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2024/09/10

【ナイフダイジェスト WEB版】05 INTERVIEW:シリーズ「ナイフ作家の”あの頃”」その1 古藤好視

 

 こんにちは。「編集者&ライターときどき作家」の服部夏生と申します。肩書きそのままに、いろいろな仕事をさせていただいていますが、ホビージャパン社からは、主に刃物に関するムックや書籍を出させていただいております。
 そんなご縁もあり「刃物専門編集者」として、アームズウェブであれこれ紹介させていただこうと思います。

 

古藤さん愛用の自作ナイフ。実用性だけでなく見た目的にもスッキリとまとまっている。(写真:小林拓)

 

古藤好視さんとフォールディングナイフ

 

 ナイフ作家として活躍する方々が、作家になった”あの頃”を振り返っていただくシリーズ。
 1回目にご登場いただく古藤好視さんは、JKG創設期から制作を続けるベテランのナイフ作家。そのナイフは、シンプルゆえの丈夫さとユーティリティ性の高さで、国内外で支持されている。
 古藤さんの趣味は渓流釣り。
 手がけるナイフも、自分自身が「釣ったその場でどんどん捌いていく際に、使いやすいナイフを」という基本姿勢から作り出されている。

 

「釣りが生活の中心にあります」と語る(写真:古藤好視さん提供)

 

ショーに参加して情報収集した”最初期”

 

「私がナイフを初めて作ったのは、中学2年生の時。直径5mmほどの鉄の棒をガスコンロで赤めて、ハンマーで叩いて、やすりで整形して、最後に焼き入れをしました。別に誰かに教わったわけではないですから『こうやればいいかな』と考えながら作りました」
 初めてのナイフ製作体験を、そう振り返る古藤好視さん。

 

治具も自作するなど独自の工夫を随所に凝らす


「子どもの頃から、ナイフは身近にありましたね。普段の遊びでも木や竹を削る時には、刃物は欠かせませんでした」
 ナイフは特別な道具ではなくて、日常の風景の中に普通に存在していた。

 3歳から始めていた釣りも「最初の手ほどきは、父親と祖父にしてもらいましたが、その後は、ひとりで水辺に行っては、あれこれ試しながら釣りに熱中していました」と言うように、一度熱中したらとことんまでのめり込む。
 そんな古藤さんにとって、「生涯の趣味」となった釣りに、必要不可欠な道具であるナイフ作りに、熱中するようになるのは、必然だったのかもしれない。

 

幼い頃からものづくりが好きだった。自分で工夫して良い結果が出ることが何よりも楽しかったという(写真:古藤好視さん提供)


「40年ほど前のことですから、まだナイフに関する情報がごく少なかった。狩猟雑誌に載っている記事や広告を見ながら、勉強していました。
 ナイフ愛好者の団体JKG(ジャパンナイフギルド)が創設されたことを知って、早速入会しました。JKGが主催するナイフショーは、私にとっては、ナイフを販売することより、地方在住では得ることのできないナイフにまつわる『情報』を得るために欠かせないイベントでしたね」
 そう笑う古藤さんだが、ナイフショーで作品が売れたことが、ナイフメイキングを続ける最大の理由になったという。
「それまでは、自分が使いたいものを作っていただけですけれど、それをいいと認めてくれる人がいるのだったら、より良いものを作っていこうと」

 

今も各地のナイフショーに積極的に参加している。人気で商品がすぐに売り切れになることも多い。写真は今年(2024年)のオールニッポンナイフショーでの一枚

 

実際に現場で使いながらデザインを固めていく

 

 本腰を入れた古藤さんが行ったことは、徹底的なフィールドテスト。
「すぐに傷んでしまうので、釣ったそばから魚を捌かないといけない」
 と言う渓流釣りで、持ち運びしやすく、素早く正確に使えるナイフを生み出すためのトライアルを重ねた。

 

LF80C(左=ブレード長:72mm ハンドル材:ウッド)/LF60C(右=ブレード長:54mm ハンドル材:スタッグ)
●商品問合せ:山下刃物店 他、全国有名刃物店(写真:小林拓)


その結果、完成した基本のデザインは、半月型に湾曲したブレードバックと直線的なエッジのシルエットになった。ポケットナイフの世界でワーンクリフと呼ばれるデザインに近いが、そこにはオリジナリティに溢れるアイデアが詰まっている。
「刃先が尖っている方が、魚の腹に刃を入れやすいのですが、上に湾曲していると、はらわたを傷つけてしまう。そこで、刃先を下に向け、さらにエッジが真っ直ぐにして一息に捌けるようにしました。ブレードバックが湾曲していると指も添わせやすいので、細かな作業にも向いています」
 チキリと呼ばれる出っ張りを指で押さえることで、刃を固定させるシンプルな機構でメンテナンスを容易にしたフォールディングナイフは、アウトドアのみならず、デスク周りでも使えるユーティリティの高さで、ひときわ人気を呼んだ。
 本業を定年退職したのちは、釣りを生活のベースにしながら、オーダーをこなしていく日々が続いている。

 

熱処理などを除いて、一人で可能な限り大量に生産する体制で価格をリーズナブルに抑えている(写真:古藤好視さん提供)

 

「海外では、子どもが最初に使うナイフとして、親が購入してくれることが多いようです」
 嬉しそうに話す古藤さん。子どもの頃に刃物に親しんでいたからこそ、ものづくりの楽しさ、アウトドアで遊ぶことの豊かさを、大人になってからも味わうことができている。
 そんな自身の経験があるからこそ、自分の作品が子どもに使われることに喜びを感じているのだろう。
「ハンティングに使うためのナイフなどもオーダーされています。自分のナイフが、アウトドアを楽しむために役立つのなら、と思いながら製作を続けていますよ」

 

 

And more!

 

 今回のコラムは『アウトドアナイフの使い方』に掲載した記事を再編集したものである。

 

アウトドアナイフの使い方 (ホビージャパンMOOK 1101)


 2021年8月に刊行した本だが、その名の通り、アウトドア全般で使う刃物について基礎的な知見が得られる一冊だ。
 興味を持っていただいたら、ぜひお目通しいただければと願っている。

 

*ナイフはルールを守って安全に使用しましょう。

 

TEXT:服部夏生

 

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