2024/09/24
【ナイフダイジェスト WEB版】06 INTERVIEW:靍田雅彦(’22JKG大賞受賞者)インタビュー
こんにちは。「編集者&ライターときどき作家」の服部夏生と申します。
肩書きそのままに、いろいろな仕事をさせていただいていますが、ホビージャパン社からは、主に刃物に関するムックや書籍を出させていただいております。
そんなご縁もあり「刃物専門編集者」として、アームズウェブであれこれ紹介させていただこうと思います。
ベテラン作家による米マスターピースのレプリカ
今年のJKGナイフコンテストの審査も近づいてきた。どんな作品を拝見できるか楽しみでしかない。
2022年の「第37回JKGナイフコンテスト」大賞受賞作「ST-24 10インチ」を初めて見た時の驚きは、よく覚えている。
鍛造ナイフの巨匠、ビル・モランの代表作のレプリカ、という試み自体が面白かった。
しかも出来が、極上である。
エッジハードニングの跡がうっすらと浮かぶブレードの仕上がりは上々。ハンドルに施されたワイヤーインレイも独特の形状をしたシースもそつなくまとまっている。
手にすると思いの外の軽さで、手にしっくりと馴染んだ。
アートナイフである。だが、使えるナイフとしての一線は守る。明確な作り手の意思を感じた。
自力でひとつずつハードルをクリアしていく
「アメリカのヴィンテージスタイル。中でも実用を考えて作られた鍛造ナイフに機能美を感じるんです」
そう語る靍田さんは、ほぼ自力でナイフメイキングのキャリアを積み上げてきた。
作り始めたのは、昭和50年代はじめにまで遡る。
「渓流釣りをはじめたんですよ。熱中して山行に使えるような道具類を揃えていったのですが、それらも調べていくと奥深い」
その中の一つがナイフだった。国産のファクトリーナイフを手に入れたが、渓流釣りで使うには少々大きすぎた。そこで頭に浮かんだのが雑誌で読んだ古川四郎さんのナイフメイキングの連載だった。
「よし、自分でも作ってみよう」
古川さんの名作「カンザスシティ・メモリアル」のレプリカを作った。だが、オートバイのレースにも熱中していたこともあり、当初は自分用のナイフを作って満足していたという。
そんな靍田さんのナイフメイキングへの情熱が本格的に宿ったのは、熱処理と鍛造を始めたことからだった。
「近所の刃物屋さんで見つけた積層鋼を自分で熱処理しよう、と思いたったんです」
技術的な問題点は文献やインターネットにあたった。さらに、炉についても研究を始め、先人にノウハウを教えてもらいながらガス炉を自作した。
靍田さんの好奇心はそれだけにとどまらなかった。炉があれば素材を叩いてブレードをかたちづくっていく「鍛造」だってできる。ならば、鍛冶屋さんたちに技術を学ぼう。そう考えて、タケフナイフビレッジの鍛造教室に通い始めた。
その好奇心はさらに進み、動力ハンマーを手に入れることを考える。
「でも、機械式ハンマーだと、近隣の方々に迷惑がかかる。だったら油圧プレスを自作しようと思い立ったんです」
2010年のことだった。アメリカのサイトを検索して、DIYで作っている人たちの動画を閲覧し、文字は翻訳ソフトに通して仕組みを理解していった。さらには知り合いに相談して、海外から油圧シリンダーも取り寄せ、ついに、鍛造ナイフを自由に制作できる環境を作り上げた。
「オートバイの整備をやっていたから、機械いじりに慣れていたんですね」と本人はこともなげに語るが、普通では考えられないフットワークの軽さである。
目指すのは使いやすさと美しさの両立
「昔からランドールのナイフが好きなんです。中でもM11アラスカンスキナーの5インチモデル。個人的に『剣なた』がアウトドアでは非常に使いやすいと感じているのですが、それに通じるデザインで、なおかつ汎用性が高くて使いやすい。デザイン的にもまとまっている」
そんな靍田さんは大賞受賞作に限らず、毎回「その時のベストを尽くした」と自分で納得しながら作品を作り続けてきた。
だが彼方にある「理想とするナイフ」のイメージを追い求める日々はまだ、続く。
「よく切れるブレード、手に吸い付くようなハンドルデザイン、降りやすい重量バランス。それらを踏まえた上で素朴で美しいデザイン。用と美が両立しているナイフを作り出そうと思っています」
高いモチベーションと共に作られる靍田さんのナイフ。もし興味を持ったら、ぜひ、ショーやショップで手に取ってもらいたい。そのナイフはあなたが持つことで、完成するのだから。
And more!
今回登場したビル・モランやランドールの作品をはじめ貴重なアメリカンナイフマスターピースの数々がヒストリーと共に紹介された1冊。気になったらぜひこちらも手に取ってもらいたい。
今回のインタビューのフルバージョンは以下に掲載している。
刃物専門編集者の憂鬱 その22「作家インタビュー: 靍田雅彦」
こちらも併せてお目通しいただければ幸いである。
*ナイフはルールを守って安全に使用しましょう。
TEXT:服部夏生
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