実銃

2019/03/16

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

 

米国では州によって違いはあるが、CCW(コンシールドキャリーウェポン)のパーミット(許可証)を所持する一般人が飛躍的に増えている。そこで、各ガンメーカーからは「EDC(エブリディキャリー:毎日携帯する)」を目的としたピストルが数多くリリースされている。今回は、オン&オフデューティでこれらのウルトラコンパクトピストルをキャリーしているオフィサー達に、話を聞いてみた。

 

■エブリディキャリー

 

 2015年に発表された研究によると、全米で約1,600万人が銃の携帯許可証を所持しており、約900万人が月に1回以上は銃を携帯し、うち300万人ほどはほぼ毎日キャリーしているという結果がでている。20歳から70歳までの米国の成人人口は約2億人なので、単純計算で、成人の約8%が携帯許可証を所持し、1.5%ほどは毎日ガンをキャリーしているということになる。この数字を多いと見るか少ないと見るかは別として、合法非合法を合わせると、街を歩いている人々がガンをキャリーしている確率はそれなりにあるという認識をしなければならないだろう。

 

 結果、これらコンシールドキャリーに適したサブコンパクトガンは、ひとつのブームを迎えている。10年も前までは、コンシールドガンといえばS&W Jフレームなどのリボルバーか、ストレートブローバックの.380ACPオートくらいしかチョイスはなかった。それが今ではよりどりみどり。9mmポリマーフレーム/ストライカーピストルを始めとして、コルトやキンバーの6連リボルバー、ショートリコイル.380オート等がマーケットを賑わせている。
 昨今の新モデルを眺めていると、CAD(コンピューター支援デザイン)やCNCマシンの普及に伴って、より人間工学を重視したデザインが採用され、製造過程での工作精度が飛躍的に向上したことで、それぞれの製品が一定以上の完成度になっている。

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

ウルトラコンパクトと名付けられたSIG P365。この小さなボディに、フルパワー9mm弾を10+1発飲み込んでいる

 

 今回は、まず、おなじみ、LAPDのSWATチームに属するスナイパーであり、ファイアアームズ・インストラクターでもあるジェイソン・デイヴィスに彼のCCW(コンシールドキャリーウェポン)遍歴を語ってもらおう。その上で、CCWとしてEDC(エブリィディキャリー:毎日携帯する)を前提として、どのようなガンをどうキャリーするか、ジェイソン、ボブ、ジョーダンという現役ポリスオフィサーに集まってもらい、彼らのバックアップガンについての考えを語ってもらった。

 

■ステップダウン

 

 ジェイソンは、現時点でCCWとして人気のあるサブコンパクト、SIG P365Glock G43S&W M&P Shieldのオーナーだ。そこに至るまでの、彼の遍歴はとりもなおさず「CCWのあり方」を浮き彫りにさせる。

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

GLOCK G43 3.41インチ(87mm)バレル 全幅0.87インチ(22mm)というグロックとしては9mm口径最薄となるシングルスタックモデル。トリガーバーをクリアするためにフレームのサイド部分が盛り上がっている

 

 

「ポリスオフィサーである私にとってのCCWは、メインウェポンであるコルト1911(.45ACP)のバックアップガンでもあり、オフデューティガンという考え方もできる。長い間、私のバックアップガンはコルトコマンダーやオフィサーズモデルだった。制式銃と同じアモを使い、マガジンの共用が可能という点で他にチョイスはなかったといってもいいかな。ただしこのオフィサーズACPと呼ばれたモデルは、いろいろチューンアップをしていたにもかかわらず、大事な場面でジャムを起こしてしまった。これは7年ほど前の話だ。以来、私のバックアップガン行脚が始まった。ここで大きなターニングポイントになったのは、フェデラルの9mm147グレインHSTとの出会いだった。この新弾頭ならいける、と思うことができたんだ。いわば.45ACPからのステップダウンだね。ここで、信頼できるコンビネーションがグロックのG19だった。パワー不足は15発という装弾数で補うことができると思えたんだ。.45ACPの呪縛から逃れることができた瞬間だった。

