エンタメ

2025/05/02

S&Wパフォーマンスセンターの基礎知識 ~スミス&ウェッソンのファクトリーカスタムガン部門であるパフォーマンスセンターについて~

 

 

スミス&ウェッソン パフォーマンスセンターの基礎知識

 

 

 スミス&ウェッソン(以下S&W)のファクトリーカスタムガン部門であるスミス&ウェッソンパフォーマンスセンター(以下SWPC)。SWPCの話をする前に、SWPCが設立されるきっかけとなった1980年代後半から1990年代前半のアメリカにおけるアクションシューティングマッチ事情について話をしなければならない、1980年代に入り、ビアンキカップやスチールチャレンジ、IPSCといったハンドガンを使ったアクションシューティングマッチがアメリカ各地で開催されるようになった。

 特にIPSCと、そこから発展したスチールチャレンジは、当初は実際のガンファイトを意識した実戦的なものだった。しかし、徐々に競技的要素が濃くなるにつれてスポーツ化していき、ガンメーカーやアクセサリーメーカーからのスポンサードを受けてシューティングマッチに参加するプロシューターが登場し始めた。この流れを利用して盛んに広報活動を行なったのが当時新興メーカーだったスプリングフィールドアーモリーだ。当時多くのシューターをスポンサードしたことがきっかけで、同社は現在の地位を確立したといっても過言ではない。


 スプリングフィールドアーモリーをはじめとした多くの企業が参入して盛り上がりを見せるアクションシューティングマッチに、ついにアメリカを代表するメジャーメーカーが参入することになった。それがS&Wだ。リボルバーのイメージが強い同社は、オートマチックピストル、特にガバメントモデルが主流のアクションシューティングマッチでは同社のリボルバーやオートマチックピストルを使う人は極少数だった(リボルバーが主流だったビアンキカップだけは例外)。

 そんな中、同社はトップシューターで構成されたシューティングチーム「チームS&W」を結成。S&W製のオートマチックピストルやリボルバーをベースにしたカスタムガンでアクションシューティングマッチに参戦し始めた。

 

設立されたばかりのパフォーマンスセンターを取材した記事が掲載されている1991年8月号。表紙はチームS&W用に作れたスチールチャレンジ用レースガンだ

 

軍・法執行機関向けのモデルをラインアップし始めた頃のパフォーマンスセンターのカスタムガン「PC TAC-9」が掲載された1995年7月号

 

市販直前のモデル945が掲載された1998年5月号。当時アームズマガジンとパフォーマンスセンターとのつながりは強かった

 

 このチームS&Wの結成にあわせるように進行しつつあったのがファクトリーカスタム部門「パフォーマンスセンター」の設立である。チームS&W用に優れたカスタムガンを供給しつつ、そこでプルーフされたアイディアやテクノロジーを量産品にフィードバックするというのが目的であった。そして1990年、ついにSWPCが開設された。

 マスターガンスミスは2人招聘され、ひとりはパックマイヤーカスタムショップを経てピストルダイナミクスを設立し、日本でも有名な「センチメーターマスター」を作り上げた南アフリカ出身のポール・リーベンバーグ。もうひとりがベンチレスト用高精度ライフルやリボルバーのカスタムで知られたジョン・フレンチだった。1990年の設立当時は年間の生産数は1,200挺、その内40%がオートマチックピストル、60%がリボルバー、チームS&Wをはじめとしたアクションシューティング用カスタムガンが50~60挺ほどだったという。


 オートマチックピストルは当時主流だった4006をベースにしたものと、フレーム/スライドともにまったく新規に開発・製造されたものが用意された。特に後者はガバメントモデルのようなシングルアクショントリガー/フレームマウントセーフティを採用し、後に登場するモデル945の原型となった。リボルバーはアクションシューティング用からハンティング用、コンシールドキャリー用など、さすがリボルバーメーカーらしい製品が用意され、現在もSWPCのラインアップに残されているものが多い。

 

パフォーマンスセンターの傑作コンパクトオートであるShorty.40(PHOTO:SHIN)

 

理想のコンシールドキャリーリボルバーを目指して作られたModel19 Carry Comp(PHOTO:SHIN)

 

S&Wがガバメントモデルのようなオートマチックピストルを作ったことで話題になったモデル945(写真はKSCのガスブローバックガンM945デュアルトーンモデル)


 こうした銃本体の製造やカスタムと同時に行われたのが新型カートリッジの開発である。現在も流通している.40S&W弾はSWPC設立とほぼ同時期に生産が開始された。開発にあたってはポール・リーベンバーグが関わり、「月刊アームズマガジン2025年5月号」の70ページでSHINがレポートしているShorty.40がSWPCの手によって誕生した。一方、IPSC用として開発された.356TSW弾は、9mm口径のメジャーファクター弾として開発され、その弾と同時にSWPCが独自開発したPC356も市販されたが、広く流通することはなかった。


 チームS&Wの解散やジョン・フレンチの離脱などを経て、1990年代半ば以降は民間市場だけではなく軍・法執行機関向けのオートマチックピストルの製造、.45ACP弾を使用するモデル945の開発・製造に力を入れた。そして2000年以降、S&Wの経営体質の変化とともに設立当初のR&D的な役割は終えてセカンドライン的な位置づけへと変わっていく。サードジェネレーションオートやモデル945といったSWPC独自のオートマチックピストルの製造はなくなり、S&W版ガバメントモデルであるSW1911やポリマーフレームオートM&Pをベースにしたカスタムガンを製造することになる。

 リボルバーはモデルS&W500をベースにしたハンティングカスタム、YouTubeで有名なジェリー・ミキュレックが使用するアクションシューティングカスタム、SWPCの設立当初から発売されているシングルポート付きのコンシールドキャリーカスタム、さらに過去に発売された傑作モデルのリバイバルなど、リボルバーメーカーの強みを生かしたモデルがラインアップされている。

 

S&W版のガバメントクローンモデルSW1911をベースにしたカスタムガン( 写真はB.W.C.のモデルガン・スミス&ウェッソンSW1911PC)

 

東京マルイがガスブローバックガンで再現したM&P 9L PCポーテッド(PHOTO:Yasunari Akita)

 

「686PLUS」は、Lフレームリボルバーをベースに、IDPAやUSPSAのリボルバーディビジョンを念頭に開発されたコンペティションモデル(PHOTO:SHIN)

 

 

TEXT:毛野ブースカ


この記事は月刊アームズマガジン2025年5月号に掲載されたものです。

 

※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

Twitter

RELATED NEWS 関連記事

×
×