2019/07/06
5 Fegyver Kupa Lövész Egyesület [Tactical Shooting Eurocup]
欧州のプロフェッショナルが競うタクティカルシューティングコンペティション
中央ヨーロッパに位置するハンガリーで、政府主催のタクティカルシューティングコンペティション「5 Fegyver Kupa Lövész Egyesület」(英語表記ではTactical Shooting Eurocup)が開催された。会場には同国をはじめ周辺諸国のプロフェッショナルたちが集結。5種類の武器を使い分けての実戦的な射撃競技を戦った。
欧州のプロフェッショナルによる5種競技
ハンガリーで開催される「5 Fegyver Kupa Lövész Egyesület」は同国政府(国防省および内務省)が主催するタクティカルシューティングコンペティションで、今回で3回目を迎えた。このハンガリー語の大会名称は直訳すると「5ウェポンマッチ」で、ハンドガン、アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフル、そしてナイフによる5種の競技で構成される。
ブリーフィングでは競技の最小限の情報と使用可能弾数、リロード回数などを知らされる。ターゲットの位置などは競技が始まらないと分からない
スロバキア陸軍の兵士はチェコ・スロバキア時代以来のVz58を装備していた。マルチカム迷彩のチェストリグにはそのマガジンを差し込んでいる
中央ヨーロッパに位置するハンガリーは東西ヨーロッパ諸国からアクセスしやすく、こうした国際競技にはうってつけと言えるだろう。会場は首都ブダペストから車で2時間ほど、国立公園に隣接した自然豊かな美しい街、フェルシュータールカーニ(Felsőtárkány)にあるハンガリー警察の射欧州のプロフェッショナルによる5種競技撃場だ。ここは山間部らしく天候は不安定で、晴れていたかと思ったら突然大雨が降ったりする。地面がぬかるんだコンディションでは、シューターだけでなくレンジオフィサーも大変だったことだろう。
レンジオフィサー。2017年度大会時の赤いシャツを着ていた
参加者は自国ハンガリーをはじめスロバキア、ポーランド、ルーマニア、オーストリア、ドイツなどの近隣諸国からが中心。現役の軍人・警察官(特殊部隊も含む)に加え軍務経験のある民間警備員など、プロフェッショナルであることが参加の基本条件だ。実戦経験はないながら目を輝かせた若い兵士、一線から退きメタボ気味ながら射撃の腕は素晴らしいベテラン、さらにはハンガリーの対テロユニットTEKの隊員とさまざまで、彼らの会話を聞いていると「先週までバグダッドにいた」とか「アフリカから帰ってきたばかりだ」とか、ライバル同士プレッシャーをかけ合っていた。
実戦的な競技内容
使用銃は基本的にサービスウェポン(支給装備)だが、部隊によっては自前の装備が許されており、カスタムガンを持ちこんでいる参加者もいる。アサルトライフルはAK系とAR-15系で二分されていたのに対し、ハンドガンはグロックをはじめ、CZ 75 系、CZ P-10C、SIG P320、HSProductXDシリーズとさまざま。ガバ系が見られないのが、ヨーロッパらしい。
バリケード越しにSVDの射撃準備を始める。銃ごとに指定された穴から射撃をする必要はあるものの、このステージには屋根があるので雨が降ってもひと安心
このステージでは参加者全員が主催者により用意されたSVD狙撃銃、AKアサルトライフル、そしてXDピストルを使用する。イコールコンディションというわけだ
ショットガンのステージ。最初のターゲットをショットガンで撃った後、ハンドガンにスイッチ。ショットガンを保持しつつまず右手で撃ち、マグチェンジして左手で撃つ
スナイパータワーから3つのターゲットを狙う。ターゲットまでの距離は50mから300mと差があり、撃てる弾は3発まで。射撃後ラペリング降下し、隣のステージでピストル射撃となる。狙撃の後に敵と遭遇したというシナリオで、経験や技術の差が出やすい内容だ。写真では青空が出ているものの雨で地面がぬかるみ、コンディションは悪い
スナイパータワーから狙うのは人質をとったテロリストのターゲット。ターゲットは奥まった位置で暗くて見にくい。着弾位置に貼られたパッチから、人質に当ててしまったシューターがいたことも分かる
若いドイツ陸軍兵士が構えるのはSIGSSG3000 PATROLで、Vortex ViperHS-T 6-24×50スコープを搭載
この競技では基本的には正確さと速さを競うが、IPSCなどのいわゆるスポーツシューティングとは異なり実戦のシチュエーションに近いものが中心だ。使用弾数は500発をゆうに超える。
各チームともブリーフィングの時間は与えられるが、スポーツシューティングのようにステージを下見することはできず、ターゲットの数も知らされない。キルハウスのステージでは時間制限がない代わりにブービートラップやペナルティターゲットが混ぜ込まれ、クリアリングに神経を使うようなシーンも見られた。
5ウェポンと称する通り全員が異なる武器を使い分ける必要があるものの、各ステージに応じて参加者それぞれが得意とするスキルをいかに発揮できるかが勝利へのカギとなる。
以前ご紹介したスナイパーワールドカップもそうだったが、このように国が主催するタクティカルマッチは増えてきている。民間のマニアによるシューティングマッチもいいが、安全面などの制約から実戦的なステージを作れないのが実情で、こうしたプロフェッショナル主体のマッチの方が面白く思える。
なお、この「5 Fegyver Kupa Lövész Egyesület」には民間人の参加枠も若干あり、中にはトレーニングを積みプロに引けを取らない民間人参加者の姿も見られた。彼らの銃はもちろん自前で、プロよりもいい銃を持っている者もいる。テクニックの面でプロも民間人もお互い学ぶことが多く、この競技に参加したことが大きなメリットになったはずだ。さまざまな国のプロフェッショナルたちが技を競い合ったこの競技会。これからの発展がとても楽しみである。
Photos & Text:櫻井朋成(Tomonari SAKURAI)
撮影協力:5 Fegyver Kupa SE
http://tacticalshootingcup.eu/
この記事は月刊アームズマガジン2019年8月号 P.128~135より抜粋・再編集したものです。