ミリタリー

2025/04/26

中東最大の軍事見本市「IDEX2025&NAVDEX2025」

 

IDEX2025&NAVDEX2025

 

 中東最大の軍事見本市IDEX2025&NAVDEX2025が開催された。出展企業数が多く、かつ会場も広いことから、すべて見て回るには3日でも足りないほどの規模に圧倒されてしまう。軍事フォトジャーナリストの菊池雅之が現地取材を敢行!! 特筆すべき兵器を写真と文章でご紹介していこう。

 

ロシアの主力戦車であるT-90の輸出版であるT-90MS。もともとインド陸軍へ輸出すべく開発された車体をさらにアップグレードしたもの。新型爆発反応装甲、遠隔操縦式搭載機関銃、そしてシステムのアップデートなどに加え、ウクライナ侵攻での教訓から対ドローン攻撃等からの生存性を高めた改造を施した

 


 

 アラブ首長国連邦の首都アブダビで、2025年2月17日から21日までの間、中東最大の軍事見本市である「IDEX2025&NAVDEX2025」が行われた。2年に一度の開催となっており、UAE大統領およびUAE軍最高司令官が主催する紛れもない国家行事だ。なお、「NAVDEX」は「IDEX」に付随するイベントとなっている。
 会場となっているのは、見本市や国際会議用に作られた日本で言うところの「幕張メッセ」に当たるADNECセンターだ。陸上の広い敷地の他、海から続く入り江に面したマリーナエリアがある。そこには長い岸壁があり、中型艦艇ならば入港できる。そこに各国海軍艦艇を横付け、さらに屋内パビリオン用スペースを設け、ここをNAVDEX会場としている。


 今回は、65カ国から1560社を超える企業が参加した。煌びやかに照らし出された各企業ブースでは、スーツ姿のセールスマンたちが、商談に忙しい。屋内外の展示スペースには、戦車から装甲車、そして小銃火器といった大小数々の兵器をはじめ、ミニマムなところでは“ネジ”1本までの幅広いラインナップが並ぶ。

 

ウクライナのキエフにあるウクルスペッツエクスポート社のドローン「CHAKLUN-K」。2000個以上の敵を撃退とのキャッチコピーを掲げていた

 

NORINCO社の攻撃型ドローン「CR-3A」。最大6発の手りゅう弾を搭載し、敵の陣地等に投下する簡易の爆撃型。民生品ドローンの延長にあるような作りで、操作性も良さそう

 

カナダのセキュリティ会社であるインカス社は、防弾仕様のサイバートラックを展示。軍用の装甲車を作る会社だが、こちらは民間用としての需要が高そうだ

 

アメリカのアルキメデスディフェンス社は、サイバートラックの防弾装甲化したシリーズ「スティング」を展示

 

 今回の「IDEX」では、全体的に無人兵器の展示数が多かった。それも陸海空様々なフィールドで活動できる、多種多様なもの。地元UAEのEDGEグループは、会場中央でかなりの面積を確保し、多くの無人兵器を展示していた。これも時代の流れなのだろう。
 スペースは小さかったもののウクライナのウクルスペッツエクスポート社が小型の自爆型ドローン等を展示し話題となっていた。今まさにウクライナはロシアの侵攻に立ち向かうため戦火を交えており、実戦のノウハウを持っているのがセールスポイントだ。事実毎日のようにロシア軍に対し成果を挙げており、その様子はSNS等で公開されている。「ロシアに対し、2000回の攻撃を成功させた」とキャッチコピーを掲げていたドローンもあった。


 そして、ウクライナと戦うロシアも負けじと出展。ロステック社はロシア軍の主力戦車であるT-90MSを展示した。この戦車の元となったT-90は、1992年にロシア軍に採用されており、それを輸出用にアップデートしたのがT-90MSとなる。初期型のT-90MSは、2011年頃に完成したものであり、決して新装備ではないが、注目を集めた理由は、ロシアが3年にも渡るウクライナでの痛い教訓を反映した戦車だからだ。


 ロシアは、ウクライナとの戦いで、179両のT-90を失った。その多くが攻撃型ドローンによる自爆を含めたウクライナの猛攻による損失だ。そこで自爆ドローンに対処すべく、砲塔上部をスクリーンで覆い直接車体に爆破の衝撃を受けない処置をした。接近する前に電波妨害等をしかける対ドローン電子戦システムも追加搭載されているという。また砲塔や車体側面等には、爆発反応装甲ERAパネルを増設。これにより敵のロケットが車体に命中する前に、ERAを爆破することで誘爆させることが出来る。そして、アップデートされた照準システムは、3㎞先の敵も識別できる。守りだけでなく攻撃もレベルアップを果たした。

