2025/07/04
「LIMA2025」 マレーシア有数の観光地であるランカウイ島で行われた海空合同の軍事見本市
海空合同の軍事見本市「LIMA」

2年に1度、マレーシア有数の観光地であるランカウイ島にて、海空合同の軍事見本市「LIMA」が開催されている。エアショーとして有名ではあるが、海上パートにおいては、知る人ぞ知る警察の特殊部隊が参加する大規模なデモンストレーションも行われている。
サバ州では、日々テロリストや武装ゲリラとの戦いを繰り広げている硝煙の匂い漂う特殊部隊の姿を軍事フォトジャーナリストの菊池雅之が追った。
2025年5月20日から24日まで、マレーシアのランカウイ島にて、国際海事航空見本市LIMA2025(Langkawi International Maritime and Aerospace Exhibition 2025)が開催された。隔年開催されているイベントであり、今回で17回目を数える。
メイン会場となるのは島内にあるランカウイ国際空港だ。ターミナルに隣接する施設内を屋内展示エリア、エプロン地区を屋外展示エリアとして使用する。そして空港上空では、マレーシア空軍や他国空軍によるエアショーが行われる。
今回注目したいのは、この会場とは別の場所で行われる「Maritime Segment」だ。ランカウイ島の南西にあるリゾーツワールドランカウイホテルやクルーズ船発着エリア周辺が会場となる。ここは、海軍や警察、消防、海上法令執行庁MMEA、税関等による展示エリアだ。海に面しており、そこを使ったデモンストレーションが行われる。それも、各機関の特殊部隊が大集合する、世界でも珍しい訓練展示が繰り広げられる。
マレーシア警察を代表する特殊部隊となるのが、VAT69コマンドだ。VATとは、Very Able Troopersの略で、“優秀な部隊”を意味する。こちらは、多くの人がイメージする警察特殊部隊というよりも軍隊が編成する特殊部隊に近い任務に当たる。





設立は、1969年のこと。マレーシア警察は、ペラ州での共産ゲリラの制圧を目的とした警察野戦部隊PPH(Pasukan Polis Hutan:パスカン・ポリス・フータン)を作ることにした。設立に当たり、マラヤ連邦でも活動していたイギリス陸軍第22特殊空挺連隊SASを参考にした。早速PPH初期メンバーを教育するため、SASから指導官を招聘。あまりの厳しい訓練のため、60名のうち30名しか残らなかった。
その後PPHは、設立年に因んだVAT69と改名した。1970年には第2次マラヤ非常事態の際に、マラヤ民族解放軍MNLAと戦い、無力化に成功、大量の武器を押収した。
もう1つの警察特殊部隊が、UTK(Unit Tinda khas)だ。クアラルンプールの本庁内に司令部を置き、主として要人警護や対テロ特殊任務を行う、世界標準の警察特殊部隊だ。創設されたのは1975年のこと。
最初の出動となったのが、日本赤軍による「マレーシア事件」だった。1975年8月4日、日本赤軍に所属する5名が、武装してクアラルンプールにある複数の大使館が入居していたAIAビルを襲撃した。そして、米国領事とスウェーデン臨時代理大使、職員等約50名を人質に取り、日本政府に対し、服役中の7名の活動家の釈放を要求した。これに対し、すぐさま人質奪還のための特殊作戦が計画されるが、日本政府は日本赤軍と交渉を始めたため、特殊作戦は中止となる。結末は「超法規的措置」として、活動家の釈放(一部)を認め、犯人たちはリビアへと逃亡した。
その後、UTKは、イギリスSASやドイツGSG-9などを参考に、部隊や装備の整備を進め、高度な訓練を重ねていく。






