ミリタリー

2026/07/11

フィリピンを舞台に繰り広げられた「多国間合同軍事演習バリカタン26」Part.1

 

BALIKATAN 26

 

フィリピンで行われた軍事演習が世界の注目を集めた。それが、多国間合同軍事演習「バリカタン」だ。タガログ語で「協力する」という意味を持ち、毎年実施している訓練ではあるが、今回はこれまで以上に対中国を意識した訓練想定となっているのがその理由だ。初参加となった日本は、陸海空自衛隊から部隊を派遣した。緊迫の南シナ海を舞台に繰り広げられた巨大訓練を軍事フォトジャーナリストの菊池雅之が追った!

 

88式地対艦誘導弾の射撃シーン。北千歳駐屯地(北海道)に団本部を置く第1特科団の装備。フィリピンの実弾射撃は今回が初。フィリピン軍への売り込みも目的の一つとしてあったようで、「バリカタン26」終了後となる5月31日にシンガポールにて行われた「アジア安全保障会議シャングリア・ダイアログ」にて、フィリピンへの輸出実現に向けて協議を進めていくことを明らかにした

 

米海兵隊に新たに配備された地対艦ミサイルシステムNMESIS。Navy Marine Expeditionary Ship Interdiction Systemの略だ。NSM対艦ミサイルを2発搭載している

 

フィリピンを舞台とした多国間軍事演習

 

 2026年4月20日から5月8日の間、ルソン島やパラワン島などフィリピン各所にて、「バリカタン26」が実施された。今回は過去最大規模となり、米比の他、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、フランス、日本など7か国が参加。オブザーバーを合わせると、21か国にもなり、約17,000名の将兵が参加した。
 日本はこれまで研修という形で人員を派遣したことはあったが、今回初めて陸海空自衛隊から部隊を派遣した。参加人員は1400名を数え、主催国である米比に次ぐ規模での参加となった。
 今回で41回目を数える「バリカタン」であるが、もともと1981年より、米比共同訓練としてスタートした。当時はフィリピン国内に潜伏するイスラム過激派や武装共産主義勢力と戦うための対ゲリラ戦やテロ対処を想定したシナリオだった。中止した年もあるが、基本的に毎年実施していき、少しずつ規模を拡大。それに伴いオブザーバーも増えていく。2023年からは、オーストラリアが参加し、かつ対中国を想定したかのような南シナ海有事を念頭に入れた訓練へと変化。そこから「バリカタン」は、多国間軍事演習へと大きく舵を切った。今回はさらに踏み込んで、台湾有事を想定したかのような訓練内容となり、前述したように参加国は一気に増加。
 こうして「バリカタン」は、多国間軍事演習としては、歴史は浅いものの、世界に注目される存在となった。

 

88式地対艦誘導弾の後方に配置に着く米海兵隊のMADIS(黄土色の車両)。Marine Air Defense Integrated Systemの略であり、日本語では「海兵隊防空統合システム」と呼ばれる

 

射撃直後の88式地対艦誘導弾の発射筒のアップ。今回は2発を発射したので、2本の筒の蓋が外れている

 

射撃訓練終了後、射撃を行った日本、ともに展開した米、そして支援した豪、比の兵士たちによる記念撮影。中央には小泉進次郎防衛大臣や齋藤聡海上幕僚長の姿も見える

 

訓練を視察した小泉進次郎防衛大臣。「バリカタン26」の前にはインドネシアへ寄るなど、積極的に世界を巡っている

 

陸自が中心となった対艦攻撃

 

