトニングリボルバーは、ビンテージガンを修理、整備するレストレーションエンジニア泣かせのリボルバーとしても有名だ。レストレーションが難しい理由は、その構造の複雑さ、そして構成部品の一部の作り難いデザイン、加えて作動調整の困難さから来ている。
そのため、近代的なNCマシンを組み合わせたマシニングセンターを備えて全自動生産をおこなっているUberti(ウベルティ)社さえもライトニングリボルバーのレプリカ生産に踏み切れず、いまだにレプリカが出現しないのだ。
2022年末に発売する2023年2月号は“One of my favorite guns”(お気に入りの1挺)を特集したいと松尾副編集長から連絡がきた。彼はリポーターがドイツの軍用銃のどれかを選ぶだろうと予測したそうだが、“それならライトニングをやろう”ということになった。こういう機会でもない限り、この銃について徹底分析することはない。今どきコルト ライトニングリボルバーの詳しいリポートを載せるような雑誌は、Gun Proだけだろう。そもそもこの銃について、詳しく分析した書籍は海外を含めても存在しない。
今となってはどうでもよいといえる過去の遺物がライトニングだが、歴史的には大いに価値がある。このような銃にもフォーカスを当ててこそ、真の銃器専門誌たり得ると思うのだ。

コルト ライトニング リボルバーの名称
リポートを書き進める前に、このリボルバーの名称について説明したい。一般にコルト ライトニングリボルバー(.38口径)とコルト サンダラーリボルバー(.41口径)、あるいはコルト モデル1877ダブルアクションリボルバーの名前でこの銃は呼称されている。
しかし、これらの名前はメーカーであるColt's Patent Firearms Co.(コルト)が名付けたオフィシャルな製品名ではない。1877年1月にコルトがその発売を一般に発表した際に付けた製品名は、” New Double Action, Self Cocking, Central Fire, Six Shot Revolver”だった。日本語に訳せば、新型ダブルアクション、(ハンマー)自動コッキング、センターファイア6連発リボルバーとなり、このリボルバーが備えている性能を単に羅列しただけの製品名であった。
では誰がこのリボルバーに現在の通り名となっているライトニング(Lightning:稲妻)リボルバーやサンダラー(Thunderer:雷)リボルバーのニックネームをつけたのだろうか。
このニックネームの命名者は、このリボルバーの発売当時、シンシナティに本拠を置いていたコルト製品の大手有力代理店B. Kittredge Co.(B・キットレッジ&Co.)の社長であるBenjamin Kittredge (ベンジャミン・キットレッジ)だった。
彼は代理店業務の中で、販売を向上させるためには、まず顧客にその製品名を記憶してもらうことが重要だということをよく理解していた。コルトの新製品のサンプルリボルバーを見せられたB・キットレッジは、性能を並べただけの製品名では顧客に強い印象を与えず、記憶に残りにくいと考えた。
この新型リボルバーを提示された彼は、その特徴として、このリボルバーが従来のシングルアクションリボルバー、とくにコルトのベストセラーとなっていたシングルアクションアーミーリボルバー(通称ピースメーカー)に比べて、ダブルアクショントリガーを装備することで即応性と素早い連射性能、そして軽量さで勝っていることが特徴であると理解した。
販売促進のために顧客に覚えやすく、しかもリボルバーの性能を印象づける製品ニックネームとして、彼が選んだのが素早さをイメージできるLightning (ライトニング:稲妻)という単語だった。そしてライトニングの製品ニックネームには、軽量(ライト)もかけている。彼は.38口径モデルにこの製品ニックネームを付け、.41口径のものには雷つながりのThunderer (サンダラー:雷)の製品ニックネームを付けた。
ライトニングリボルバーやサンダラーリボルバーのコルト社による発売告知は1877年1月におこなわれたが、実際の製品供給は1877年4-5月からとなった。B・キットレッジ&Co.は1877年5月にこれらの製品ニックネームをつけて新型ダブルアクション コルトリボルバーの広告を始めている。
今回のリポートでは煩雑さと混乱を防ぐため、必要な場合を除きライトニングリボルバーとサンダラーリボルバーに分けず、どちらもライトニングリボルバーに統一して書き進めることにする。
もうひとつの通り名であるコルト モデル1877ダブルアクションリボルバーは、いまさら説明するまでもないが、この製品はその後にコルト社から数多くの改良型ダブルアクションリボルバーが発売されたため、それらと区別する目的で後年に付けられたものだ。
