2018/12/30
タクティカルショットガン withロブ・ホウト/SHIN 【2019年2月号掲載】
THE GUNFIGHT TECHNIQUES FROM EXPERTS
~プロから学ぶ最新実践的射撃術~
米国では西部開拓時代から現代まで、銃器のプロフェッショナルであるガンファイター達は注目を集め、その技術は時代とともに進化してきた。この連載では、米国の誇るガンファイター達のテクニックを、基礎から発展までひとつづつ紹介していこう。
銃は扱い方を間違えば、大きな事故に繋がる武器である。だからと言ってむやみに恐れる必要はなく、道具として安全に扱うためのシンプルな「フォーファイアアームズセーフティルールズ(4つのセーフティルール」を守るだけで事故は防げる。
- すべての銃は絶えず装填されている
- 破壊したくない物には銃口を絶対に向けない
- サイトがターゲットに向くまで、引き金から指を離しておく
- ターゲットを確認し、そしてその背後に何があるのかを認識する
4つの安全ルールのうち、1つが破られたとしても危険は起こらない。だが、2つ、3つと複数の安全ルールが同時に破られた時、意図しない発射(誤射)が起こり、事故に繋がってしまう。4つのルールは、例え実戦であっても守られるべきルールである。
特殊作戦の分野において、もっとも過小評価されている武器がショットガンである。至近距離で広範囲に散弾が散らばることによる面的な制圧力は、対人用として古くから活用され、警察・警備任務には最適といえる。その中でも基本中の基本といえるものがポンプアクションショットガンである。ポンプアクションショットガンとは、ハンドガード部分を手動で前後させることで装填と排莢を行なう。つまり狙ったままのポンプ作動で素早い連射が可能であり、手動のため作動不良が少ないのが特徴である。ポンプアクションショットガンは米国の警察機構では50年以上使用されており、世界的に見てももっとも一般的な銃器と呼ぶこともできるだろう。
このベーシックともいえるポンプアクションショットガンの専門家が、ロブ・ホウト氏である。現在ではウェストバージニア州にある警察署の署長を務め、法執行機関に長く携わっている人物だ。80年代からポンプアクションショットガンをCQB戦術に取り入れる研究をはじめ、FBIのエリート特殊部隊であるHRT(人質救出部隊)へのポンプアクションショットガンコースの立案、ケン・ハッカーソン氏、ジェリー・バーンハート氏らとともに全米を回り、各連邦、州警察機構へ、そして日本の海上保安庁特殊部隊にも近代的戦術を広めていった人物である。
ホウト氏は言う「ポンプアクションショットガンは世界中でもっとも入手が容易な銃器である。そしてそのパワーは人間が発射できる最大の威力を発揮する強烈な武器である」
近年見逃されているポンプアクションショットガンだが、もっとも身近にある武器でもある。ホウト氏のクラスの参加者は法執行官を中心としている
アモマネージメント
「ショットガンの利点は、いつでも装填できるチューブマガジンにある。そして弱点もチューブマガジンである」とホウト氏は言う。
ショットガンをマスターするためのキーポイントは、アモマネージメントと反動の処理の2つに集約される。一般的なポンプショットガンには銃身と並行してチューブマガジンが設けられている。チューブマガジンには、7発程度の弾しか装填できないうえ、ボックスマガジンとは違い素早く交換もできない。
そのためショットガンは残弾数に気をつけながら射撃を行なわなければならない。状況に合わせて必要な種類のショットシェルを選びつつ、絶えず弾を補給し射撃を行なうのがタクティカルショットガンの運用方法である。これがアモマネージメントであり、異なる種類のショットシェルの携行の方法、再装填に慣れ、素早く確実に行なえるようになることがショットガンを効率的に使いこなすポイントである。
