2025/11/28

“すべての海兵隊員はライフルマンであれ”   現代アメリカ海兵隊の戦い方/小銃射撃訓練  【M4A1/M16A4編】

 

大変革を進めるアメリカ海兵隊に注目

 

M4A1をバリケードに依託して射撃する海兵隊員。マズルにはQDSS/NT4サプレッサーが装着されている。全長が短縮されたM4A1ならばサプレッサー装着時も取り回しへの影響が少ない

 

 現在、アメリカ海兵隊は世界的な安全保障環境の変化を受け、戦車部隊全廃や砲兵部隊大幅削減の一方で、歩兵部隊に加え対艦ミサイル部隊、防空部隊、兵站部隊などを擁するMLR(海兵沿岸連隊)を新編したり、ロケット砲兵部隊や無人機部隊を増強するなど大変革を進めつつある。それは、我が国の安全保障とも密接に関係していると言っていいだろう。
 そこで、アームズマガジンWEBでは改めてアメリカ海兵隊に注目。少し前の記事にはなるが、フォトジャーナリスト・笹川英夫による沖縄の31st MEU(第31海兵遠征部隊)への取材記事(「月刊アームズマガジン」2023年8月号および9月号掲載)を抜粋、再構成してご紹介していく。取材ではアメリカ海兵隊の主要な職種である歩兵を中心に、各種訓練や装備などを収録しており、この第2回ではARQ(年次適格性評価)に伴う射撃訓練における、M4A1カービンとM16A4をピックアップする。

 

 

第1回 M27 IAR編はこちら

 

 

ARQとは

 

 ARQとはAnnual Rifle Qualificationの略で、日本語では「年次ライフル適格性評価」と訳される。アメリカ海兵隊は“Every Marine a Rifleman:すべての海兵隊員はライフルマンであれ”を標榜するだけあって、ARQはパイロットだろうが後方職種だろうが全海兵隊員が定期的にクリアせねばならない。この日の射撃訓練には31st MEUだけでなく3rd MARDIV(海兵師団)、3rd MIG(海兵遠征軍情報群)など3rd MEFに所属する様々な職種の海兵隊員が、10カ月後に予定されるARQに備えて射撃訓練に臨んでいた。

 

 

M4A1

 

4面レールを備えたハンドガードであるRIS(レールインターフェイスシステム)には、下面以外の3面にレールカバーを装着することで握りやすくしている。下面にはGrippod製のグリップポッドを装備。ワンタッチで展開でき、取り回しのよさを損なうことなく精密射撃に対応させている

 

SPEC

 

使用弾:5.56mm×45

全長:756mm/850mm(ストック伸長時)

銃身長:368mm

重量:2.6kg

作動方式:ガス圧利用(ダイレクトインピンジメント)

装弾数:30発

 

 M4A1は1994年に米軍に制式採用されたアサルトライフルである。全長1m弱と長大なM16A2アサルトライフルを短縮化し、取り回しを向上したカービンモデルとして開発された。「A1」とは米軍において改良が施されたことを示す記号で(改良が続けばA2、A3……と数字が大きくなる)、ノーマルのM4から1度改良されたことを示している。主な改良点はM4がセミオート/3点バーストの射撃形態を持っているのに対し、M4A1ではセミオート/フルオートとしていること。M4自体の採用も同じく1994年であったことから、改良というよりもバージョン違いのような認識だったようだ。
 

バレル長は14.5インチ(368mm)

 

4倍率のACOGスコープを搭載。上部の集光パイプにより、ある程度の明るさがあれば電源なしでレティクルを光らせることが可能。こうしたスコープの搭載は単純な射撃精度を上げるだけでなく、敵味方が入り乱れる市街地戦での誤射防止の目的もある

 

ワンタッチで延長・短縮が行なえるBLUE FORCE GEARのヴィッカースコンバットアプリケーションスリングが装着されている。こうしたアクセサリーからも海兵隊の戦術の進化が窺える

 

こちらの海兵隊員のM4A1にはグリーン系の迷彩塗装が施されていた

 

グリップポッドを活用したプローン(伏射)。マガジンは樹脂製のPMAG(GenM3)が装着されている。軽量で丈夫なうえ安価なことから世界中に普及している。そうした流れを受けて海兵隊でも2017年に使用が承認された

 

