2019/03/09
体験! タクティカルトレーニング by ラリー・ヴィッカーズ
伝説のデルタオペレーターによる実戦的射撃テクニック
●ラリー・ヴィッカーズ
銃器とタクティクスのオーソリティーと知られる元米陸軍デルタフォースオペレーターのラリー・ヴィッカーズ(通称LAV)は、20年以上に及ぶ米陸軍人としてのキャリアを特殊部隊員として、そのほとんどをデルタフォースメンバーとして過ごした。米陸軍の第一特殊部隊デルタ作戦遣隊、通称「デルタフォース」は、米軍特殊部隊の中でももっとも機密性が高く、敵地に侵入し、人質を救出することを目的として設立された。
今回はラリー・ヴィッカーズをインストラクターとしたAZTEC TRAINING SERVICES が主催する3日間のピストル&カービン特別クラスの模様を紹介しよう。このクラスは、台湾の法執行技術訓練顧問会社であるポラーライトとの共催で、台湾から10名の訓練生が渡米、訓練を受けた
今回の参加者は、それぞれ過去に兵役、警察機構において限定的な射撃訓練を受けたことがある、もしくはこれまで1度も実銃を触ったことがない人物ばかりだったが、過去にボラーライトでヴィッカーズの訓練を受けた先輩達がエアガンを使ってトレーニングを施していたこともあり、初日から銃器の安全管理、持ち込んだ装備の種類、またその使用法も実銃を使ったトレーニングに飛び込んでも大丈夫なレベルに達していた
ラリー・ヴィッカーズはデルタフォースオペレーターとして、複数の敵地での人質救出作戦、湾岸戦争ではイラク軍のスカッドミサイル破壊作戦を含む実戦に参加した。ヴィッカーズのキャリアとして特筆すべきは、1989年、パナマ侵攻時、米国人カート・ミューズの救出作戦を実行した23人のデルタフォースオペレーターの1人であったことだ。「Operation Acid Gambit(アシッドガンビット作戦)」と呼ばれるこの作戦は、反ノリエガ運動に関わったとして逮捕、収監された米国民間人(CIAの連絡員であったと言われる)カート・ミューズが、米国のパナマ侵攻時に人質として利用される可能性があったため、デルタフォースによる救出が立案、実行された。敵支配地域内にある強固な構造と警備を持つ刑務所に、夜間ヘリコプターを使い屋上から侵入し、制圧。カート・ミューズの牢獄を破壊して救出し、ヘリコプターにて米軍基地へと運んだ。この作戦で4名のデルタフォース隊員が負傷。2機のリトルバードヘリコプターが墜落。パナマ側は5名の看守が死亡、1名が捕虜となっている。
ヴィッカーズ氏は、ヘリコプターによって屋上に降り立ち、実際に刑務所内部へと侵入し、カート・ミューズを救出したアサルトチームのメンバーとして作戦に参加した。その功績によりブロンズスター勲章を授与されている。デルタフォースオペレーターが勲章を授与され、その内容が公開されることは珍しい。300名程度の小規模な特殊部隊であるデルタフォースでは1人のオペレーター当たりの敵の殺害数が他の特殊部隊に比べて格段に多いことで知られている。9.11以降続く対テロ戦において、多くのHVT(ハイ・バリュー・ターゲット)の殺害、確保に成功しているデルタフォースだが、その作戦内容と、目立つことを極端に嫌う性格から、実際の活動に関して多くが語られることは少ない。実際にネイビーシールズを題材とした映画や本は多く出版されているが、デルタフォースに関しての情報は不自然なほど少ないのである。デルタ在籍中に3回のヘイロークラッシュ(ヘリコプターの墜落)を経験したヴィッカーズは、3度目の事故による負傷の影響でアサルターの役割を退く。その後は、デルタフォースにおける射撃教官として後継オペレーターの育成に関わった後退役した。
現在では1911ガバメントだけではなく、小火器のオーソリティーとして知られ、YouTubeチャンネル「Vickers Tactical」を通じて多くの銃器に関するレビューや情報発信を行なっている。またH&Kのコンサルタントとして、HK416やHK45といった特殊部隊向け小火器の開発に協力しており、幅広い銃器に関する知識と実戦経験をベースとした訓練プログラムから、米国においてもっとも評価の高いタクティカルインストラクターとして活躍しているのである。
