2025/11/11
昭和大好きかるた 時代を超えた普遍の良き「何か」を振り返る 第40回「り」
時代を超えた普遍の良き「何か」を振り返る
第40回
り
理科
令和となってはや幾年。平成生まれの人たちが社会の中枢を担い出すようになった今、「昭和」はもはや教科書の中で語られる歴史上の時代となりつつある。
でも、昭和にだってたくさんの楽しいことやワクワクさせるようなことがあった。そんな時代に生まれ育ったふたりのもの書きが、昭和100年の今、"あの頃"を懐かしむ連載。
第40回は、軍事フォトジャーナリストの菊池雅之がお送りします。
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小学生の頃、大人になった今よりも明らかに1日が長かった気がします。40歳を過ぎると、1年がたちまち短くなるから不思議なものでして。さらに50歳になると、「光陰矢の如し」を痛感します。1日は24時間、これは全人類共通のはずですけどねぇ……。
昭和キッズを夢中にさせた実験
小学生となると、ひとつの授業すら長く感じたものです。特に私は出来の悪い生徒でしたから、集中力は長続きせず、1時間目の途中からすでに飽き始め、放課後何をしようかと思いを馳せているような小学生でした。
そんな私が、時間を忘れるほど楽しかったのが、理科の実験でした。
実験のある日は教室から理科室へと移動します。ここからすでにワクワクの始まりでした。
実験と言っても小学生時代の話ですから、大したことはしません。
しかし、ガラス棒を右手に、左手でビーカーを取り、そこに水を入れただけでも、大興奮。この時、私だけでなくクラスメイト全員の頭の中に、偉大な科学者が浮かんでいたはずです。
アルコールランプに火をつける役割は大人気でした。このアルコールランプ、今では、知らない人もいるそうです。というのも、多くの教育現場で使用禁止となっているとのこと。
アルコールランプの構造は実にシンプルで、ガラス製の容器の中にアルコールが入っていて、そこからひも状の芯が伸びています。その芯は、毛細管現象でアルコールを吸い上げていき、芯先に火を近づけることで燃える仕組みです。
ガラス製である以上落としたら割れるし、もし火が付いた状態ともなれば児童の洋服や体に燃え移る可能性もある。これが禁止の理由だそうです。そのような事故にならないために火の恐ろしさや器具の慎重な取り扱いを学ぶのも教育のような気がしますが、今の時代はそうも言っていられないのでしょう。
アルコールランプを囲うように、三脚台がセットされ、その上にビーカーなどを置きます。たったこれだけの作業が楽しくて楽しくてたまりませんでした。塩を溶いた食塩水をアルコールランプの上でかき混ぜるだけで、何か大実験をしているような気分となったものです。
高学年になると実験用バーナーが使えました。火をつけるのを恐がる女子が多く、男子の本領発揮の場となりました。
当時、チャッカマンのような長いライターはなく、マッチで火をつけていた記憶があります。その際、ガス調節ネジを緩めすぎ、勢いよく火が付くと、なかなかの恐怖でした。
実験を終えると、バーナーを掃除します。ガス調整ネジ及び空気調整ネジをはずし、布巾で拭う程度の作業でしたが、これも楽しかったなぁ。
実験で培った技術がカメラマンになって役立つ!?
理科の授業程度とは言え、実験にのめり込み、その先をさらに知りたいと考えた子は、その後化学や科学、物理学へと進んでいくのでしょう。
ですが、私は、これら実験用器具が触れただけで満足したものですから、その先に進むことはなく、カメラマンとなりました。
当時のカメラマンは、自分でフィルム現像を行っていました。私の場合、最初に所属した写真週刊誌が基本モノクロページだったので、ほとんどモノクロフィルムで撮影し、自分で現像しました。出張先にフィルム現像器具を持って行き、ビジネスホテルの浴室で作業したこともあります。ネガにして目視で確認しないと、ターゲットが撮れたかどうかが分からないので、編集部に報告しようがなかったからです。
現像には、現像液や定着液などの薬品が必要となり、これらは自分で調合します。その際の温度管理はシビアで、なかなか大変でした。部屋に埃が舞い、ネガにのっかったり、最悪傷をつける恐れもあるので、暗室内で冷房は付けられず、夏場は地獄のような暑さでした。それこそパンツ一丁で作業したこともあります。
しかし、私にとってその作業は早めに終わりを告げました。2000年に入って、デジカメが出てきたのです。私は、2003年にニコンD1xというデジタル一眼レフカメラを購入し、フィルムと別れを告げました。以降、カメラマンの現像処理はPCで作業することになっていきました。
フィルム現像は大変でしたが、小学生の頃に経験したあのワクワク感はありました。ただし、そこは仕事。常に締め切りに追われる中、そうした手間のかかる作業は大変でしたし、「またやりたいか?」と問われると、もういいかも……。
TEXT:菊池雅之
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