2019/08/08
実銃レポート「WALTHER PPQ M2 Q4 TAC Combo」
ワルサーが贈る渾身のタクティカルピストル
新たな伝説の始まりか!? ドイツの名門銃器メーカー、カール・ワルサーが混迷から脱出し、その証として世に送り出したストライカー式ピストル、PPQ M2。その最新タクティカルモデルQ4 TAC Comboを撮影するため、ワルサー本社へと向かった。
変貌を遂げるワルサー
ワルサーと言えば、P38やPPKをまず思い浮かべるだろう。いずれもナチス・ドイツ時代に開発され戦後も改良されて長く使われた銘銃であり、映画やアニメでも活躍して知名度は高い。しかし、同社のピストルでこれら以上の銘銃は現れなかった。戦後はピストルやエアライフルなどの競技銃を生産してきたワルサーは1993年、エアソフトガンなども手掛けるウマレックスの傘下に入ることとなった。ちょうどグロックをはじめとするポリマーフレーム&ストライカーファイアがピストルの世界を変え始めた頃であり、ワルサーもそれに倣って1996年にP99をリリースした。
ワルサー本社内には博物館がある(※一般公開はされていない)。こちらはウマレックス傘下となり、ストライカー方式が主流となりつつある中で登場したP99だ。この銃が、現代のPPQへとつながっていった
P99のグリップはエルゴノミックデザインでフィット感は抜群だったが、主なユーザーをドイツ警察としたことからトリガーフィーリングがイマイチだった。ドイツ警察の採用するピストルは暴発防止のためトリガートラベルが長く、トリガープルが重たく、またトリガーリセット量も大きい。トリガーを引くとギシギシと不快なフィーリングを指先に感じるのだ。競技銃では切れ味のある素晴らしいトリガーを作れるのに…。
P99はさまざまな派生型が開発されたもののパッとせず、2011年には後継としてより洗練されたデザインのPPQをリリースした。
世界中に広がるガン規制などで銃器メーカーには厳しい環境の中、ワルサーはどうにか生き延びてきた。そして現在では欧州の代表的なライフルメーカーであるブレイザーから招聘したディレクターやセールスマネージャーが陣頭指揮を取るようになったことで、ワルサーは生まれ変わろうとしている。
ワルサー本社でPPQ M2の最新モデルを見た!
現在ワルサーの主力製品であるPPQ M2はPPQの改良版として競争力のあるモデルへと進化している。その最新バリエーションがQ4 TAC Comboである。この製品はサイレンサー装着可能なバレルやOR(オプティカルレディ)仕様のスライド、さらにシールドのマイクロドットサイトをセットした豪華版のタクティカルモデルだが、何よりキレのある一級品のトリガーを備えているのがポイントだ。機構としてはオーソドックスだが、その出来のよさは「ワルサー復活」を感じさせるに充分なものだ。
WALTHER PPQ M2 Q4 TAC Combo
- 使用弾:9mm×19
- 全 長:198mm
- バレル長:117mm
- 重 量:745g
- 装弾数:15/17発
Q4 TAC Comboの外観。サイレンサーを装着可能なバレルやマイクロドットサイト、2トーンのカラーリングがタクティカルモデルらしさを醸し出す。この種のピストルとしてはバランスよくコンパクトにまとめられ、シルエットも美しい
このワルサー最新モデルを試すため、ドイツ南部に位置するバーデン=ヴュルテンベルク州のウルムに向かった。この街はアルバート・アインシュタインの出生地であり世界一高い尖塔を備えたウルム大聖堂でも知られている。ワルサーはテューリンゲン州ズール近郊の銃工の街ツェラ=メーリスで1886年に設立されたものの、第二次大戦終結後同地が東側となったため、1953年にウルムへと本社を移し再出発した。
カール・ワルサーの本社外観。現代のワルサーといえば競技銃と警察向けピストルのイメージだったが、最近は主力ピストルPPQをベースとしたコンペティションモデルQ5 Matchシリーズをリリースするなど、魅力的な製品の開発に本腰を入れているようだ。最新のPPQ M2をベースとしたタクティカルモデル、Q4 TAC Comboもそのひとつ
現在、ワルサーは最新のロボットやCNCマシンを導入し、一流メーカーの名に恥じない生産設備を持っている。バレルは主にコールドフォージング(冷間鍛造)で、競技銃向けには削り出しで製造される。スライドや金属フレームは金属塊から数工程に分けてCNCマシンで削り出される。これらパーツは、段階的なポリッシュ作業を経て表面処理がなされ、アッセンブルラインへと集められ組み立てられていくのだ。
CNCマシンによって作り出されるパーツはエッジがシャープで、細やかな加工も可能という特徴を持つが、実は金属の塊をどういった手順でカットしていくか、またどのような方向からカットするか、そしてそのためにはどのような形状の刃が必要になるか…など職人技が必要になる。そのため、工場の一角にはCNCマシンに取り付ける刃を製造する部門まで備えられている。