 期間中、実に様々な訓練が行われたが、まずは、ハイライトとなった5月6日にルソン島北部イロコス・ノルテ州パオアイの海岸にて行われた「JTF Maritime Strike(統合海上打撃)」訓練からご紹介したい。この訓練は、陸上から洋上の敵艦艇を攻撃するというシナリオに基づいた実弾射撃訓練となった。ルソン島の北側と言えば、台湾と海を隔てて接する場所。その台湾の南側には中国海軍が太平洋側へと抜ける重要な航路であるバシー海峡がある、そんな緊迫した場所だ。
 この訓練で中心となったのが日本だ。第1特科団の88式地対艦誘導弾による実弾射撃を行なった。88式地対艦誘導弾は、東西冷戦中の1988年に陸上から洋上の艦艇を攻撃するミサイルとして配備が開始された。射程は約100kmと長いのが特徴だ。陸自が配備する各種ミサイルの中では旧式の部類とはなるが、まだまだ現役である。フィリピンにて射撃をしたのはもちろん今回が初めてとなる。それも演習弾ではなく実弾での射撃であり、非常に珍しい機会となった。一つの筒の中に1発ずつミサイルが収容されており、1台につき最大6発を搭載可能だ。今回は2発の実弾が装填されていた。

 

丘陵の影になり、車体は見えなかったが、洋上の敵艦艇に対し、米陸軍のHIMMARSが連続してロケット弾を撃ち込んでいった

 

フィリピン陸軍の新配備アスコッド歩兵戦闘車。オーストリアとスペインが共同開発した装軌式の装甲車。ファミリー化を成し遂げ、写真は30mm機関砲を搭載した歩兵戦闘車バージョン

 

フィリピン陸軍では、M113装甲車の派生型を多種配備しており、その中で歩兵戦闘車として運用しているのがこのM113FSVだ


 今回“敵艦”を務めたのは、第2次世界大戦中に日本と戦った米海軍の掃海艇「ビジランス」だ。戦後フィリピン海軍へと供与され「ケソン」と名を変え2021年まで現役だった。さすがに寄る年波には勝てず退役し、標的艦となった。
 轟音とともに連続で発射された2発のミサイルは、約6分間飛翔し、約75km離れた「ケソン」に見事命中した。さらに米比加軍も戦闘機や艦艇から「ケソン」めがけてミサイルを発射した。こうして“敵艦” は海へと沈んだ—。
 なお、今回射撃はしなかったが、米海兵隊は最新の地対艦ミサイルシステムNMESIS(ネメシス)を展開させた。これは遠隔操縦による発射も可能なミサイルであり、2023年頃より配備が開始された最新兵器だ。JLTV(統合軽戦術車両)の車上に、ノルウェーが開発した対艦ミサイルNSMを搭載したもので、射程は約200kmと言われている。
 有事の際、自分たちのテリトリーにある島々へと輸送艦や輸送機を使って進出し、洋上を航行中の敵艦を攻撃して、米海軍の戦闘をアシストする、という米海兵隊の新しい戦術EABO(Expeditionary Advanced Based Operations)を遂行するために必要不可欠な装備だ。台湾有事の際も今回と同じように、ルソン島の北側にNMESISを配置に着けることになるのだろう。もちろん中国もただ黙ってやられるわけもなく、戦闘機や対地攻撃ミサイルなどで、NMESISを攻撃していくはず。そこで、NMESISを空から迫りくる脅威から守るのが、近距離防空システムMADIS(マディス)である。こちらもJLTVをベースに対空ミサイル・スティンガーや対空機関銃などを搭載したもの。NMESISとMADISは、一緒に行動するのが基本となっている。
 今回の訓練では、88式地対艦誘導弾の周辺にNMESISが展開し、その後方にMADISを置き、空に睨みを利かせていた。射撃訓練を視察するため、小泉進次郎防衛大臣も現地入りした。射撃終了後は、テオロド比国防相と一緒に部隊を激励し、隊員たちと記念撮影を行った。

 

米陸軍の最新型バギー。Infantry Squad Vehicleを略したISVが、そのまま名前となっている。ヘリでの吊り下げ、輸送機からのパラシュート降下なども可能な小型かつ軽量さがウリ。機動力も高い

 