各社も小銃火器を展示したが、カラシニコフ社の軽機関銃RPL-20は、まだまだ珍しさもあり注目を集めた。5.45mm弾を使用し、発射速度は毎分600発を誇る。分隊支援火器としてロシア軍だけでなく輸出にも力を入れていく

 

オーストリアのステア―社の大口径狙撃銃HS.50M1。12.7mm弾を使用する単発ボルトアクションライフル。レシーバーの左からマガジンを差し込んで給弾する。有効射程は1.5km

 

ウクライナのウクルスペッツエクスポート社ブース。大型の兵器はなかったが、各種ドローンは充実

 

中東にしては露出度の高いコンパニオンを配したロシアのロシアンヘリコプターズ社。中東では知名度の高い会社だ

 

イスラエルのオムニシス社のブース。「実戦で20年に渡る実績」がキャッチコピー。その点はさすがイスラエルだ

 

IDEX会場中央の1番人が集まる場所には地元UAEのEDGE社がブースを開設。主としてUAVを展示。写真は攻撃型UAV「JENIAH」。7mタイプと11mタイプがある

 


 

屋外展示エリアに並べられたKNDSフランスの装備。目玉はルクレールXLR。フランス陸軍で配備が始まったばかりの新装備。UAEはルクレールを配備するが、その後継としてこのXLRを検討している

 

ジョン・コッカリル・ディフェンス社の4×4防護偵察車i-X。車上には対空用機関砲を装備。小型で機動力があるのが特徴であり、不整地でも活躍が期待できる

 

トルコのオトカル社が開発した歩兵戦闘車タルパーは、車体を共通プラットフォームとして、派生型をいくつか生み出した。写真はイタリアのレオナルド・オットーメララ社製120mm砲を搭載した軽戦車バージョン

 

 KNDSフランス社は、ルクレール戦車の最新モデルXLRを持ち込んだ。これまでフランス国内で展示されたことはあるが、今回が中東での初公開となる。というのも、UAE陸軍では主力戦車としてルクレールを採用している。また同じく中東のヨルダンにおいても主力戦車だ。さらにカタールは中古のルクレールの購入を検討している。このように、需要が高い地域であるが故のセールスだ。そんな中で、UAEは、このXLRの配備を検討しており、フランスからわざわざ海を渡って持ってきた価値は十分にある。
 このXLR最大の特徴は、スコーピオン戦闘情報システムだ。敵の捜索から攻撃までをAIがアシスト。また友軍戦車間でのネットワークだけでなく、タレス戦術無線システムやコマンドシステムと統合し、指揮所や各部隊とも繋がる。射撃管制システムも新しくなり、走行間の射撃精度も向上。砲塔に取り付けられた7.62mm機関銃は、遠隔操縦システムを採用した。


 中国は、NRINCOをはじめとした兵器メーカーが無人機や小型車両など幅広く展示。その中には装輪式の自走155mmりゅう弾砲SH16Aがあった。2023年頃に完成し、中国陸軍で運用を開始した模様。これだけの巨大な砲ながら、2名で運用できるという。

 実は、ウクライナ戦争以降、長距離まで砲弾を飛ばして、点ではなく面を制圧できるりゅう弾砲の需要が高まっている。それを受けて、中国同様に自走155mmりゅう弾砲を展示した企業はいくつもあった。
 

中国NORINCOのSH16A装輪式自走155mmりゅう弾砲。重量32t。時速90kmで移動が可能。15秒で3発を発射するバーストモードがある。最高発射速度は毎分8発。車長と操縦手の2名で、展開から射撃まで可能

 

チェコのエクスキャリバーアーミー社による155mm自走りゅう弾砲「モラナ」。TATRA8×8トラックの後部に巨大な砲塔を載せたデザイン。2022年頃よりセールスを開始した。武骨なデザインが軍用車両らしさを醸し出す

 

UAE陸軍が配備する戦闘装甲車ラブダン。トルコのオトカル社アルマ8×8装甲兵員輸送車にBMP-3の砲塔を載せ、装甲戦闘車とした。このような改造を施した国は他にはない

 

