2024/09/22
【実銃】フランス特殊部隊にも採用されたスナイパーライフル「AX308, AX338, AX MkIII」【前編】
ACCURACY INTERNATIONAL
AX308,AX338,AX MkIII
フランスのスナイパーライフルといえば、FR F1/F2やPGMウルティマラティオなどが有名だ。しかし、時代は変わった。フランスはもはや自国製にこだわってはいない。アキュラシーインターナショナルAXの納入が現代のフランス特殊部隊で始まっている。
昨年発表されたライトマシンガンFN EVOLYS。これの実機取材と射撃をFNハースタルに申し込んでいるのだが、なかなかGOサインが貰えない。発表された直後の担当者の話では、年内(2021年)には実施できるということだった。試射はFN本社に行くか、フランス国内にあるFNのディストリビューターで行なう…というところまで話は進んだ。その後、フランス国内に1挺入ってきたが、軍でのテストが始まってしまい、撮影はお預けなった。かつてFNを初めて訪問取材するとき、そこに辿り着くまで8年も掛かったという経験がある。そんな前例があるので、ここは気長に待つしかない。FNは半分ベルギーの国営企業だ。世に出す以上、その製品は国のお墨付きということになる。そんなこともあって新製品の公開には慎重になるのかもしれない。実際、FNの製品は発売後のトラブルが本当に少ない。
FN製品のフランスにおけるディストリビューター、TR Equipement社とも何度もやりとりをした。ここはFN専門というわけではなく、他社の製品も取り扱っている。特に特殊部隊とのつながりが強く、フランス国内の特殊部隊が必要とするものなら幅広く扱う。ミニガンM134のDillon Aeroとか、スイスのB&T、ドイツのRheinmetall(ラインメタル)などもここが代理店だ。
EVOLYSの撮影許可がなかなか出ないということで、それなら最近特殊部隊が採用したAccuracy International(アキュラシーインターナショナル:AI)の撮影はどうか?という話になった。そういえばAIのライフルはなかなか撮影する機会がないどころか、兵器ショー以外で撮影したことはこれまで1度もない…と言うことで今回はAIのスナイパーライフルを取材することになった。
フランスの特殊部隊が採用していたスナイパーライフルというと、フランス製のFR F1/F2が真っ先に思い付く。ベースは戦前のFusil Mle 1936(フュジューM1936)だ。FRとはFusil á Répétition(フジュー・リピティティオン)の略でボルトアクションを意味する。今でもフランス軍の一部では使用されているようだ。それ以外では、やはりフランス製のPGM Ultima Ratio(ウルティマ・ラティオ)だろう。高精度かつフランス製ということで特殊部隊に採用されたが、これはかなりの高価格製品でその数は限られている。
現在のフランス特殊部隊は必ずしもフランス製にこだわるわけではなく、フィンランドのTikka(ティッカ)T3 タクティカルやドイツのBlaser(ブレイザー)R93タクティカル、同じくBlaserのLRS2などを使用している。そこに新たに加わるのがAccuracy International(アキュラシーインターナショナル:AI)のAX308だ。
Short History of Accuracy International
Satoshi Matsuo
アキュラシーインターナショナル(AI)はISSF系競技シューターのMalcolm Douglas Cooper(マルコム・クーパー:1947-2001)によって1978年に設立された小規模な競技関係用品のディストリビューターだった。やがてDave CaigとDave WallのC&WProductsが加わり、競技ライフルのカスタムや設計を開始する。同社を一躍有名にしたのは、1985年にイギリス軍が既存のスナイパーライフルL42A1の後継モデルとしてAIのPM(Precision Marksman)を選定し、これがL96A1として採用されたことだ。
同社の歴史を語る時、これが定説となっている。しかし、競技用ライフルを設計製造していたAIがいきなり軍用スナイパーライフルを開発するという展開は、少し無理がある。そこには何かミッシングリングがあるはずだ。そこに当てはまる資料を筆者は10数年前に床井雅美さんから見せて貰ったことがある。Pylon Industriesというプラスチック成型部品メーカーが開発したアルミシャーシにプラスチック外装を被せたストックの試作ライフルがかつて存在した。見せて頂いたのは、PMが登場するより以前に作られたそのライフルの製品資料で、その特徴はのちのAI製PMに限りなく似ている。Pylon Industriesはイギリス軍へ製品を納入する業者であった。このPylon IndustriesがAIと結びつき、PMが誕生したのではないだろうか。
いずれにしてもAIはイギリス軍から1,212挺のL96A1を受注、これを納入してスナイパーライフルメーカーとして歩み出した。この受注に前後して、競技シューターであるマルコム・クーパーは、1984年と1988年のオリンピック50mスモールボアライフル射撃3姿勢競技に2大会連続で優勝、300mライフル競技世界選手権を8回、ヨーロッパ選手権を12回優勝するなど、輝かしい実績を上げていった。
PMの改良型AW(Arctic Warfare)は1988年に登場した。そしてスウェーデン軍は長期に亘るテストの末、AWをスナイパーライフルPSG90として採用した。これ以降AIのスナイパーライフルはAWをベースとしたバリエーションが展開されていく。マグナム口径に対応するAWM、フォールディングストック仕様のF、サプレッサー仕様のAWS、.50BMGに対応するAW50などだ。
1997年、ドイツ連邦軍は.300Win MagのAWM-FをG22として採用、同年イギリス軍も.338 Lapuaマグナム仕様のAWMをL115A1として採用している。
しかし、1999年にAIの株式90%が投資グループに売却され、これ以降、同社の財務状況が悪化、2005年に倒産してしまった。その後、一部の役員によって事業再生がおこなわれ、AIは大幅に事業規模を縮小して再び動き出す。新生AIはアメリカ市場を重視し、製品仕様の見直しを図るなどして少しずつ復活に向けて歩み続けた。
2007年、イギリス軍がL115A3の採用を決めたことは、AIの完全復活を印象付ける出来事だった。これ以降、AIはスナイパーライフルの専業メーカー、およびライフルストックシステムのメーカーとして、実績を積み重ねている。2018年、USMC(アメリカ海兵隊)はスナイパーライフルをそれまでのM40A6からMk13 Mod7に変更することを発表した。これはレミントン700ロングアクションレシーバーをAIのAICS2.0ストックシステムに載せた.300Win Magのスナイパーライフルだ。
Photo&Report:Tomonari SAKURAI
Special Thanks: TR Equipement
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年6月号に掲載されたものです
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