 現在では、M4A1は世界中で使用されるアサルトライフルのスタンダードと言っても過言ではない。事実として米軍を筆頭に、各国の軍や法執行機関(警察などの犯罪を取り締まる組織)がM4A1やそのクローンモデル(構造をコピーして他社が製造したモデル)を採用している。
 そうした事情に反して、意外にも米海兵隊においてM4A1が採用されたのは2015年頃と陸軍と比べて遅い。これには海兵隊が伝統的にフルサイズの(=全長の長い)ライフルを好んで使用してきたという背景が関わっている。実際銃身長が長ければ、弾速や命中精度は向上する。そうした理由から、海兵隊では長くフルサイズのM16シリーズが使われてきた。しかし、車輌を使った移動や建造物への突入などが多く行なわれる現代の戦場では、取り回しやすい銃の方が活躍の場が多い。また弾薬や光学照準器の技術向上により、銃身長による威力や精度の違いも無視できる程度のレベルに収まってきた。こういった兵士を取り巻く環境の変化も手伝い、海兵隊もM4A1を制式採用するに至ったのだろう。また、陸軍と装備を揃えることで調達コストを軽減する狙いもあったと考えられる。いずれにせよ、精鋭ぞろいの海兵隊員がM4A1を装備したことで、さらに強化されたことは間違いないだろう。

 

 

M16A4

 

レシーバー側面にFNのロゴとM16A4の文字が入っていることから、A4モデルとして新造されたことがわかる。スリングはM27 IARと同じBLUE FORCE GEAR製のものが装着されていた

 

SPEC

 

使用弾:5.56mm×45

全長:1,006mm

銃身長:508mm

重量:3.4kg

作動方式:ガス圧利用(ダイレクトインピンジメント)

装弾数:30発

 

 かつてM16はコルト・ファイアアームズによって生産されていたが、同社の経営悪化により権利がアメリカ政府へ移譲され、回りまわって現在M16A4は主にFN USA(FNハースタルの米国支部)が製造を担当。そのため、それまでのM16シリーズとは異なりレシーバーにはFN製であることを示す刻印が施されている(コルト・カナダ製のコルト刻印モデルも一部存在)。
 米海兵隊の主力小銃もM4A1やM27 IARへと置き換えが進んでおり、現在ではその姿を見かけることも少なくなった。しかし未だ現役を張る小銃であることは間違いなく、一部の隊員が使用している様子が報道写真などで確認でき、中にはM4A1のように伸縮式のストックに換装されたモデルも認められる。やはり海兵隊の「フルサイズライフル信仰」は簡単には廃れないようだ。

 

M16A4で射撃訓練に臨んでいた女性兵士。装備の雰囲気から、M16A4は後方職種を中心に配備されているようだ

 

 

興味深い点として、このM16A4はフリップアップ式のリアサイトをハンドガードの最後部に装着している。射手が小柄な女性兵士であったことから、どうやらアイレリーフを確保するためにACOGをトップレール後端に装着せざるを得ず、結果的にリアサイトを前方に移動する必要があったのだろう。ハンドガードにはグリップポッドやレールカバーが20mmレールを介して装着されている

 

 

M16A4による射撃。レシーバー上にはTrijicon製の4倍固定スコープであるACOGが装備されている。機能のわりに軽量で、M16A4の想定交戦距離や重量を考えると最適な光学照準器のひとつと言えるだろう

 

 

電子書籍版も発売中!!
「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」

 

 

 最後にちょっと宣伝になるが、「イラストでまなぶ! 用兵思想入門」シリーズ最新刊となる『イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編』が発売中だ。

 「用兵思想」とは、戦争のやり方や軍隊の使い方に関するさまざまな概念の総称である。これについて知っておくことで「その軍隊がどのような任務を想定し、いかに組織を作り戦うか」ということを理解できるようになる。

 本書では現在進行中のアメリカ海兵隊の大規模な変革と、それを必要としている海兵隊やアメリカ海軍、さらにはアメリカ軍全体のあたらしい用兵思想、それを実行するために編成される海兵隊のあらたな部隊とその装備、指揮統制の方法などを、イラストとともにくわしく解説している。

 

 

 

 

 

日本周辺の有事におけるアメリカ軍の戦い方が見えてくる

 

 本書では「イラストでまなぶ! 用兵思想入門」シリーズ(ホビージャパン刊)を手掛ける田村尚也氏が解説を、しづみつるぎ氏がイラストを担当。現代のアメリカ海兵隊が大変革を進める理由や、その用兵思想がわかりやすくまとめられている。

 日本の安全保障とも密接に関わっているアメリカ海兵隊が抑止力としていかに機能し、有事にはどのように戦うのか。ご興味をお持ちになった方に、お薦めしたい1冊だ。

 

 

 

Text & Photos:笹川英夫/アームズマガジンウェブ編集部

取材協力:U.S.MARINE CORPS 31st MEU

 

 

 

 

この記事は月刊アームズマガジン2023年8月号に掲載されたものから抜粋、再構成されたものです。

 

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