人差し指側にリムが来るよう、小指との間にシェルを挟む。シェルを前後逆に装填してしまうと、ショットガンは致命的な作動不良を起こす。シェルの保持方法はポンプアクションショットガンをマスターするうえでもっとも重要なテクニックである
ポンプアクションショットガンの装填はポートロードから始まる。フォアアームを引いてボルトを後退させ、エジェクションポートからチャンバー内に1発目のショットシェルを装填する。この状態で少なくとも1発は撃てる
ほかにもローディングポートからの装填や左右の手で行う必要性など様々なローディングテクニックを学ぶことができる。くわしくは本誌でご確認いただきたい
“プッシュプル”テクニック
ホウト氏は言う「12番ゲージのOOバック弾や、スラッグ弾はアフリカンカートリッジに匹敵するエネルギーと反動を生み出す。不快な反動もショットガンを不人気にしてしまっている。だが、リコイルマネージメントを学ぶことで、ショットガンは近距離ではもっとも強力な武器であるとも言える」。
ホウト氏が教える「プッシュプル」と呼ばれる独特な撃ち方。左手でフォアアームを前に押し出し、右手でグリップを引っ張る。弓を引くようにショットガンを前後に延ばすことで反動を軽減させる。ストックは肩に軽く当たっているだけであり、頬付けで安定させる。「プッシュプル」をマスターすると、12ゲージのショットガンの反動は消え、まるで宙に浮いたように連射が可能となる
ショットガンの反動を体で受け止めるのではなく、両腕の力で相殺してしまう「プッシュプル」という撃ち方。片足で立った状態でも連射が可能となる
ショットシェルのパターンを知る
10mからOOバック弾を撃ったパターン。5cm程度の穴に9粒の散弾が集まっている。近距離では強烈なストッピングパワーを誇る
ショットガンの利点は散弾が広がることによって生まれるパターンを使った面的制圧力である。的との距離が遠いほど、広い面積に弾を散らすことができるが、弾の密度は下がり殺傷能力は低下する。
ショットガンを有効的に運用するには、各距離における散弾の広がり方、密度を知る必要がある。また、散弾には2mmから9mmまでの大きさがあり、ショットシェルの容積に合わせて散弾が詰められることになる。このショットシェルの種類と、銃身内にあるチョーク(絞り)の組み合わせにより、散弾の広がり方は異なる。自分のショットガンがどのように弾を散らすのか、知っておかなければならない。
20mからOOバック弾を撃った結果。上半身全体に散弾が広がっている。状況に合わせて使用する散弾の種類とチョークを選び運用する
ショットガン レディポジション
ホウト氏のショットガンレディーポジション。カービンなどに比べて銃が横向きとなり、肩の上にバットプレート部分が乗ることでコンパクトに構えられる
ポンプアクションショットガンは、左右どちら側からも同じ操作ができるシンプルな構造を持ち、1度取り扱い方を学べば、すぐに取り扱える素晴らしい武器である。だが、その扱いをマスターするためにはアモマネージメントとリコイルの処理を学ぶ必要がある。ショットガンはマガジンチューブが銃身と平行して位置する構造上、装弾数を保つためにあまり短くすることができない。そこで、ホウト氏はCQBで使用する際にはストックを肩の上にスライドさせ、短くコンパクトに構える方法を生み出した。
CQBポジション。レディーポジションから、そのままショットガンを持ち上げることで銃を横に保ち、ストックは肩の上へ乗せる
CQBポジションでショットガンを連射する。ハンドガンを構えるよりもコンパクトにショットガンを撃つことができる
まとめ
今回で最終回となるガンファイトテクニック・フロムエキスパート。この連載では12回にわたり、各分野から米国の誇るトップレベルのガンファイター、インストラクターを紹介してきた。戦術(タクティクス)とそれをサポートするシューティングの技術。その双方は日々の実践の中で進化している。これからもアメリカが誇るガンファイターの技術に注目していきたい。
TEXT&PHOTO:SHIN
この記事は2019年2月号 P.116~119より抜粋・再編集したものです。