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

フェデラル 147グレインHST JHPは、147グレインという9mmにしては重めの弾頭を1000fpsで飛ばす新しいジェネレーションのLE用アモである。そのリコイルはかなりのものだが、P365は軽々とこなすことができる

 

 

 以来、キャリーガンはTPOで使い分けるべき、ということも分かってきた。S&W M&Pシールドを手に入れたのが手始めだったが、9mm口径ならサブコンパクトでも充分役に立つんだ。これまでに起きた事件で、1人のアタッカーをストップするのに要した弾数は、2.4から2.9発だったというFBIの資料もある。この統計がすべてではないが、S&Wシールドの7+1発、もしくは8+1発マガジンでも、必要な時と場所に、手元にそのガンがあるというだけで、サバイブできる可能性は飛躍的に高くなる。同じ意味で昨今爆発的に売れているグロックG43もその6+1発(エクステンデッドアダプターを付ければ8+1発)という少々不安な装弾数ではありながら、高いコンシーラビリティ(隠匿性)を考えれば、TPOによっては充分に用をなすと考えられる。

 

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Smith & Wesson M&P Shield。グリップ周りのステップリング、全面のセラコートなど、女性用のカスタマイズが施してある。これは旧モデルだが、最新の2.0はトリガープルが格段に良くなっている

 

 

 ただし昨年リリースされたSIG P365は、さすがに最後発だけあって、かなりのポテンシャルを持っている。なにせその装弾数は10+1発、もしくは12+1発というクラス最高を誇る。グリップは少々太くなったが、逆に9mm口径のリコイルをうまく吸収してくれる効果もあるので、弾着をまとめやすく、撃ち心地もいいというオマケまで付いてくる。身体も手も大きい私からすると、やはりSIGP365に一日の長があるといえそうだ。まだ新しいガンなのでもっと撃ち込んでみる必要はあるが、現時点ではベストといえそうだ。数あるインプレッションの中には、ファイアリングピンの不良をあげつらう向きもあるが、SIGならば適切な対策をすると思う。さらに今年のSHOTSHOWでは、このP365のマニュアルセーフティ付モデルもリリースされた。こいつもテストしてみたいところだ」

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

P365(右、装弾数10+1発)とG43の比較。全長はP365のほうが12mmほど短い

 

■キャリーポジション

 

 現役ポリスオフィサーたちがキャリーするCCWは様々だ。今回集まってくれた3人にそれぞれのCCW論を語ってもらった。

 

 このLA郊外に位置するPDの制式銃が.45ACP口径のコルト1911になったのは、ジェイソンの功績によるものが多い。

 

「ストッピングパワーや車のドアへのぺネトレーションを優先させると、やはり最新の.45ACP口径弾に軍配が上がると思う。現在、すべてのパトロールカーにはAR-15(5.56mm×45)ライフルが装備されているから、1911とのコンビネーションは最適だといえるだろう。
 ここ4年ほどの私のCCWはグロックのG19だ。以前はコルトのコマンダーやディフェンダー(.45ACP)をキャリーしていたが、最新の9mm弾の性能は飛躍的に向上しているからね。15+1発の装弾数は何ものにも代えがたい。サブコンパクトのグロックG43も何挺か所有しているが、真夏に薄着をしなければならない状況のときだけキャリーしている。私の手には小さすぎるのと、やはり+2のエクステンションをつけても8+1発でしかないマガジンキャパシティが気になるね。

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

GLOCK G43 ODグリーンモデル。大人気のG43だが、筆者の手には少々小さすぎるきらいがある

 

 

 キャリーは、SOBタクティカルの『ディープコンシールドホルスター』に収めて、左腰骨の後ろ、8時方向に装着している(頭上から見て、へその位置を12時として、どこにガンを装着するかを表す。ジェイソンは左利きなので、左の腰骨を9時とすると、その後ろ、つまり8時部分に装着している)。このホルスターはもっとも薄く目立たないで装着できるカイデックスホルスターとして、愛用している。マズルとフロントサイトを完全にカバーしてくれるから異物が進入したり、フロントサイトが引っかかったりする心配がない。スムーズなドロウと安全なリホルスター(ガンを元の位置に戻す)を保証してくれる。