●トリガーコントロール
「的を外す理由の9割がトリガーの間違った操作によるものだ。どんなに正しい構えで、正確に狙えたとしても、トリガーを引いた瞬間に銃を動かしてしまったら外れる。トリガーコントロールをマスターすることが射撃でもっとも重要で難しい部分である」とヴィッカーズ氏は言う。
「人差し指の第一関節と指先との間が、トリガーに対して90度に触れるようにする。そしてトリガーを真っすぐ後ろに押すようにして、コントロールする。銃を左右にぶれさせないのがポイントだ」
サイトを正しく使って狙い、その狙いを崩さないようにトリガーを動かせば、弾は確実に狙ったところに当たる。視覚的に確認が行なえるサイティングの方法で失敗するシューターは少なく、視認しにくいトリガーコントロールの部分が射撃の難しさであると言える
ワンハンドでのブルズアイ射撃。サイティングだけではなく、正確なトリガーコントロールが試されるドリルだ。ヴィッカーズのモットーでもある「Speed is fine but accuracy is final(スピードは結構だが、精度こそがすべてだ)」とは、ガンファイターのワイアット・アープが言った言葉である。人質救出を専門とするデルタフォースでは、非常に高いレベルの射撃技術をオペレーターに求める
●ピストルのローディング&リローディング
射撃準備の際に行なわれるローディング(装填)と射撃の合間に行なわれるリローディング(再装填)には共通の動きが多い。「ローディング、リローディング、そしてタクティカルリロードも同じ効率の良い、100回やって100回成功できる確実な動きを体得するのが重要だ」とヴィッカーズ氏は言う。
1.オートマチックピストルの多くが最終弾を撃つと、スライドストップによってスライドが後退した状態で固定される
2.マガジンが自重で落ちるように、銃を縦に保ったままマガジンキャッチを操作する。この際に、必要であれば手の中でグリップを左回転させ、確実にマガジンキャッチを操作する。H&K VP9では、レバー式のマガジンキャッチを人差し指を使って操作している。マガジンキャッチは一瞬押すのではなく、確実にマガジンが排出されるまで押し続ける。左手は、マガジンポーチへと伸びている
3.すべての指を使い、マガジンの前面に人差し指が添うようにして保持する。マガジンポーチも確実にマガジンをコントロールできるスタイルのものを選ぶのが重要だ
4.マガジンをスムーズに装着するため、顎から手の平分離れた位置に銃を保つ。同時にマガジンウェルはマガジンポーチのある方向(この場合左側)に向ける
5.マガジンポーチから取り出されたマガジンは、前面に沿って置かれた人差し指をガイドとするようにマグウェルに装着される。手の平の付け根を使い、一挙動で確実に銃に装着する
6.スライドストップを左手親指、もしくは右手親指を使って操作する。銃の種類によってどちらかの操作方法を選ぶことになる
7.スライドをしっかりと握り、後方に引き切り、離すことでスライドを前進させることもできる。ローディングの際には、リロードと同じ動きでマガジンを装着しスライドを後退させる。タクティカルリロードでもマガジンの装着の方法は同じやり方で行なう
8.リロードが完了し、射撃可能となった状態。「トレーニングの際に、リロードの後に撃つという癖を付けないように気をつける。シューティングタイマーを使ったドリルでは、リロード後に撃つことでリロードのタイムを計測するが、これは大きな事故につながる。実戦ではリロードをしたからと言って必ず撃つということではないからだ」
本誌ではカービンのリロードについても詳細に記述している(P.114)
●トランジションとハンドガンのドロー
