2025/08/27
【ナイフダイジェスト WEB版】18 INTERVIEW:西村優一(山秀)インタビュー ナイフ文化を築き上げてきた岐阜県関市の老舗
こんにちは。「編集者&ライターときどき作家」の服部夏生と申します。
ホビージャパン社からは、刃物専門編集者として、主に刃物に関するムックや書籍、さらに25年9月号から『アームズマガジン』で「ナイフダイジェスト」という連載も始めさせていただいております。
ここアームズウェブでも、ナイフや刃物にまつわるお話を、幅広く紹介させていただこうと思います!!
◾️「『山秀』を訪問することが、岐阜県の関市を訪れる理由になるようなショップであり続けたいと思っています」
品揃えの豊富さと、ホスピタリティの高さでナイフファンから信頼と支持を集める「山秀」。
刃物の町・関で、1940年の創業以来「刃物一筋」を続けてきた老舗だが、、幅広い層のカスタマーからのニーズを読み取り、変化を続けてきた。
そんな山秀で、実店舗「世界のナイフショールーム」の接客からウェブサイトの運用まで、先頭に立って行っている西村優一さんに、ナイフショップとして心掛けていることから、これからのビジョンについて幅広くお伺いした。
月刊アームズマガジン10月号「ナイフダイジェスト・アームズマガジン版」の記事の深掘りインタビューだ。
ーー「山秀」は岐阜県関市のナイフショップとして、ファンの間ではよく知られていますが、改めて、どのようなお店か教えていただけますか。
山秀は1940(昭和15)年の創業以来、刃物の中でも「アウトドアナイフ」を専門に扱い続けてきている会社になります。現在は、店頭には常時1,000点以上の商品を並べています。海外のファクトリーナイフがメインですが、国産のカスタムナイフなど幅広いジャンルの商品を扱っています。
お客様には、ナイフ初心者からコアなファン。さらに、ナイフファンと一言で言っても、様々な層の方がいらっしゃいます。コレクターはもとより、ハンターをはじめとしたお仕事で使われる方、釣り人やキャンパーなど趣味で使われる方、普段使いする方…‥。
そういった幅広い層の方々がそれぞれ手に入れて楽しんでいただけるものを揃えること。先代(創業者の山田秀雄さん。優一さんの曽祖父にあたる)の頃から、ずっと意識しています。

ーー山秀さんといえば、1990年代後半にベンチメイドがクオリティの高い製品づくりで世界的に有名になるタイミングで、いち早く日本の正規代理店となり、現在に至るまで同社の数々の名作を扱ってきた実績があります。
私もタイムスリップしてその頃の熱気を見てみたいところです(笑)
ーー近年はジョーカーとムエラといった欧州のハンティング系のナイフファクトリーの製品を扱って、アウトドア愛好家たちから人気を得ています。
私はまだ山秀の仕事に関わる前なので、担当者に聞きました。その頃は、ファクトリーナイフに関しては、ベンチメイドをはじめとしたアメリカのブランドを主流に扱っていたのですが、当時アウトドア界隈で人気が出てきていた「ブッシュクラフト」向けのナイフに関しては品揃えがちょっと手薄だったのです。そこの需要をカバーするブランドを探していく中で、ドイツで開催されているアウトドア用品などの見本市IWAで、今おっしゃったファクトリーを見つけたことがきっかけでした。
ハンドルには天然素材を使っているところ、ブッシュクラフトに限定せずキャンプで幅広く使えるユーティリティ性があるところなども、私たちが求めるポイントに合致していたそうです。
今出てきたようなブランドとは、コミュニケーションをきちんと取れているという感覚があります。私たちのお客様のニーズに合致した商品はどのようなものか、などを伝えることもできているので、より充実した商品展開ができていると思います。
ーーオリジナルブランド「ブラックボア」をはじめとする日本のナイフ作家さんたちとコラボも最近は積極的に行っています。
ブラックボアは、和の鍛造技術を活かしたブレードと、洋のナイフのデザインで、ブッシュクラフトをはじめとするアウトドアで使いやすいモデルをというコンセプトで、オリジナリティーを出せたのではと思います。実際、お客様からも好評をいただいています。潜在的なニーズに対して、まさに「純度100%」のような製品を提供できた、プロデュースできた、ということは山秀の一員としてとても嬉しく誇らしいことです。
一連のプロジェクトは、元店長の小栗大輔さんが主導で進めていたプロジェクトです。「マック店長」として、お客様からも親しまれてきた小栗さんの存在は私にとってもとても大きなものです。何しろ、大学卒業後、彼がこれまで積み重ねてきた知見を一つずつ教えてもらったわけですから。今後も小栗さんとも協力関係を続けていきながら、ナイフ業界を盛り上げていきたいと思います!