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

左から、STICKY Holstersポケットホルスター、SOBタクティカル「ディープコンシールドホルスター」のベルトクリップモデル(タン)とパラコードモデル(ブラック)、右のIWBホルスターはジェイソンの友人が作ったもの

 

 

 個人的には、アペンデックスキャリー(腰骨とへその間にガンを装着する)は好きじゃないんだ。アペンデックスの長所は、早く抜けるという点だが、銃口はどうしても自分をポイントしてしまう。私もグロックをキャリーしているが、今主流となりつつあるストライカー方式のガンはマニュアルセーフティのないモデルが多い。これをチャンバーに装填した状態でアペンデックスキャリーするというのは、なんだか落ち着かないな。非常時に緊張下の人間は何をするかわからない、というのが私の考え方だからね。やはり8時キャリーにこだわっていきたいと思う」

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

ディープコンシールドホルスター(DCH)での装着。コンシーラビリティ(秘匿性)はかなり高い

 

 

 ジョーダンは、ポリスアカデミーを卒業して3年目という若手の新進気鋭オフィサーだ。

 

「私はオフデューティでもフルサイズ1911とショートバレルのコルトディフェンダーの2挺をキャリーしている。.45ACP口径の威力は、何ものにも代えがたいと信じているんだ。9mm口径の威力は、最新の弾頭なら必要充分という人は多いが、やはり230グレインのエクストラパワーはポリスワークには最適だと思う。ガンは機械だからね。ジャムもすれば、壊れる事だってある。だから2挺必要なんだ。エクストラマガジンはベルトに1本とポケットに1本、つまりトータルで、8+1、7+1、8&8で33発を常に装備していることになる。マガジンが共用できるというのは2挺をキャリーする際の必須だね。キャリーポジションは、もちろんアペンデックスだ。やはりドロウのスピードが断然違う。以前は4オクロック(4時)だったが、トレーニングを重ねるうちにアペンデックスに変更した。出来のいいホルスターも出てきたからね」

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

ジョーダンのオフデューティ姿。ガンを持っているようには見えない

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

危険を目視し、アペンデックスからドロウに入ると、なんとフルサイズ1911が隠れていた!

 

 

 ボブは、ミリタリー経験も持つ、SWATチームメンバーだ。

 

「私はアペンデックス派だ。まず車への乗り降りが楽なのと、何よりも早く抜ける。私のデューティガンは、CZ P-09で、オフデューティにはコンパクトのP-07を使っている。同じコントロールだし、トリガープルもほとんど同じにチューンしてある。マニュアルセーフティがなかったら、アペンデックスキャリーにはやや抵抗があるかな。でもCZのマニュアルセーフティは信頼できるし、ガンそのものの精度も悪くない。オン/オフデューティで同じガンを使うというのは、重要なポイントだと思う。すべての操作、エイミングポイントなどがマッスルメモリー(身体に覚えこませる)として出来上がっているというのは、著しい緊張下に置かれるポリスオフィサーにとって必要なファクターだと思う」

 

実銃レポート EDC(エブリデイキャリー) 9mm Auto

ボブのアペンデックスキャリー。ベルトの下にクリップが挟まっている。「これが結構安定するんだ。やってごらん」

 

 

 彼等はポリスオフィサーなので、コンシールドキャリーウェポンのチョイスにも、キャリーの方法にもLEO(ロウエンフォースメントオフィサー)ならではの方向性が働いているといえるだろう。それでもやはり、プロフェッショナルの言葉には耳を傾けるだけのウンチクがあるのは確かだと思う。

 

 

Text & Photos: Hiro Soga

 


この記事は2019年4月号 P.118~125より抜粋・再編集したものです。

 

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