この2つの警察特殊部隊は、それぞれ別系統で運用されていたが、より効率化を目指すべく1997年に設立されたマレーシア警察特殊作戦司令部、PGK(Pasukan Gerakan Khas:パスカン・ゲラカン・カース)に集約された。より軍事作戦に近いケースにVAT69、ハイジャックや立てこもり事件などに対処するのがUTKというざっくりとしたすみ分けがある。
対ゲリラ掃討任務に当たる準軍事組織GOF(General Operations Force)がある。PPHの一翼を担い、軍隊で言うところの歩兵科に当たる任務に就く。1948年から60年の間に起きたマレー緊急事態の際、一般警察官を集めて戦ったのが始まり。1997年にGOFを設立し、その中の警察戦術部隊として22個のタイガー小隊が編成され、マレーシア全土に配置されている。
一番新しい警察戦術部隊が、2006年にマレーシア海上警察に設立されたUNGERIN(Unit Gempur Marin)だ。マラッカ海峡の海賊対処を目的として、海上警戒部隊を設立。翌年よりUNGERINとなった。設立に当たり、日本から資金援助及び訓練を受けており、海上保安庁特殊部隊SSTとの交流もある。
海上訓練では、VAT69を中心にUTK、そして警察戦術部隊であるタイガー小隊やUNGERINと共同した対テロ海上制圧及び人質奪還作戦が展開された。高速複合型ボートを使った強襲、ヘリからの狙撃、さらには水中スクーターを使った水中機動により、敵ゲリラを追い詰めていった。
警察パートとは別に、海上法令執行庁MMEAによる海上訓練も行われた。想定された状況は、警察パートと同様に海賊対処だった。MMEAは、2005年に設立された。米沿岸警備隊や日本の海上保安庁の支援を受け、組織を整備していった。この中で、海上保安庁は、巡視船「えりも」と「おき」を無償供与している。






MMEAにも特殊部隊が編成されている。それがSTAR(Special Task and Rescue)だ。ただし、独自のチームではなく、マレーシア空軍特殊部隊PASKAU(Pasukan Khas TUDM)とマレーシア海軍の特殊部隊PASKAL(Pasukan Khas Laut)のメンバーで構成されている。沿岸域ではSTARとして、外洋ではそれぞれの軍特殊部隊として任務を遂行するというすみ分けがなされている。ゆくゆくはMMEA独自に特殊部隊を保有したい考えがあるようだ。なお、2017年より、国際的な名称であるマレーシア沿岸警備隊へと改称することを決めた。しかし、現在も事実上MMEAと呼ばれている。
さらに、ランカウイ島の南側には、マレーシア海軍艦艇を中心に、ロシア、インドネシア、イタリア、バングラディシュ、タイ、トルコ、アメリカ、日本の艦艇が洋上で錨を打ち、沖留めで停泊。20日は停泊式観艦式を実施した。なお海上自衛隊はFFM5「やはぎ」を参加させた。この観艦式もLIMAでは恒例となっており、多くの海軍艦艇が招待されている。



LIMAのMとAは、“Maritime and Aerospace(海と空)” から取られてはいるが、実は“空”パートに当たる、エアショーの認知度の方が非常に高い。ランカウイ国際空港を舞台に、マレーシア空軍機をはじめとして、海外のアクロバット飛行チームが連日フライトを繰り広げる。
マレーシア空軍の主力戦闘機が、米製のF/A-18Dホーネットと露製のSu-30MKMフランカーである。東西両陣営の機体を運用しており、なかなか珍しいカットが撮れると話題となっている。
今回もそうであったが、例年、午前と午後の2回のフライトが実施される。1回のフライトは1時間半ぐらい。しかし、残念なことに、会期中毎日スコールとなった。激しい雨は1時間もすれば止むのだが、運悪くフライト中に重なり、ほとんどの機体が飛ぶ事なく終わってしまった日もあった。
エアショーでの注目は、マレーシア国旗を背中にいっぱいに大きく描いたSu-30MKMだ。コールサインは“UDARA01”。この背中を狙い、世界中から飛行機マニアが大集合。会場内よりも外側の方が機体を捻った際の距離が近いので、望遠レンズを抱えた猛者たちは、敢えて外柵の外で撮影していた。
また、マレーシア空軍第18飛行隊のF/A-18Dでもスペシャルマーキングが登場。これは、同飛行隊の創立25周年記念を祝うため。機体全体に黄色いラインが引かれ、垂直尾翼には稲妻が描かれていた。こうしたことからこの機体に“ピカチュウ”のニックネームが与えられた。そしてパッチやTシャツにも「Pikachu」の文字や、そのままキャラクターが描かれていた。
そして海外からは、ロシア空軍のアクロバットチーム「ロシアン・ナイツ」とインドネシア空軍のアクロバットチーム「ジュピターズ」が参加。本来ならばもう一つ、インド空軍のアクロバットチーム「スリヤ・キラン」も参加予定であったが、LIMA開催直前に、パキスタンと一色触発の紛争危機に見舞われたため、キャンセルした。


Text & Photos:菊池雅之
この記事は月刊アームズマガジン2025年8月号に掲載されたものです。
※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。