2026/08/11
参加国が20か国にもなるフィリピンでの大規模演習「多国間合同軍事演習バリカタン26」Part.2
BALIKATAN 26
2026年4月20日から5月8日の間、ルソン島やパラワン島などフィリピン各所にて、多国間軍事演習「バリカタン26」が実施された。主催国であるアメリカ、フィリピンの他、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、フランス、日本など7か国が参加。オブザーバーを合わせると、20か国にもなる大規模演習だ。前回は日本が参加する訓練パートをご紹介したが、今回はその他国々の訓練と装備に注目していく。
南シナ海の脅威からパラワン島を守る
多国間軍事演習「バリカタン26」は、期間中実にさまざまな場所で、さまざまな訓練が行われていった。
その一つがパラワン島アポラワンで4月17日に行われた「Counter Landing Live Fire Ex」だ。日本語で訳すと「着上陸阻止射撃訓練」となる。
フィリピンは日本と同じ島国であり、四方を海で囲まれている。最も面積が大きく総人口の50パーセント以上が暮らすのが首都マニラのあるルソン島であるが、その他7,600個の島々で構成される。群島国家たる国土すべてを守るためには、相当数の装備や部隊、高度な戦術が必要となる。
南シナ海に面しているパラワン島は、特に重要な位置にある。南シナ海南部に位置する南沙諸島は領有権をめぐる争いが絶えない場所だ。その原因が、実効支配を進める中国にほかならず、もはや世界の脅威となっている。フィリピンも領有権を主張し、連日のように中国と小競り合いを続けている。
そんなパラワン島において行われたのが本訓練であり、米比の他、オーストラリアやニュージーランドが参加した。訓練場所は演習場ではなく、一般の人も立ち寄れる砂浜に各国軍が陣地を構築した。そしてそれぞれの陣地から、海上に浮かべたラジコン型の標的船や無人船舶を目標として、小銃火器で射撃をしていく。
最初に行われたのは迫りくる敵艦艇への攻撃を想定したもので、米海兵隊のHIMARSが実施した。これはウクライナ戦争でもおなじみの高機動ロケット砲であり、High Mobility Artillery Rocket Systemを略して、HIMARSとしているが、正式な装備名はM142だ。C-5やC-17などの輸送機でも運べるように、車体を小型化し、重量も25tと抑えた。その車体の上にミサイルランチャーが搭載されており、標準的な227mロケット弾であれば6発装填できる。今回は、砂浜の奥まった場所から射撃をしたため、車体自体を見ることはできなかったが、森の中から、次々とロケット弾が撃ち出され、そのまま水平線上に消えていく様子を確認することが出来た。
この攻撃を搔い潜ってきた敵上陸艦艇がいよいよ砂浜目前へと迫る。これに対し、砂浜の陣地から各国軍が迎え撃つ。小銃系の連射音の中にロケット弾や迫撃砲系の重い発射音が混ざる。前述の海上目標の周りにはいくつもの水柱が立ち、中には命中して半壊したものもあった。ラジコン型の標的船の1隻にも命中し、激しい炎を噴き上げていた。
こうした激しい攻撃にも関わらず、敵兵が次々と砂浜へと上陸を果たしたとの想定へ。今度は上陸した敵兵を模し、波打ち際に建てられた人型標的へと攻撃していく。かなり激しい射撃は20分近く続いていく。
こうした海上への射撃を支援したのが、フィリピン海兵隊のSURC(Small Unit Riverine Craft)だ。元は米海軍の河川部隊に配備されていた舟艇であり、2013年にフィリピン海兵隊へと6隻を供与したものだ。