取材位置からはかなり離れていたが、洋上では米陸軍のAH-64Eアパッチ・ガーディアンが海上の目標に対し、ヘルファイア・ミサイルを発射した

 

射撃陣地から移動する米陸軍兵士。ハワイ州・オアフ島に部隊を置く第25歩兵師団が参加した

 

米陸軍の高機動ロケット砲システムHIMMARS。High Mobility Artillery Rocket Systemを略し、名称として使われている。227mmロケット砲を最大6発搭載可能

 

分隊支援火器である5.56mm機関銃MINIMI(B)。これまで配備してきたMINIMIに代わり、新たにMINIMI Mk.3を配備。既存のMINIMIと区別するため“B” を付記した

 

浜辺に陣地を構築し、小銃での射撃をしていく米陸軍兵士

 

84mm無反動砲(B)をかまえる隊員。陸自では、84mm無反動砲として、スウェーデンで開発されたカールグスタフM2を配備してきたが、新たにM3を配備することになり、新型の名称を“B” 型とした

 

対着上陸阻止訓練

 

 話は前後するが、5月4日、ルソン島の北側にあるサンドデューンにて、「Counter Landing Live Fire Ex」(着上陸阻止実弾射撃)訓練が行われた。こちらは、敵部隊の着上陸を阻止することを想定した訓練であり、南シナ海側の海域で実施された。
 米陸軍や米海兵隊、フィリピン軍、オーストラリア軍とともに、日本から水陸機動団が参加した。これら各国軍が浜辺に布陣し、洋上から攻め入る敵に対して、ミサイルやロケット砲、小銃などの射撃訓練を行う。遠隔操縦式の無人小型艇や中国軍の水陸両用車である05式水陸両用歩兵戦闘車を模した標的が用意された。
 水陸機動団は日本版海兵隊と呼ばれており、敵に奪われた島嶼部を奪還する部隊として報じられることが多いが、こうして島を守る戦いも得意とするところ。今回は84mm無反動砲の最新バージョンである84mm無反動砲(B)こと、カールグスタフM3にて、敵艦艇を次々と攻撃していった。

 遠距離の目標を攻撃するため、米陸軍の高機動ロケット砲システムHIMMARS(ハイマース)が、浜辺よりも数百mほど奥まった場所から次々とロケット弾を撃ち込んでいった。さらに洋上では同じく米陸軍のAH-64Eアパッチ・ガーディアンがヘルファイア・ミサイルを射撃した。
 浜辺で射撃を行う兵士たちを火力支援したのは、フィリピン陸軍に新しく配備されたアスコッド歩兵戦闘車だ。30mm機関砲を搭載している。ちなみに、フィリピン陸軍では、このアスコッドに105mm砲を搭載したサブラ軽戦車も配備している。また、M113に76mmを搭載したM113FSVもいた。これは、ベルギー陸軍が配備していたM113A1B装甲車を購入し、M113A2相当へとアップデートし、フィリピン陸軍が配備してきた軽戦車であるFV101スコーピオンの砲塔を取り付けて、歩兵戦闘車としたもの。
 その間を縫うように、砂浜を自由自在に走り回っていたのが米陸軍の新型車両ISVだ。シボレー社のコロラドZR2をベースにGMディフェンス社が開発した9人乗りのバギーであり、武装や装甲はないが、機動力が高い。

 こうした多種多様な装備が見られるのも多国間軍事演習ならではだ。

 

中国の05式水陸両用歩兵戦闘車を模した目標。着上陸する前に、浜辺に布陣した各部隊が次々と攻撃を加えていく

 

複数の遠隔操縦式の小型舟艇が標的となった。基本的にこの目標の周辺を狙って攻撃をしていくが、中には命中してしまい炎上した船体もあった

 

日の丸を掲げて記念撮影を行う水陸機動団の隊員たち。今回は第2水陸機動連隊が主力となって訓練を繰り広げた

 

Text & Photos:菊池雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2026年8月号に掲載されたものです。

 

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