CREEDピストル
筆者がワルサーを訪れた際、同社製品のひとつであるCREEDピストルのバレル製造工程を見せていただくことができた。CREEDは警察官向けを想定したDAO(ダブルアクションオンリー)のピストルだ。
警察向け用ピストルとして開発されたCREEDはDAO(ダブルアクションオンリー)の機構を持つ。PPQのようなストライカーピストルではなく、後端にボブドハンマーを備えているのが特徴。使用弾薬は9mm×19で全長185mm、重量755g。PPQシリーズよりサイズは大きめ
CREED(写真左)とPPQ M2(写真右)との比較。CREEDの方がやや頭でっかちだ
一般的にオートマチックピストルのバレルは、金属の円柱から削り出される。まず筒状に穴を開け、ハンマーでたたいてライフリングを刻み、前方がバレル、後方がチャンバーの形状となるように切削していく。特にティルト式バレルのチャンバーはバレル部分に比べ太く箱型の形状で、その分太い鋼材から削り出す必要があり製造に時間と手間がかかる。そこで、CREEDではバレルとチャンバーを別パーツとする2ピース構造を採用。バレル外径に近い円柱から切削できるため製造時間を短縮化できる上、チャンバーにはより量産向きな冷間鍛造を採用。それでいて命中精度は従来のバレルとほぼ同等なのである。こうしてCREEDは低価格を実現することができたのだ。
CREEDのバレルは2ピース構造とすることでコストを削減。スライド内部もファイアリングピンなどを収める部分が別パーツなっている
シューティングインプレッション
ワルサー本社ビルの地下には作動テスト用射場から100m射場に至るまで複数の射撃場が完備されており、中には警察関係者がさまざまなシチュエーションでの射撃を体験できる映像標的を備えた射場まである。ドイツで出荷されるすべての銃は作動テストを経る必要があり、製品検査のためのプルーフオフィスもこの中に併設されているのだ。この地下射撃場でQ4 TAC ComboをはじめノーマルのPPQ M2、PPQ M2 Subcompact、そしてCREEDを撃ち比べた。
スポーツ部門に所属するトーマスがQ4 TAC Comboを構えてくれた。大柄なドイツ人の手の中にすっぽりと収まっている
Q4 TAC Comboのグリップは最初の射撃時にグリップポジションをあれこれ探る必要がなく、スッとフィットするほど良好だ。トリガーもP99のような重さを想像していたら、まるで目の前の霧が晴れたかのようにフィーリングは抜群だった。ダブルタップではトリガーリセットを感じたところですぐに次を射撃するわけだが、トリガーリセットまでのトラベル長も短く抑えられているため、気持ちよく連射できる。そして標準装備されたマイクロドットサイトも、すっかり目の弱った筆者にはありがたい。
このQ4 TAC Comboを撃った後でPPQ M2(ノーマルとサブコンパクト)を撃ったところ、どうしても荒さを感じてしまった。それだけQ4 TAC Comboの完成度が高かったということだろう。
写真上はPPQ M2の標準モデル(4インチバレル)。使用弾薬は9mm×19で全長180mm、重量695g。基本的な仕様はQ4 TAC Comboとほぼ同じだ。写真下はPPQ M2のサブコンパクトモデル(3.5インチバレル)。使用弾薬は9mm×19で全長167mm、重量608g
トーマスがノーマルのPPQ M2を撃つ。とりわけサブコンパクトのキックは鋭く大きい。短いマガジンで携帯性を重視したモデルなので仕方ない
一方、DAOでハンマー式のCREEDはスライドを引いてもハンマーは倒れたままで、トリガーを引かなければハンマーは起きない方式。トリガープルは軽いもののトリガートラベルは長い。スライドは分厚く重量があるため、リコイルを抑えるのに一役買っている。スライドが動いて戻る際、その重みによる慣性で銃口を押し下げてマズルジャンプを抑えてくれる感じで、それゆえ動作はもったりしている。
トーマスがCREEDを射撃した。彼はライフルを得意とするハンターだが、CREEDはマズルジャンプも少なく扱いやすいとのこと
ところでCCPはジェームズ・ボンドの次の愛銃になるのではと目されていたが、彼はなかなかPPK/Sを手放さないようだ(P99やPPSなどを使ったこともあったが…)。この銃はコンシールドキャリー向けでPPKの現代版といったところだが、カートリッジはより強力な9mmパラベラムを使用する。
ワルサー本社の外観は数年前に訪れた際と何も変わっていなかったが、そこで生み出される銃は大きく進歩していた。息を吹き返したワルサーが、また歴史に残るような銘銃を新たに作り上げてくれるのでは…と、そんな気がしてならなかった。
Photos & Text:櫻井朋成(Tomonari SAKURAI)
この記事は月刊アームズマガジン2019年9月号 P.136~143より抜粋・再編集したものです。