すべての訓練が終わると、各部隊は砂浜に集結し、記念撮影タイムとなった。その場にタイガーストライプを着用した隊員たちの姿があった。彼らはフィリピン海軍特殊作戦コマンドNAVSOCOMに所属するフロッグマン(戦闘潜水員)だった。ルーツは1956年に創設された水中工作班UOTの7名(幹部1名、下士官6名)だ。以降、部隊は拡大していき、2005年にNAVSOGとなり、特殊部隊としての礎が築かれ、2020年にフィリピン海軍総司令部直轄のNAVSOCOMへと格上げされた。今回彼らがどのパートでどのような訓練を行っていたかは不明であるが、敵部隊の着上陸阻止のため、特殊部隊が重要な役割を担ったのは間違いない。
ドローンを含めた空の脅威に対する
ルソン島にあるザンバレス基地内では、4月26日から29日までの間、「IAMD(Integrated Air and Missile Defense)」訓練が行われた。これはドローンや敵のミサイルなど、空の脅威と戦うための訓練だ。4月28日が報道公開日となった。
基地内には、海に面した射場があり、そこに米海兵隊の近距離防空システムMADIS(マディス)が配置についた。JLTVをベースに対空ミサイル・スティンガーや対空機関砲などを搭載し、対空能力を高めた装備だ。
標的を務めたのは、不規則な軌道を繰り返しながらMADISの前を横切るマルチコプター型の小型ドローンだった。これに対し、30mm機関砲で射撃をしていくが、命中させるのは難しいようで、撃ち漏らしたドローンもいくつかあった。この他、固定翼型の標的機も飛行し、こちらはスティンガーで攻撃していく。
ウクライナ戦争の教訓もあり、世界各国軍では、IAMD対策を非常に重要なものであると考えるようになった。陸戦の王者と言われた戦車であっても、たった1機の小型ドローンにより壊滅なダメージを受けてしまうからだ。そこで、米比を中心に「バリカタン」という場を使い、IAMD対応を演練していった。
その中に航空自衛隊の姿もあった。それも基地防空用地対空誘導弾(基地防空用SAM)及びレーダーシステムを参加させた。これは、陸自が配備する11式短距離地対空誘導弾(短SAM)の空自版である。発射機自体は同じだが、陸自は3t半トラックベースであるのに対し、空自は高機動車ベースとしている。参加したのは築城基地(福岡県)に所在する第8航空団隷下の第8基地防空隊だ。射撃こそしなかったが、同発射機及び人員をザンバレス基地へと派遣し、一緒に訓練を行った。次回の「バリカタン」において、射撃を実施するのかもしれない。
バリカタン26を終え
すべての科目を消化し、「バリカタン26」は幕を閉じた。それからしばらく経った5月31日。シンガポールにて、「アジア安全保障会議シャングリア・ダイアログ」が行われ、小泉防衛大臣とテオロド比国防相は、地対艦ミサイルのフィリピンへの輸出実現に向けて協議を進めていくことを明らかにした。このミサイルこそが、「バリカタン26」にて射撃を行った88式地対艦誘導弾である(詳細はPart.1にて)。
これまでも日本はフィリピンに対し、海自の練習機TC-90や警戒管制レーダーを輸出してきた。TC-90については、2017年から2018年の間に5機が有償貸与され、その後無償譲渡された。来年度中にさらに1機を引き渡す予定がある。哨戒機を持たないフィリピン海軍は、このTC-90を洋上パトロールに使用している。
しかし南沙諸島を我が物顔で航行する中国海軍を警戒監視するためにはまだまだ不十分だ。
そこで、退役が迫る護衛艦「あぶくま」型をフィリピンへと輸出することもほぼ決まった。さらに、フィリピン陸軍は、16式機動戦闘車や10式戦車といった陸上装備にも関心を寄せており、今後はこれらが輸出される可能性も出てきた。
日本とフィリピンの安全保障上の関係は年々深まっている。そんな中で陸海空自衛隊は、今後も「バリカタン」へと参加していくことになるだろう。
日本にとっても重要な演習の一つとなっていく。
Text & Photos:菊池雅之
この記事は月刊アームズマガジン2026年9月号に掲載されたものです。
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