トランジションとは、何らかの理由でカービンが作動不良を起こした際に素早くハンドガンへと持ち替える方法である。ヴィッカーズ氏は言う「状況によってトランジションを行なうか、カービンの作動不良の解決を試みるか、この判断を行なうことになる。ハンドガンでの実戦的な交戦距離は25ヤード以内である。同じ部屋の中に敵がいる時にカービンが止まったら、素早く拳銃で攻撃を続行するべきだ。だが100m先の敵と交戦している時にカービンが止まったら、カービンの作動不良を解決しようと試みるほうが理にかなっている」
トランジションを行なうことを決めたのなら、カービンの作動不良の理由を探る意味はない。ハンドガードを握ったまま素早く体の左側へとカービンを寄せる。同時に右手はハンドガンへと伸びる
左手がグリップに重なり、銃口がターゲット方向へと向いている。この時点で人差し指はトリガーに触れている。至近距離であれば、この位置からハンドガンを射撃する
両手を伸ばしながらしっかりとグリップを形成する。やはりトランジション後=射撃という癖をつけることを避けながらスムーズにできる訓練を行なう
●ショルダースイッチ
バリケードやカバー越しに射撃する際、撃つべき方向にあわせてカービンを右→左もしくは左→右に持ち替えて射撃するためのテクニックがショルダースイッチだ。バリケードの右側から撃つ場合は右手・右肩から、左側から撃つ場合は左手・左肩から射撃することで、遮蔽物からの身体の露出を最小限にできる。「ショルダースイッチは学んでおくべきテクニックだ。だが、利き腕とは反対側から射撃することで射撃の精度もスピードも低下するという弱点も考慮しなければならない。バリケードの向こう側には何があるか分からないことがほとんどだ。例えばバリケード右からの射撃のためにショルダースイッチを行ない、バリケードから出たとしよう。その状態で50m先の人質を抱えた敵にヘッドショットを、自信を持って行なえるか? 敵を無効化することは、カバーに隠れることではなく相手を素早く正確に撃つことでのみ実現できることを忘れてはならない」。
右肩での射撃姿勢から、セーフティをかけた後にスリングのタブを掴んでスリングを伸ばす。使用しているのはヴィッカーズがデザインしたブルーフォースギア製ヴィッカーズスリング。素早く長さを変更することができる
左手をスリングの中に通し、首から掛ける状態とする
左手はマグウェルを握り、ストックを肩から離しスリングの上を超えるように左側へと移す
右手でフォアアームを握り、ストックをしっかりと肩に当てる
右肩から左肩へのショルダースイッチが完了した
今回のラリー・ヴィッカーズによるトレーニングは、カービンとハンドガンの両方を実戦的かつ効率的に使用するために必要な、基本的な操作方法が中心となった。ヴィッカーズのテクニックには派手さはない。体力が消耗し、判断力も低下した極限の状態でも確実に行なえるシンプルで確実な操作法であり、ナイトビジョンやガスマスクといった装備をつけた状態でも行える幅広い局面で使えるテクニックとなっている。
「ハンドガンへのトランジション、ショルダースイッチ、リロードの方法等のやり方を学ぶのは重要だ。同時にこれらのテクニックを、いつ使うのかを正しく判断することがタクティクスでもある。それぞれのテクニックのやり方だけではなく、理由、そしてどのような利点があり、キーポイントはどこにあるのかを理解することで、タクティカルトレーニングはより身のあるものになるだろう」とヴィッカーズ氏は言う。あくまでもスクエアレンジ(射撃場)での派手さではなく、銃がどのような環境で実際に使用されるのかを見据えたタクティカルトレーニングを提供し続けるヴィッカーズのテクニックには、自身の経験と経歴が反映されているのである。
本誌では他にもシューティングポジションや、今回使用することができたURG-I(アッパー・レシーバー・グループ-インプルーブド)と呼ばれる米陸軍特殊部隊向けにガイズリーが開発した最新型アッパーレシーバーについても紹介している
TEXT&PHOTO:SHIN
この記事は2019年4月号 P.110~117より抜粋・再編集したものです。