 小銃火器についても、各社ご自慢の新製品から定番製品までいろいろと展示されており、中でもロシアのカラシニコフ社の軽機関銃RPL-20は、メディアも大きく取り上げていた。ベルト給弾のオープンボルト式全自動軽機関銃となっており、PK機関銃と小銃の間を埋めるコンセプトだ。2020年頃に初公開され、現在も運用試験を重ねている。


 今回取材して感じたことは、やはり兵器は日々進化しているということ。それも世界のどこかで戦争があれば、そこで得たデータを素早く反映させ、新たな兵器を作っていき、需要ある所へと販売していく。
 こうしたことから軍事産業は“死の商人”と呼ばれるわけである。


 メディア等では、こうしたネガティブな面がクローズアップされてしまうが、この会場にあるものは、科学技術の先端を行く工業製品という一面でもある。世界の頭脳が作り上げた工業製品としてみると、これだけ一堂に介する機会は貴重であるとも言える

 


 

会期中の2月19日に就役した「アルタフ」(写真右)。プロジェクトネームFalaj3の1番艦である。その隣に横付けされているのが「ラブダン」。小型の哨戒艇だ。この2隻ともステルス化された船体が特徴

 

参加艦艇リスト

バーレーン海軍アル・マナマ級コルベットP50「アル・ナマナ」
イギリス海軍ハント級掃海艇M34「ミドルトン」
インド沿岸警備隊スマース級12「ショール」
パキスタン海軍ヤルムーク級コルベットF271「ヤルムーク」
オマーン海軍アル・オフェク級哨戒艦Z21「アル・シナス」
UAE海軍Falaj3級哨戒艦P163「アルタフ」
UAE海軍FA-400級哨戒艇「ラブダン」
アブダビ環境庁海洋調査船「ジョイウン」
UAE沿岸警備隊シュジャー級P5004「ヤッザ」

 

 岸壁に面したADNECセンター・マリーナエリアでは、「NAVDEX2025」として、屋内及び屋外展示エリアが設けられていた。
 観覧席を設けたエリアがあり、その前では、実際の小型舟艇を使ったデモンストレーションが連日繰り広げられた。消防艇による放水デモから軍や警察で使用される特殊舟艇による機動航行デモなどが行われていた。


 目を引いたのは、地元UAEのアクスムマリーン社が製造している装甲特殊艇チェイサーだ。全長や排水量の違いによるバリエーションがある。中東地域は、テロリストによる小型船舶を使った襲撃事件や自爆テロが相次いでおり、こうした小型でスピードの速い特殊艇の需要が高い。そこで、アクスムマリーン社以外にも数社がいろいろな特殊舟艇を展示していた。

 

UAEのアクスムマリーン社が製造している50ノット近いスピードを誇る装甲特殊艇「チェイサー」。派手な高速航行デモを披露。全長や排水量が異なるバリエーションがある

 

ロッキードマーチン社のブースでは、海上自衛隊向けイージスシステム搭載艦ASEVの模型が初公開された。ASEVは、SPY-7を搭載し、1万3千トンもの大型な船体を持つ。ASEVのコンセプトを他国へと売り込んでいきたいようだ


 そして、大きな話題となったのが、「NAVDEX」会期中である2月19日にUAE海軍へと引き渡されたFalaj3級哨戒艦P163「アルタフ」だ。プロジェクトネームFalaj3として、2021年5月にアブダビ造船所ADSBがUAE海軍から受注し、約9億5千万ドルで4隻を建造することが決まった。その最初の1隻となったのが、2025年1月14日に進水した「アルタフ」だった。世界が注目する軍事見本市の中で就役すると言うのは、UAE海軍にとっても、企業にとっても、これ以上はない宣伝だ。


 その「アルタフ」に横付けされていたFA-400級哨戒艇「ラブダン」であるが、なんと2024年11月に起工したばかり。「NAVDEX」に間に合わせるため、4か月あまりで建造するという驚くべきスピード。現状は進水したばかりで、就役はもう少し先になると言う。

 

オマーン海軍のアル・オフェク級哨戒艦の2番艦Z21「アル・シナス」。満載排水量1,100tと小型の船体に、オットーメララ社製76㎜速射砲を1門、同社30㎜ RWSを2門搭載

 

消防のデモンストレーションで登場した空中消火員。マリンレジャーでお馴染みのフライボードを応用したもの。俄かには信じられない消火方法だが…

 

 

Text & Photos:菊池雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年6月号に掲載されたものです。

 

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