ーー萩野力さんをはじめとする作家たちと、西村さんも密接な関係を築いていらっしゃいます。
荻野さんは常にこちらの想像以上の作品を生み出してくれる貴重な存在です。これからも彼をはじめとする作家さんたちとの協業をして、山秀の独自性を打ち出していきたいと思っています。
ーー個人的に山秀さんで包丁を購入した時の、お店の方の対応をよく覚えています。こちらの要望に添って幾つかの提案をしてくれたのですが、それ以上はあれこれ言ってこない。要するに、サポートはできる限りするけれど最終的にどれを買うか、あるいは買わないかを決めるのは客、というスタイルが徹底されているんだなと感じたんです。どんな人にも対応できる要を得た接客は、山秀さんの特徴だと思うのですが。
ありがとうございます。ファンだけでなくナイフ初心者の方でも安心して選べるようなお店の雰囲気づくりには気を配っています。山秀はナイフの専門店。やはり日用品とか飲食店などとは違って、初めての方には入店するだけでも勇気がいるような要素はあるんですよ。だからこそどんな方に対しても、やわらかい笑顔でお迎えすることは意識しています。特に初心者の方に対しては、たわいもない雑談などをしながら「どんな用途で使ってみたいですか?」と言ったヒアリングをすることも心掛けているところです。
お客様とのコミュニケーションは、私たちにとって、とても大事なものです。学ばさせていただくことも多いんです。
例えば、この前は、ハンティングを長く続けていらっしゃる方から、バックの110(ワンテン)が、1970年代に日本で紹介され出した頃に、いかにエポックメイキングなモデルだったか、憧れの存在だったか、といったことを教えていただきました。実際に体験されたお話をお伺いできることで、私も、ナイフの世界における「ワンテン」の価値の高さを改めて確認できました。
プロフェッショナルやベテランの方々にもより適切なナイフのご提案もしていきたいとも思っています。
先日、お客様のハンティングに同行させていただく機会に恵まれました。獲物の解体も体験させていただいて、ナイフの重要性を実感することができました。そうやって自らも経験する機会は大事にしていますし、お客様のご親切に深く感謝しています。そういった関係をこれからもしっかり築いていきたいと思っています。
ーー話は変わりますが、西村さんは大学卒業後に家業に入られました。どのようなきっかけで入られたのですか?
将来的に継ぐことはなんとなく意識はしていたのですが、学生時代はそこまで真剣には考えていなかったように思います。
ただ、コロナ禍で大学へ通学できなくなった時期が長かったんですよね。ひとまず東京から実家に戻ってきたのですが、アルバイトを探すのも大変で。
そんな時に、現社長である母から商品の撮影や動画撮影の手伝いを提案され、始めたことがきっかけでした。あれこれ試行錯誤して、SNSも運営するようになっていく中で、ブランドの歴史やものづくりの実像とかが自分なりに見えてくるようになって、ナイフの世界の奥深さを感じるようにもなりました。そうしていく中で「早いうちにナイフに関わりたい」と考えが固まってきたんです。もちろん家族にも相談しましたが、最後は自分で決めて、大学卒業後に山秀に入社しました。
ーー近年の山秀はウェブでの展開にも力を入れているように感じていたのですが、そこには西村さんの存在があったんですね。
もちろんウェブ制作会社さんをはじめとする協力してくださる方々あってのことではあります。ですがホームページ、SNS、動画投稿サイトといったインターネットを活用した発信には力を入れています。オンライン上でも実店舗と同じように丁寧な「接客」ができれば、と考えています。
先ほどもお話ししましたが、コロナ禍だったので私が最初にお客様と接したのがYouTubeのコメント欄だったということも、ウェブにも力を注いでいくきっかけかもしれません。コメントをいただくことがとっても嬉しかったんです。最近も、海外からのお客様がウェブに「とてもいい店だった」と口コミ投稿してくださっていて、すごく嬉しかったですね。
ーー今後、山秀はどのように変わっていくでしょうか?
当たり前のことですが、今のお客様たちとの信頼関係を大切にすることが一番です。今までと変わらない品揃えはもとより、ショーや各種のイベント開催なども続けていきながら、今までのお客様に引き続きご愛顧いただけるような店づくりをしていきたい。「山秀」を訪問することが、岐阜県の関市を訪れる理由になるようなショップであり続けたい、と思っています。
その上で、新たな層の方々にもナイフの魅力をアピールしてきたいですね。海外のショーなどで新しい情報を常に仕入れながら、新しい商品やブランドをご紹介しながら、さらに「面白い」店にしていきたいです。そのためには、イベントも今まで以上に積極的に開催していきたいです。また海外からの問い合わせが増えてきているので、海外からのお客様のご要望にもお応えできる体制を整えていきたいです。
ーー昨年、店舗に併設してオープンした「cafe sun」も好評です。
ナイフショップがカフェをやるって、ちょっと変わっていますよね(笑)。にもかかわらず、好評をいただいていて素直に良かったなと感じています。
山秀は、85年間ご近所の方々にも協力していただきながら続けてきたお店だと、私たちは思っています。「そんな町の方々が集ってひと息つけるような、居心地のいい場所をつくりたい。それが、関という町がより盛り上がる一助になれば、なお嬉しい」という社長の思いがきっかけとなって生まれたんです。
実際、このカフェがあることで、より親しみやすいお店になってくれることも期待しています。このカフェスペースを使ってファンミーティングを開催したりもしますが、女性や初心者といった方々も、来てくださって楽しんでいただけたりもしているので、そういった意味でも良い相乗効果は出ていると思います。
ーー商品を提供するだけにとどまらず、刃物があるライフスタイルの提案もしていく。そんなコンセプトをベースにますます進化していこうという強い思いを感じます。
ありがとうございます。アウトドアブームなどもありましたが、より本質的な「ナイフ」への潜在的な需要はまだまだあるのではと感じています。 そういったニーズに素早く対応するためにも、海外の最先端の情報を仕入れることは特に意識しています。
以前から、アメリカの ブレードショーやショットショー、ドイツのIWAショーなどに直接足を運んできましたが、インターネットを活用しながら、よりきめ細かく情報をチェックしていくようにしています。海外の専門家たちのレビューなども参考にしています。日本人である我々の感覚とは少し異なると感じることもあるのですが、その違いはどこにあるのかを分析して、実物を手にすることで、より正確に商品のポテンシャルを把握したいと考えています。
その上で、先ほどもお話ししたように、日本の作家さんたちのコラボをはじめとした新たな試みもしていきたいです。ぜひ、これからの山秀に注目してください!
山秀 岐阜県関市西境松町46 |
*ナイフはルールを守って安全に使用しましょう。
構成:服部夏生 写真:渡辺干年(HOBBY JAPAN)
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